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農と食の周辺情報|白井 洋一

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農薬とミツバチ減少の関係 最近のヨーロッパの動き

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2015年8月19日

 ミツバチなどハナバチ類の大量死亡の原因はまだ解明されていない。ネオニコチノイド系殺虫剤がやり玉にあげられることが多いが、巣箱に寄生するダニや感染症など複数のストレス要因が重なったとき、蜂群崩壊症(Colony Collapse Disorder, CCD)が起こるというのが専門家の間では定説になっている。

 日本では働き蜂が巣に戻らず、幼虫や女王蜂がエサなしで巣に取り残されるCCD現象は起こっていないが、ミツバチが大量に死んだり、減ったりすると、「欧州連合(EU)ではネオニコ系殺虫剤を使用禁止にしたのに、日本はそのまま。日本も禁止すべき」という声があがる。そのEUで7月22日、英国が緊急対策としてネオニコ系農薬の使用再開を決めた

EUの禁止と今回の英国の決定
 EUは2013年5月にネオニコ系の3剤(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)を2013年12月から2年間、ヒマワリ、ナタネ、トウモロコシなどで使用禁止にした。しかし、科学的データからすんなり決まったものではなかった。3月の専門家会合では、賛成13、反対9、棄権5、4月の再会合でも賛成15、反対8、棄権4で、当時の加盟27国の3分の2以上(18)の有効票に達せず、最後は欧州委員会の権限で禁止にした政治的要素の強いものだった。

 英国は反対票を投じたが、「禁止の根拠とした科学データは認めないが、加盟国としてEUの決定には従う」と声明を出している(参考 2013年9月25日の当コラム)。

 英国が反対したのは、ミツバチ減少と禁止する3剤の因果関係がはっきりしていなかったことと、使用禁止にすると特にナタネで害虫が増え、代わりに合成ピレスロイド系殺虫剤を使うと、環境への悪影響がかえって大きくなると考えたためだ。

 2013-2014年シーズンにもナタネの害虫被害は見られたが、2014-2015年シーズンにはイングランドの一部地域で、ノミハムシ(cabbage stem flea beetle)とウイルス病を媒介するモモアカアブラムシが大発生したため、英国政府は生産者団体の要求を受け入れ、被害の大きい地域限定で、イミダクロプリドを除く2剤の暫定的使用(120日間)を認めた。

 今回の英国政府の決定に対し、拙速に使用禁止にした欧州委員会を非難する声とともに、反農薬や環境保護団体からは「ミツバチだけでなく訪花昆虫全体への影響は大きい。たとえ一部のナタネが減収になっても、ハナバチ類の重要性を考えるべきだ」と決定を非難する動きも大きく、使用解除差し止め裁判のうごきもでている。

 英国の農業紙(Farming UK)によると、今年の英国のナタネの平均収量は3.5~3.7トン/ヘクタールで、平年値の3.4トンよりも多い。ノミハムシなどの被害で一部地域では平年より収穫量が減っているのは事実だが、ネオニコ系農薬が使用できなかっただけでなく、気象要因の影響も大きいのではないかという専門家の分析を紹介している。

 EUの使用禁止は2015年11月末で期限が切れるが、その後どうなるのか?  欧州食品安全機関(EFSA)は5月22日、加盟国に対し、禁止期間中のミツバチ類の動向を含め、さらなる情報を提出するよう要請した。締め切りは9月末で、12月以降の再判断にどう影響するのか注目される。

 英国の例でもわかるように、気象要因が絡んでいる場合、2年間のデータだけからネオニコ系殺虫剤とハナバチ類の因果関係を立証するのは困難だろう。使用禁止によるナタネの減収はドイツでも報告されているが、ドイツは使用禁止を解除していないし、凍霜害による影響も大きいと業界紙(Agrimoney.com)は伝えている。

 今のところ、英国の決定に追随する国はなさそうだが、この2年間で因果関係を決定づけるような新知見、論文は出ていないので、見直しの判断はもめるかもしれない。たとえ12月以降も禁止継続、延長となったとしても、EUの禁止は2013年の始まりから、科学的ベースより、政治色の強いものだったということをおぼえておきたい。

 なお、今回の英国政府の決定について、サイエンスメディアセンターが、農業環境技術研究所と国立環境研究所の研究者の専門家コメントを紹介している。両人ともリスクとベネフィット分析の専門家で、その立場からのコメントだが、併せて参照してください。

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