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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

ミツバチ減少の原因 複合ストレス説を示唆する論文

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2015年9月2日

 前回(8月19日)の当コラムで、「ミツバチの大量死亡の原因はまだ解明されていない。ネオニコチノイド系殺虫剤だけでなく、寄生ダニや感染症など複数のストレス要因が重なったとき、蜂群崩壊症(Colony Collapse Disorder, CCD)が起こるというのが専門家の間では定説になっている」と書いた。

 ネオニコ系殺虫剤を室内実験でミツバチに与えたら、死亡率が上がったり異常行動が増えたという論文はニュースになるが、複数のストレス要因を考慮した研究はメディアでは取り上げられないので、具体的にどんな要因が重なると、ミツバチコロニーに悪影響が出るのかはあまり知られていない。今回はNature Newsや欧米の農業紙で取り上げられた複合要因に関する論文をいくつか紹介する。いずれも日本のメディアは配信しなかったようだ。

考えられる複合要因は多い

 2014年4月16日の当コラム「ネオニコチノイド系殺虫剤とミツバチ減少の関係 クロかシロかはっきりしない理由」で、ネオニコ系殺虫剤以外に考えられるストレス要因として11例をあげた。
1.寄生ダニ
2.微胞子虫(ノゼマ)による感染症
3.けいれんを起こすウイルス病
4.幼虫に感染する細菌病、腐蛆(ふそ)病
5.巣を加害するコウチュウ類(ケシキスイ科)
6.ミツバチ品種の遺伝的単純化(女王蜂の供給源が限られているため)
7.輸送によるストレス(米国では巣箱をトラックに積んで長距離移動する例が多い)
8.花蜜植物の減少(農地化や宅地化による生息地の消失)
9. 花蜜植物の単純化(同じ作物や植物の花蜜だけでは栄養バランス不良になる)
10.気象、特に冬期の異常低温
11. ネオニコチノイド系以外の殺虫剤(有機リン剤、合成ピレスロイド剤など)

 CCDは働き蜂が巣に戻れなくなる、帰巣行動に異常を起こす症状なので、室内実験で2つないし3つの要因を組み合わせて実験し比較するのは難しいが、総説論文を含め、複合要因解明の手がかりとなる論文が発表されるようになった。

寄生ダニと微胞子虫(ノゼマ)の影響
 2014年6月23日、PLoS ONE に「寄生ダニ(Varroa destructor)、と微胞子虫(ノゼマ)が存在しない場所でのミツバチの健康状態」というカナダ、米国、スイスの共同研究が載った。ノゼマとVarroaダニはどちらもミツバチに寄生する強いストレス要因だが、いずれも侵入生物だ。これらの侵入寄生者が存在しないカナダのニューファンドランド島のミツバチ集団を調べたところ、Black Queen Cellウイルスや奇形翅ウイルスの感染率は70~90%と高いものの、外見では異常が見られず、標準的な指標では健康的なコロニーと判定された。ノゼマや寄生ダニという強力な寄生者がいなければ、他のウイルス病には抵抗力があることを示唆する論文だ。
 論文

 もう一つも2015年5月27日、PLoS ONEに載った「ノゼマ(微胞子虫)は幼虫にも寄生し、羽化した成虫を短命にする」という米国の研究。ノゼマはミツバチの成虫にだけ寄生感染すると考えられていたが、幼虫にも感染する。幼虫の生存率には影響しないが、生き残って羽化した成虫の寿命は4~5日短くなるという内容で、ノゼマの重要性を改めて強調した。
 論文

エサ条件と殺ダニ剤の影響
 2014年12月、Journal of Insect Physiology(昆虫生理学誌)に載った「殺ダニ剤暴露とエサ条件の相互関係のゲノム解析」という米国の研究。寄生ダニを駆除するため、巣箱にはクマホス(有機リン系)やフルバリネート(ピレスロイド系)などの殺ダニ剤が使われるが、これらはミツバチの免疫反応にも少なからず影響する。しかし、ダイズタンパクなどの人工エサではなく、自然の花粉が豊富なエサを与えると、殺ダニ剤への抵抗力が増すというもので、殺ダニ剤とエサ条件の劣化が複合ストレスとなる可能性を示唆した。
 論文

 エサ条件の劣化では、2015年4月8日、PLoS ONE に「幼虫期のエサ不足によって羽化した働き蜂の採餌行動と定位行動が阻害される」という論文が載った。米国の研究で、幼虫期に花粉エサを十分に与えないと、羽化した成虫は小型で寿命も短くなる。行動にも異常が目立ち、正確にエサを探すことができず、尻振りダンスも異常で、巣に戻れなくなる可能性を示した。
 論文

悪循環か 未熟な若い働き蜂の死亡
 2015年2月9日、米国科学アカデミー紀要に載った「急速な行動成熟はミツバチコロニーの崩壊を加速する」という豪州と米国の研究チームによる論文。働き蜂はふつう羽化後2~3週間してから採餌行動を始めるが、なんらかの原因(エサ不足や寄生感染など)で成長した働き蜂がいなくなると、まだ未熟な若い蜂が代わりにエサを取りに外へ出る。しかし、最初の飛翔で死亡する個体が多く、採餌効率も悪いため、ますますコロニーの崩壊を加速する。複数のストレス要因を示した研究ではないが、大人の働き手がいなくなり、代わりに未熟な子供が外に働きに出て、ますます悪循環に陥るというのでは悲劇だ。
 論文

総説論文
 2015年3月25日、Science誌に載った「ミツバチの減少は寄生病菌、農薬、花蜜植物不足などの複合ストレスによって起こる」という英国サセックス大のGoulsonらの総説。170本の論文を整理し、「ミツバチのストレスは単独で作用するのではない。農薬暴露は蜂の無毒化機能や免疫反応に影響し、寄生虫の影響を受けやすくなる可能性がある。複数の相互に影響するストレス要因に慢性的に暴露されると、ミツバチのコロニー消失や野生ハナバチの減少を引き起こすのは確かなようだ。しかし、そのような相互作用を実験的に研究することは難しいし、現在の(農薬を含む)規制法では対応できない。現時点では、個々のストレス要因を軽減する対策をとることが賢明であろう」と述べている。
 論文

研究者も勉強不足

 総説を含め6本の論文を簡単に紹介したが、寄生ダニ、微胞子虫、エサ条件の劣化、巣箱の衛生管理不良、殺ダニ剤などが複合的なストレス要因になっているようだ。もちろん、農作物の害虫防除に使うネオニコチノイド系を含む殺虫剤もストレス要因の1つとして関与する場合があることは否定できない。

 2015 2015年6月25日、EFSA(欧州食品安全機関)はミツバチの複合ストレス要因の解析研究プロジェクトに着手したが、複合要因の組み合せによる実証実験ではなく、数学モデルからの推定が中心のようで、どれだけはっきりした結論が出せるのか、あまり期待できそうにない。

 最近(2015年8月20日)、Scientific Reportsに「ナタネ種子へのネオニコチノイド殺虫剤の粉衣処理による花粉媒介生物(ハナバチ類)への負荷と農民の利益の証明」という論文が載った。英国のイングランドとウェールズで11年間の殺虫剤使用量、ナタネの収穫量、ミツバチコロニーの健全度に関するデータを統計解析したものだ。論文タイトルはネオニコチノイドだが、チアメトキサムとクロチアニジンは2010年からの使用なので、2002年から使用されているイミダクロプリドとの関係の解析が中心だ。ネオニコ殺虫剤の種子粉衣は予防的な防除で、その後の葉への殺虫剤散布を減らし、農民には便利さと収益性でメリットがあるという経済性を考慮した論文だが、イミダクロプリドの使用量の増加は、ミツバチコロニーの健全度にとっては明らかに有害影響を与えていると結論している。コロニー健全度には、天候や地域ごとの地理的条件(周辺の花蜜植物の分布量など)も影響していると述べているが、残念ながら、寄生ダニや感染症との関係には触れていない。コロニー健全度の指標に用いた全国調査が、コロニーの消失要因を詳細に区分していないのでやむを得ないが、今回の統計解析では、イミダクロプリド使用量とミツバチコロニーの消失にはマイナスの相関関係が認められたことになる。
 論文

 一方、ネオニコ系殺虫剤に暴露されても、寄生感染者が存在しないか、あるいは良質なエサを与えれば、殺虫剤による悪影響は軽減されるといった研究は現時点では発表されていないので、この論文でネオニコ系殺虫剤単独犯説は勢いづくかもしれない。しかし、もし研究者がネオニコ単独犯説を唱えるのなら、今回紹介した6本の論文なども読んだうえで自説を主張してほしい。先日(8月1日)も、昆虫科学連合の主催する日本学術会議の公開シンポジウムで、現役の東大教授が「農薬汚染、ネオニコチノイドによるミツバチ大量死」と平然と言い放っていたのを聞いてあ然としてしまった。社会に混乱を引き起こしているのは、反農薬の市民団体や一部のメディアよりも、無邪気で勉強不足の研究者たちなのかもしれない。

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