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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

デング熱 今年の国内感染はゼロだったが

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2015年10月28日

 まもなく10月も終わる。今年の秋は平年並みの涼しさで、デング熱を媒介するヒトスジシマカの活動時期も終わるので、デング熱の国内感染はゼロですみそうだ。

 昨年8月、東京・代々木公園で蚊に刺された人がデング熱にかかり、70年ぶりの国内感染と大騒ぎになった。熱帯・亜熱帯の流行地域以外で、短期間に160人も患者がでた例は珍しく、海外の専門家からも注目された。

 私は昨年末(2014年12月24日)の当コラム「デング熱流行をふりかえる さて来年は?」で、2015年も国内感染が起こる可能性は高いと書いたが、幸いにも予想は外れた。2014年のデング熱感染は一過性の特殊ケースだったのだろうか?

国内感染のリスクは変わらず高い
 国内感染とは流行地で感染したデング熱ウイルス保毒者が日本に帰国か入国し、ヒトスジシマカに刺され、その蚊が別な人を刺して発症することだ。人から人への直接感染はなく、蚊が唯一の媒介者だ。2015年も国内感染はあるだろうと考えたのは以下の理由からだ。

 (1)2013年夏にも、山梨県などを観光したドイツ人旅行者が蚊に刺され、帰国後デング熱と診断された。この旅行者は前後にデング熱流行国には行っていなかった。
 (2)2014年の日本の発生でも、患者の多くはウイルス1型だったが、一人は2型で、少なくとも別々に2回の国内感染があった(デング熱ウイルスは1~4型の血清タイプがある)。
 (3)帰国後に感染が確認された国外感染者の数は2011年から2014年で、順に113人、221人、249人、179人で2014年が特に多かったわけではない(2015年は10月11日現在、239人の国外感染が報告されており、最終的には過去最高となりそう)。
 (4)国外感染者数は帰国後、異常を感じて病院に行き、陽性と判断された人の数であり(デング熱は4類感染症で陽性の場合、医師は報告する義務がある)、海外からの旅行者が日本の病院で診断を受けた例は少ないと考えられる。最近は円安効果もあって、台湾、タイ、中国南部などデング熱流行地からの観光客も急増しているので、ウイルス保毒者の入国数も当然増える。

参考 国立感染症研究所・感染症発生動向調査週報(2015年10月11日現在)

2011~2014年の届け出数

東南アジアの流行はエルニーニョと関連あり?
 昨年のデング熱騒ぎで、温暖化の影響だ、日本でもデング熱の発生が増えると心配する向きもあるが、温暖化直接原因説は疑わしい。熱帯、亜熱帯の流行地でも、年や季節によって患者数にかなり変動があり、気温や降水量との相関関係もはっきりしていない。高温はネッタイシマカの繁殖やウイルスの増殖には好適だが、雨が少ないと蚊の幼虫(ボウフラ)は増えないし、あまりに雨が多いと、たまり水も流されてボウフラの繁殖には不利になる。

 2015年10月9日、米国科学アカデミー紀要に「東南アジア8国のデング熱発生パタンの広域解析」と題する論文が載った。

 米国やフランスなど国際チームによる調査で、1993~2010年の東南アジア8国(タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナム、ラオス、カンボジア、台湾)のデング熱患者記録(約350万症例)と気象データ(気温)の関係を分析したものだ。

 おもに2つのことが分かった。8国のいずれでも、1997と1998年に患者数がもっとも多く、この年はエルニーニョの強い時期だった。エルニーニョが終息に向かった2001、2002年には患者数は減少に転じた。エルニーニョとは、太平洋赤道域東部(ペルー沖)の海面水温が一時的に数年間上昇する現象だが、エルニーニョの年には東南アジアでは高温になる。調査した東南アジア各国でのデング熱患者数は年によって変動し、その原因は今まではっきりしなかったが、今回の広範囲の大量データ解析から、エルニーニョとの関連性がもっとも高いと論文では強調している。

 もうひとつわかったことは、デング熱は都市部から周辺の農村部に広がっていくことだ。これはタイ西部、ラオス中部、フィリピン南部の大都市とその周辺地域の患者数の時間的変化によって示された。デング熱の患者はブラジルやタイでも、都市部の住宅地の水たまりや不衛生な環境が原因という報告は今までにもあったが、人口密集地の大都市で感染したウイルス保毒者が地方に旅行したり、帰郷することで感染が広がるのではないかと推論している。

蚊の駆除は大事だが
 論文では、エルニーニョとの相関関係から、今後のデング熱流行の予測に役立つと強調している。エルニーニョは昨年(2014年)夏頃から活発化し、今年夏の世界的高温の原因ともいわれており、来年春頃まで続くと予想されている。

 熱帯、亜熱帯地域からウイルスを保毒した人が日本に帰国、入国しても、ヒトスジシマカの活動していない晩秋から春までなら心配することはない。蚊に刺されなければ感染しないからだ。しかし、7~9月の蚊の繁殖期には国内感染のリスク(確率)は高くなると考えたほうがよい。

 今年の国内感染がゼロだった理由はわからないが、東京都をはじめ自治体は蚊の駆除作業をかなり徹底してやったようだ。東北の仙台市でも「6月から10月まで公園で定期的に調査し、藪や水たまりの消毒を徹底する」(河北新報2015年6月12日)と報じている。東京都港区は今年と10年前(2005年)のヒトスジシマカ個体数と公園や墓地の外観を比較した。個体数調査は6月から9月に同じ方法でやったが、今年のヒトスジシマカの数は10分の1以下だった。2005年の調査地の写真と比較すると、樹木の伐採やせん定が徹底し、ヤブカの住み場所が減り、墓石の花立てや水受けも排水したり、殺虫剤散布がおこなわれていた。
衛生動物学会東日本支部大会報告(2015年10月23日)

 デング熱対策は蚊に刺されないことが第一なので、自治体が公園や墓地のボウフラの繁殖する場所を駆除することは大切だ。中には噴水の水を抜いたり、池の水草も刈り取ってしまった自治体もあるようだが、ヒトスジシマカはたまり水に卵を産み、繁殖する。流水や魚や鳥が泳ぐ池では繁殖しない。エサ場やねぐらを奪われた水鳥たちはいい迷惑だったろう。

 国内感染のリスクは依然として高く、デング熱は2014年一年だけの出来事ではないのだが、過度に警戒しすぎず、来年以降も効果的な地道な対策を続けていく必要がある。

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