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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

英国と欧州連合 ネオニコ系殺虫剤禁止でも熱い闘いだった

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2016年6月22日

英国が欧州連合(EU)から脱退するのか、6月23日の国民投票が注目されている。争点は東欧圏からの移民労働者の増加や経済上の不利益のようだが、農業や環境、食の安全でも英国はしばしばドイツ、フランス主導のEUの決定と対立してきた。前回の当コラムで紹介したネオニコチノイド系殺虫剤禁止でも、英国は政府機関の調査データを出してEUと欧州食品安全機関(EFSA)の決定に対抗したが、対象はミツバチではなくマルハナバチだった。

マルハナバチをめぐる論争
マルハナバチはミツバチと同じように女王バチや働きバチがいる社会性昆虫だが、ミツバチ類のような大きなコロニーは作らない。コロニー内にハチミツも貯えるが、量が少ないのとあまり甘くないので人間に利用されることはない。人間はもっぱら作物の受粉を助ける花粉媒介昆虫としてマルハナバチ類を利用している。日本では輸入したセイヨウオオマルハナバチがトマト栽培のハウスから逃げ出して、在来の野生マルハナバチ類と交雑するという問題も起こっている。

2013年1月にEFSAは3つのネオニコ系殺虫剤(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)はミツバチに対して重大な悪影響の可能性があると指摘したが、3月末、英国食品環境研究庁(FERA)は反論レポートを提出した。野外調査ではネオニコ系殺虫剤の残留量とマルハナバチのコロニーサイズや女王バチの生存には関連がないというもので、英国環境食料農村地域省(DEFRA)もこれを支持した(Nature News (2013/03/28)、「英国政府の研究、ネオニコ系殺虫剤とハナバチ減少の因果関係に疑問」)。

欧州委員会は4月末、ネオニコ系3剤の禁止を採決し、賛成15、反対8、棄権4国で有効票の3分の2には達しなかったが、委員会の専決決定(デフォルト)で2年間の禁止を決めた。英国の研究については6月にEFSAが「英国の研究は調査地、比較対象などに欠陥がある。我々はミツバチとネオニコ系殺虫剤の関連に注目しており、マルハナバチは大きな問題ではない」とほぼ一蹴している。

英国政府の研究はデータの取り方、統計検定のやり方に問題ありとの指摘は、2015年3月に英国サセックス大の研究者からも出ている。統計検定の方法を変えれば、有意な負の相関がある、あるいははっきりした相関はないというどちらの結論も導き出せるという内容だ(Nature News (2015/03/26)「ネオニコ殺虫剤マルハナバチに影響なしとする英国の研究に疑問を投げかける」)。

最近のマルハナバチ関係の論文
欧米ではミツバチだけではなく、マルハナバチ類も減少傾向が続いている。ミツバチとネオニコ系殺虫剤、あるいは感染症などとの関係が注目される中で、マルハナバチ減少の原因に関する論文も増えてきた。最近、欧米のメディアがとりあげた論文を紹介する。

●クロチアニジン ミツバチの学習能力には影響するがマルハナバチには影響なし
Proceedings of Royal Society of London(2016/03/14)に載った英国サセックス大の研究で、クロチアニジンとノゼマ微胞子虫を処理したマルハナバチとミツバチの学習行動を比較した。クロチアニジンはミツバチには悪影響があったが、マルハナバチには影響なし。ノゼマはどちらにもわずかな悪影響があったが、殺虫剤とノゼマによる相乗作用はどちらにも見られなかった。EUがネオニコ系殺虫剤の再評価をする場合、ミツバチ、あるいはマルハナバチのデータだけから全体の規制をすべきではないと警告している。
論文

●マルハナバチ 剤によって有害度異なる
Scientific Reports( 2016/04/28)に載った英国ダンディー大の研究で、マルハナバチの行動やコロニーサイズへの影響をネオニコ系3剤で調べた。イミダクロプリドとチアメトキサムでは悪影響があったが、クロチアニジンでは見られなかった。この論文もネオニコ系農薬と一括りにせず、殺虫剤ごとに評価すべきと主張しているが、殺虫剤を混ぜたシロップ液を直接摂取させており、野外条件を反映していないのではという批判も出された。
論文

●北米のマルハナバチ減少 侵入したノゼマ微胞子虫が原因か

米国科学アカデミー紀要(2016/04/04)に載ったイリノイ大などによる研究で、近年、北米で野生マルハナバチが減っているのはヨーロッパから輸入した商業品種のマルハナバチとともに侵入したノゼマ微胞子虫が原因ではないかを検証した。輸入は1990年代から増えたが、1980年から2011年に採集され博物館に残っている野生マルハナバチ標本から、ノゼマ微胞子虫の遺伝子(DNA)を解析した。4種のマルハナバチのうち、3種ではノゼマに感染した割合が、1995年頃から増加しており、導入したマルハナバチのノゼマ病大発生時期と一致していた。しかし、侵入種のノゼマは商業用マルハナバチがヨーロッパから輸入される前から、低頻度ながら北米で見つかっていたので、今回の研究から、商業品種とともに新たなノゼマ病が拡大したとは断定できなかった。米国のメディアでは最後の結論は無視して、「輸入マルハナバチが感染症を拡大させた」という見出し記事がいくつかあった。
論文

●野生ミツバチがバロアダニに感染しないのは大きな巣を作らないから
PLoS ONE(2016/03/11)に載ったコーネル大の研究で、マルハナバチではなく、野生のセイヨウミツバチの生態を家畜化された商業ミツバチと比較した。野生のミツバチの巣は小さく、早く巣別れ(分蜂)して別の集団を作り、これがバロアダニに感染してもダニが高密度になるのを防いでいる。前回のコラムで紹介した、バロアダニの感染は高密度、過酷条件でのミツバチ飼育が原因という人災説とも一致する。人間の都合の良いように改良し家畜化することによる宿命ともいえるが、考えさせられる論文ではある。
論文

EUを離脱したら農薬や遺伝子組換え作物の承認はどうなる?
英国がEUから離脱し、自国の判断で農薬や遺伝子組換え作物の承認ができるようになったらどうなるのだろうか? グリホサート除草剤やネオニコ系殺虫剤をすぐに承認するのだろうか? 英国は遺伝子組換え作物の栽培にもドイツ、フランスなどよりずっと前向きだ。1999年から2006年までグリホサート耐性の組換えダイズを10万ヘクタール規模で栽培していたルーマニアは2007年にEUに加盟したことにより、EU未承認のため商業栽培ができなくなった。英国は除草剤耐性のビート、ナタネには導入メリットありとみており、EUの決定に縛られなくなれば自国のみで栽培承認する可能性がある(もっともスコットランドなど大英帝国内でのバトルも予想されるが)。

たとえ6月23日の投票で離脱となっても、離脱が正式に成立するには20国の承認が必要で、承認されない場合は離脱通告から2年間待たなければならないので、すぐに状況は変わらない。また、残留となっても科学ベースで判断した安全性の評価結果を政治投票で決める、それも賛成でも反対でもなく、棄権に回る国の動向に左右されるというシステムが続く限り、農薬や遺伝子組換え食品・作物の承認の混乱、迷走は続くだろう。この複雑なシステムが理解されず、「EUは○○を禁止にした、○○の栽培を承認していない」と日本では報道される。今回の英国離脱問題はさておき、政治投票で食や環境の安全性を決める制度は早急に改めてもらいたいものだ。

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