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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

グリホサート発がん性、ビスフェノールA禁止、ネオニコチノイド、2015年のその後をふりかえる

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2015年12月23日

 今年もあとわずか。2015年に当コラムでとりあげた話題のうち、その後動きのあったものを追跡する。

●「侵略的」に代わり「生態系被害防止」外来種

 環境省は生態系に被害を及ぼすおそれのある外来種のリストを公表し対策にのりだした。最初は「侵略的」外来種リストと呼んでいたが、リストには害虫や雑草、ブラックバスなどのほかに、牧草やニジマスなど長年、農林水産業に利用されている種も含まれていたため、関係業界から「侵略的」という言葉はイメージが悪い、使わないでくれと強い抗議があがった。

 2月12日の検討会で座長は「侵略的は産業界の要望もあり使わない。代わりにIASリストでどうか」と提案。IASとはInvasive Alien Speciesの頭文字で、和訳すれば侵略的外来種だ。すったもんだの挙句、座長は第2案の「生態系被害防止」を提案し、これに落ち着いた。私は「愛知目標」外来種リストが良いと思ったが、あとで担当者に聞いたら、「それも考えたんですが、愛知目標の認知度が低いので採用しなかった」とのこと。その後の新聞記事では侵略的という略称は消えたが「生態系被害防止」を使う例はほとんどなく、たんに外来種リストという表現が多い。難産の末できた新略称はメディアや社会に広まるのだろうか。
  1月7日 ネーミングが大切 侵略的改め○○外来種?

  3月26日 環境省発表 略称は「生態系被害防止」外来種リスト

●ビスフェノールA フランス使用禁止にしたが輸出は認める

 一時、内分泌かく乱作用の可能性が疑われたビスフェノールA(BPA)。 欧州食品安全機関(EFSA)は許容基準値(体重1キロあたり4マイクログラム)以下なら問題なしとしたが、フランスは量に関係なくBPAを使った容器を全面使用禁止にした。これに対し、フランスのプラスチック容器業界は決定は科学的根拠なしと訴え、フランス憲法評議会は9月17日、フランス国内での販売や輸入は禁止するが、欧州連合(EU)各国への輸出は認めるという判断を示した。業界が求めた科学的根拠には触れず、フランス政府の顔をたてる一方で、輸出業者にも配慮した苦肉の裁きで、最終決着はまだついていない。科学的な安全性の問題というより、政治主導で禁止にすると後々混乱する例の一つと言えるだろう。
  2月4日 環境ホルモンその後 ビスフェノールAはどうなった?

  9月21日 フランス司法 輸出は認めるが輸入と国内使用は禁止

●国際がん研究機関のグリホサート発がん性をEFSAは否定

 国際がん研究機関(IARC)は3月20日、除草剤グリホサートを「おそらく発がん性の可能性がある」グループ2Aにランク付けした。同時に有機リン系殺虫剤(マラチオンとダイアジノン)も2Aにランク付けたが、グリホサートだけが大きな話題になった。IARCの評価は世界各国の審査機関のこれまでの評価と異なるもので、多くの疑問と批判を浴びたが、環境市民団体からは歓迎された。11月12日、EFSAは10年ごとの再評価をおこない、グリホサートは使用基準を守って使えば発がん性の問題はないと従来通りの見解を発表した。IARCのランク付けについては、向こうは使用量など考えず発がん性の有り無しを指摘したハザード(危害)ベースの解釈で、EFSAは使用頻度、ばくろされる確率などを考慮したリスクベースの解析結果だと、評価方法の違いを強調した。

 専門家はこれで納得するかもしれないが、モンサント社のグリホサートを標的にした反農薬団体は当然おさまらない。「EFSAは世界でもっとも権威のある国際機関の決定を否定し、産業界の圧力に屈した」と批判し、これに同調するメディアの記事も多い。日本の安全行政を担当する機関や良識派の学者、ジャーナリストも当惑しているのではないか。いつもは「ネット情報やいい加減な論文に惑わされず、権威ある国際機関や論文の情報を信じなさい」と言っているのだから。IARCは権威ある国際機関だ。向こうはハザードベース、こっちはリスクベースでといってもわかりにくい。今回の騒動はIARCの失策だ。 8月5日の当コラムで指摘したように、IARCは人やネズミの発がん性の判定に、植物、昆虫、魚類などへの影響を調べた論文も大量に引用して、総合判断で発がん性ランク付けをしたのだ。この手法がおかしい、だからIARCの発表は評価に値しないのだが、IARCを真っ向から批判する見解を出した公的機関はないようだ。

  4月15日 国際がん研究機関(IARC) グリホサート発がんランク付け

  8月5日 IARCは根拠情報を公開したが

  11月12日 EFSA発表

●牛豚肉の原産国表示 WTO訴訟で敗訴した米国 報復関税は年間10億ドル

 米国は牛豚肉の輸入品に、出生国、肥育国、と畜国の表示を義務付けた原産国表示法(COOL)を2009年に施行した。しかし、国境をはさんで肥育、精肉が米国との分業体制になっているカナダとメキシコは、複雑な表示制度は輸出を阻害すると世界貿易機関(WTO)に訴え、5月18日に米国の敗訴が確定した。米国下院議会は肉類のCOOL廃止を決めたが上院では決定が遅れる中、カナダ、メキシコはCOOLを廃止しなければ、肉類だけでなく他の産物にも報復関税を課すと強硬姿勢を崩さなかった。

 12月7日、WTO紛争処理委員会は報復関税額の仲裁案を示した。両国は年間32億ドルを要求したのに対し、米国は9100万ドルが妥当と大きな開きがあったが、仲裁案はカナダに7億8100万ドル、メキシコに2億3000万ドル、計10億1100万ドルを提示した。報復関税の対象は肉類だけでなく多くの農産物、工業製品に及ぶため、米国も慌てた。12月議会の包括予算案審議にCOOL廃止も加えられ、上下両院でようやく可決成立する見通しで、報復関税はなんとか避けられそうだ。消費者の知る権利と米国産品をアピールするために導入されたCOOLだが、市場や物流構造の実情を無視した制度を作るとこうなるということで、米国の対応は最後までお粗末だった。

  5月27日 食肉の原産国表示 WTO訴訟で米国敗訴

  12月7日 WTO紛争処理委員会

●ネオニコチノイド系殺虫剤 ヨーロッパの使用禁止 2年たったが動きなし

 ミツバチなどハナバチ類の大量死の原因としてやり玉にあげられたネオニコチノイド系殺虫剤。EUはネオニコ系3剤(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)をヒマワリ、ナタネ、トウモロコシなどで2013年12月から2年間、暫定的に使用禁止にした。2015年12月で期限が切れるため、EFSAは9月末締め切りで各国に2年間の報告を求めているが、今後どうするかの指示はまだ出されていない。7月に英国が一部地域でナタネにノミハムシやアブラムシが多発したため、イミダクロプリドを除くネオニコ2剤の120日間の緊急使用を決め、フィンランドでも来春、ナタネで一時的使用の動きがある。ミツバチ大量死は農薬だけでなく、寄生ダニや感染症、花蜜栄養源の劣化など多くの要因が絡んでいるので、禁止を継続するか解除するかの判断は難しいものになるだろう。

  8月19日 農薬とミツバチ減少の関係 最近のヨーロッパのうごき

 

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