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執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農と食の周辺情報

沖縄の未承認組換えパパイヤ 道ばた調査は中止も真相は不明のまま

白井 洋一

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 国内の遺伝子組換え作物では最近ぱっとした話題がない。今回もどうでもいいような話なのだが、1月21日の当コラムで未承認組換えワタのことを書いたので、バランス上、未承認パパイヤについてその顛末をふりかえる。

沖縄で未承認組換えパパイヤを知らずに栽培
 農水省と環境省は2015年2月26日に、2012年から沖縄県で続けていた未承認組換えパパイヤの道ばたや空き地での調査を中止すると発表した。

 組換えセイヨウナタネ(カノーラ)がこぼれ落ちていないかどうかは、輸入港の周辺で長年調査を続けている環境市民団体の努力もあって、「今年も見つかった,去年より増えた、減った」と時折メデイアで報道されるが、「パパイヤでもこぼれ落ち?」と思う人もいるかもしれない。

 沖縄の未承認パパイヤ騒動の発端は2011年2月22日にさかのぼる。厚生労働省と農水省の研究機関は、当時まもなく輸入承認される予定のハワイ産組換えパパイヤ(リングスポットウイルス抵抗性、CP55-1系統)に備えて、果実や種子・苗での検出方法を開発していた。その方法を日本でパパイヤが栽培されている宮崎県と沖縄県の販売種子で試しにサンプリング検査したところ、ハワイ産とはちがう遺伝子配列が見つかったのだ。カルタヘナ法(環境への影響)だけでなく食品衛生法上も未承認の法律違反の系統ということになる。藪をつついたら蛇が出てきたようなものだ。

 その後の調査で、沖縄県では輸入した多くの種子からこの未承認パパイヤ種子が見つかり、実際に畑でも栽培されていたことがわかった。未承認組換えとわかったパパイヤは約8千株ですべて抜き取られ、県は代わりの苗木を無償で農家に提供した。

 パパイヤは樹木フルーツというイメージがあるが、沖縄では生食や漬け物用の野菜パパイヤとしても利用されている。種子をまいて半年後くらいから実がとれるが、3~4年で収穫量が墜ちるので、農家は数年で植え替えている。見つかった未承認株はすべて抜き取られ、新しく植える種子や苗木は組換え品種かどうか検査した後に使ったので、人間が管理する畑での問題は一応解決した。

 しかし、実を食べた鳥が種子を畑の外に運び、発芽する可能性もある。農水省と環境省は翌2012年から道ばたや空き地に自然にはえているパパイヤの調査を開始した。2012年は調査した69株のうち2株が未承認系統だったが、13年は40株、14年は25株でまったく見つからなかった。沖縄には交雑可能な野生のパパイヤは分布していないし、ウイルス病に強い外皮タンパク(コートプロテイン)を導入した組換えパパイヤが有害物質を出して環境に悪影響を与える可能性もない。これらの結果から、定期的な調査はやめることに決めたが、地元市町村には今後も自然にはえているパパイヤを見つけたら連絡してほしいとお願いしている。まずは妥当な判断だろう。
参考:組換えパパイヤのサイト(農水省消費・安全局)

製造元は不明のまま
 沖縄で栽培されていた未承認パパイヤの種子は台湾の種苗会社から輸入したものだ。しかし、輸入した「台農5号」という品種は組換え体ではなく、通常の交雑育種法で作られている。台湾では組換えパパイヤの研究開発がいくつかの大学、研究所でおこなわれているが、商業栽培や販売はしていない。台湾もけっこう組換え食品には神経質で、輸入トウモロコシやダイズの安全性承認や表示でも日本や韓国同様に国民の関心が高いので、病気に強いパパイヤとして堂々と商品化されていたとは考えられない。

 沖縄で検出されたのと同じ遺伝子配列をもつリングスポットウイルス抵抗性パパイヤが台湾の国立大学で開発され、実験中だが、これは台農5号と葉柄の色がまったく異なる別品種(台農2号)に導入されており、台農5号に導入したことはないという。販売した種苗会社も身に覚えがないようだ。不心得者が大学の組換え台農2号と台農5号を交配して、病気に強いパパイヤを作ったのだろうか? 沖縄の畑でまとまって約8千株見つかっているので、自然交雑による偶発的な混入によってできた種子ではないだろう。

 農水省の2月26日の発表ではこのことにはまったくふれていない。以前の発表(2011年4月21日)では今後の対応の最後に、「農水省は台湾当局と連携して、非組換え体である台農5号に、いかにして組換え体が混入したのかについて、原因の究明に取り組んでまいります」とあった。原因は分からなかったのか、それともまだ究明途中なのか、調査の幕引きにあたりなにか一言あってもよかったのでないか。

栽培用種子も海外依存
 道ばたでの調査はもうやめるという農水省・環境省の判断はよいことだ。輸入港周辺のこぼれナタネ調査のように、農水・環境両大臣が安全性を承認した系統でも2006年から毎年調査を続け、最近はトウモロコシのこぼれ種子にも調査の範囲を拡大しつつある農水省にしては珍しく常識的な判断だ。

 未承認は未承認、カルタヘナ法上は法律違反、それに社会的関心もあると農水省にも言い分はあるだろうが、もっと大事なことがある。穀物の輸入だけでなく、日本で栽培する野菜や飼料作物では海外の採種畑で採れた種子を輸入しているものが多い。人件費(労働力)や採種に適した気象条件などのためだが、輸入種子に組換え体がごく微量混入していても目くじらを立てていると日本で種まきできる作物がなくなってしまう。国内で品質の良い種子を安定して供給できる体制になっていないのだ。農水省は栽培用種子の国内自給率の実態も広く国民に知らせるべきだと思う。

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介