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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

除草剤グリホサートが効かない雑草問題 あまり報道されない真の原因と現場の対策

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2015年7月8日

 6月30日、米国農務省統計調査局は今年(2015年)の主要作物の作付け面積とトウモロコシ、ダイズ、ワタの遺伝子組換え品種の栽培割合を発表した。

 ワタ94%(前年比2%減)、トウモロコシ92%(1%減)、ダイズ94%(増減なし)で相変わらずバイテク作物のシェアは高い。ダイズは除草剤耐性品種だけだが、ワタとトウモロコシも害虫抵抗性を合わせ持ったスタック品種を含めると89%が除草剤耐性だ。2000年代後半から、除草剤、特にグリホサートの効かない雑草が米国農業の栽培上の大問題になっているが、除草剤耐性品種のシェアは減らない。バイテク反対派や懸念派が騒いでいるだけで、ほんとはそれほど問題になっていないのではと思う人もいるかもしれない。しかし問題は深刻で、有効な対策もないのだが、除草剤に代わって昔の機械による除草に戻れない事情もある。

グリホサートと他の除草剤併用が対策の主流
 グリホサートの効かない雑草問題は連邦議会でも取りあげられ、農務省や環境保護庁も行政主導の対策を検討するなど深刻な問題になっている。4月30日、農務省経済調査局は「トウモロコシとダイズ栽培におけるグリホサート抵抗性雑草管理対策の経済学」という調査レポートを出した。

 1996年の遺伝子組換え作物の導入後、グリホサート耐性品種が急速に普及した主な理由として5つあげている。(1)雑草防除が楽で、ほとんどの雑草を防除できたため農家がメリットをすぐに実感できた、(2)ダイズではグリホサート耐性以外の品種が商業化されなかった、(3)2000年にグリホサートの特許切れで安価なジェネリック版グリホサートが普及した、(4)害虫抵抗性(Bt)品種の抵抗性発達管理対策(非Bt作物を一定面積栽培するなど)のような予防対策をとらなかった、(5)メリットはすぐに出るが、デメリット(効果低下)は数年間でなかったため、農家や関係者に危機感がなかった。

 レポートではあげていないが、農家がすぐに実感できるメリットして、環境保全農業補助金もある。機械除草をしない(不耕起)、あるいは減らす(保全耕起)ことによって、農地の土壌流失を減らし、河川の水質浄化に役立つので、除草剤耐性作物は政府の環境政策からも支持されている。除草剤をやめて昔の機械耕起による雑草防除に戻ることは水質対策に逆行することになる。

 レポートでは、グリホサートに抵抗性を発達させた雑草の種子が、風や洪水で拡散し、近隣の農地にも拡散したことを問題が深刻化させた原因としている。キク科のケナシヒメムカシヨモギ(horseweed)やヒユ科のオオホナガアオゲイトウ(palmer pigweed)などで、抵抗性雑草が問題になっていない農家の畑にも種子が拡散し被害が出る。これは専門家もほとんど想定していなかった。農務省のレポートでは、「雑草の種子は他人の農地にも拡散する。グリホサートを使っている農家だけでなく、公共資材の認識をもって、地域単位での対策が必要」と強調している。地域共同の例として、アーカンソ-州 とノースカロライナ州の取り組みを紹介しているが、まだ一部地域の生産者団体による自主的な対策だ。

 実際には、グリホサートと耐性作物の販売メーカーであるモンサント社が進めている現実的対策がかなり普及しているようだ。グリホサート耐性品種を栽培するが、播種前や収穫後に他の殺草効果を持つ除草剤を使って、雑草の種子を農地に残さない、翌年まで生き残らせないという管理プログラムを作って農家を指導している。 面倒で手間のかかる作業だが、この対策が成功しているのは、プログラム通りに実行すれば、1エーカー(約0.4ヘクタール)あたり3ドル、キャッシュバックするシステムをとっているからだ(Farm Industry News,2013/03/11)

 キャッシュバック作戦は2009年12月に開始され、モンサント社のウェブサイトでも公表している。農家としても対策をとる必要は分かっていても、目に見える利益がないとなかなかやらない。研究者や行政が指導するより、こういった対策の方が効果があるようだ。と同時に、開発メーカーにとって、こういった手段をとらざるをえないほど問題は深刻だともいえる。

なぜ急速にグリホサート抵抗性雑草が問題になったのか
 今回の農務省レポートもそうだが、グリホサート抵抗性雑草問題ではあまり報道されないことがある。問題の真の原因はグリホサート耐性品種だけが急速に普及し、グリホサート散布に偏重した農地が増えたことだが、抵抗性発達の科学的なメカニズムについて詳しく説明されていない。

 グリホサートはアミノ酸のシキミ酸合成経路を阻害して植物を枯らす。グリホサート耐性の組換え作物は、この経路が阻害されない(感受性がない)遺伝子を導入したものだ。この遺伝子が導入されていない作物や雑草でも、グリホサートに感受性がない個体や突然変異によって感受性が低下する個体が生ずることもあるが、その頻度はごく低いため、グリホサートの効かない雑草が急速に増えることはないだろうと考えられていた。

 しかし、グリホサートの効果が低下する原因はそれだけではなかった。グリホサートを散布された植物が液胞(細胞小器官)の中にグリホサートを封じ込め、シキミ酸合成経路の作用点に届きにくくする場合があることがわかった。さらに、グリホサート抵抗性に関与する遺伝子が増幅(コピー数の増加)している個体がいくつかの雑草種で見つかり、これはグリホサート散布による選抜効果の結果ではなく、自然界にかなりの割合でもともと存在することも分かった。

 これらの新知見は2009年頃から発表され、現時点の最新知見として、ペストマネジメントサイエンス誌(2014年9号)「グリホサート抵抗性、現時点の知見(総説)」で発表されている。

 論文の著者はモンサント社の研究者だ。1つ1つの抵抗性メカニズムは弱く出現頻度も低いが、交雑によって複数の抵抗性メカニズムをもった個体が生まれると、相当量のグリホサートを散布しても枯れない強力な雑草種が誕生する。これが今までの知見や数学モデルで予測していたよりも急速に抵抗性雑草問題が深刻化した原因の1つだと述べている。

 グリホサートの効かない雑草として問題になっているのは現在、14種だが、特に交雑によって抵抗性が強力になるのは、雌雄異株のオオホナガアオゲイトウ、ハリビユ、waterhemp(tall amaranth)(和名なし)などヒユ科雑草だ。

 1つの抵抗性メカニズムだけでなく、弱いが複数のメカニズムが合わさるとやっかいな雑草になる。植物生理学、農薬化学だけでなく、生物の進化、適応といった面でも興味深い現象だが、農業現場ではきわめてやっかいな問題だ。グリホサート抵抗性雑草問題が深刻化し始めた頃、私はとりあえずグリホサート耐性品種の栽培をやめ、グリホサート散布を中止するのが一番の対策だと思ったが、現実にはそうもいかないさまざな事情があるようだ。グリホサートの効果がある雑草はまだ多く、環境への負荷も他の除草剤と比べて小さいので、トータルではまだマイナスよりもプラスの利益の方が大きいのかもしれない。

 5年前、あるセミナーで「若い農民は機械除草なんて面倒なことをいやがる。機械を売り払った農家も多い」と米国のダイズ、トウモロコシ栽培農家が言っていた。そのあとで、大学の研究者が「農家は自分の農地をいかに管理するか、もっと真剣に考えるべきだ」と強調していたのを思い出す。

 自分の農地だけをきちんと管理しても防げない問題もある。米国農業界が抵抗性雑草問題をどう克服するのか注目だ。

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