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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

バイテク業界再編成の中、組換え小麦はどうなるか

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2016年9月21日

遺伝子組換え作物の開発、販売はバイテク大手6社がほぼ独占しているが、昨年から6社の合併話が進んでいる。 バイテク6社とは、モンサント(本社米国)、デュポン(米)、シンジェンタ(スイス)、バイエル(独)、ダウ(米)、BASF(バスフ)(独)だが、2015年12月にデュポンとダウが対等合併で合意し、今年2月にシンジェンタが中国の国営企業、中国化工集団(ChemChina)に買収された。そして9月14日、バイエルがモンサントを買収することで合意し、日本でもメディアが大きく報道した

しかし、いずれの縁談も本人同士は承諾したのに、国際社会が許さず破談の可能性もある。米国、欧州連合、南米などではそれぞれ独占禁止法に触れないか審査され、米国では海外企業との合併により国家安全保障に問題が生じないかの審査があるため、先発の2組の縁談もまだ正式に承認されていない。米国の農業紙(Delta Farm Press 9月15日)によると、今回のモンサントとバイエルの婚約話を受けて、個別に3組の縁談を審査するのではなく、3つのメガグループに種子や農薬が独占されることの影響をまとめて審議すべきという声が議会から上がっている。

先行していた2組を含め、3組の縁談は簡単には承認されない様相だが、今回はバイテク大手6社の組換え小麦開発の動きを整理し、これからどうなるのかを考えてみた。

大手6社の組換え小麦開発動向

業界再編の動きの中で小麦に注目したのは、9月12日にモンサントが豪州の小麦育種メーカー(InterGrain社)との資本提携解消を発表したからだ。

「モンサント、組換え小麦開発から撤退か?」と考えるのは早計だ。バイエルをはじめバイテク大手各社はいずれも組換え小麦の研究開発を進めている。良い機会なので時系列で整理してみた。

組換え小麦は今までに世界で商品化(商業栽培)された品種は1つもない。モンサントが除草剤(グリホサート)耐性の小麦を開発したが、2004年5月、北米の小麦生産者団体や消費者団体の反対で商品化を断念した。それまで北米各地で試験栽培をしていた系統が、2013~16年にごく散発的に身に覚えのない農家や研究所の畑から見つかり、ニュースになった。突如よみがえりの原因、真相は不明だが、この出来事は宗谷敏さんがGMOワールドII(7月30日)で紹介している。

組換え小麦開発の動きが復活したのは2009年5月だった。米国、カナダ、豪州の9つの小麦生産者団体が連名でバイテク種子メーカーに対し、「ダイズ、トウモロコシに対抗できる収益性の高い組換え小麦の開発」を要望した。この団体には2004年にモンサントの小麦の商品化に反対した米加の団体も入っている。こんどは団体が協力して開発を支援するというもので、これをきっかけにバイテク各社は組換え小麦開発を前向きに考え出した。その後の動きは以下の通りだ。

2009年7月 モンサント、小麦育種大手のWest Bred(米)を買収

2010年4月 シンジェンタ、国際トウモロコシ小麦改良センター(CIMMYT)と小麦の共同研究開発

2010年6月 モンサント、カンサス州立大(米)と育種素材で提携

2010年7月 モンサントとBASF、組換え小麦の共同開発を発表。乾燥耐性や肥料吸収効果の高い品種開発をめざす

2010年8月 モンサント、InterGrain(豪州)と資本提携

2010年8月 Evogene(イスラエル)、組換え小麦研究開発に参入。モンサント、バイエル、シンジェンタと技術ごとにそれぞれ個別に提携

2010年8月 リバプール大(英国)などの国際チーム、小麦ゲノム配列解読を発表

2010年12月 西オーストラリア州農業局、乾燥耐性品種の研究開発開始

2010年12月 バイエル、Evogeneとネブラスカ大(米)、乾燥耐性と高収量品種の共同研究開始

2011年1月 モンサント、BASFとの共同開発のほか、新たな除草剤耐性品種も計画

2011年7月 ダウ、小麦育種のNorthwest Plant Breeding(米)を買収

2011年9月 ダウ、HRZ Wheats(豪)と資本提携

2011年10月 バイエル、ルーマニア国立農業研究所と育種素材利用で提携

2012年2月 バイエル、テキサス農工大(米)と技術協力

2012年8月 バイエル、豪州の研究機関(CSIROとGRDC)と高収量品種開発で技術提携

2012年9月 バイエル、小麦育種のRAGT(フランス)を買収

2012年9月 モンサント、ノースダコタ大(米)と共同研究

2012年10月 モンサント、農務省に高収量と除草剤耐性品種の試験栽培を申請

2012年12月 国際チームによる小麦ゲノム解読さらに進む

2013年2月 デュポン、小麦開発参入を発表(→大手6社出揃う)

2014年6月 米加豪3国の生産者団体連合、2009年5月の共同声明を再確認。「組換え小麦、新技術は環境対策と食糧増産に不可欠」

2014年6月 シンジェンタ、スウェーデンのLantmannenの小麦部門を買収

2014年7月 国際チーム、パン小麦のゲノム情報解読進む

2015年7月 モンサント、アイダホ大(米)に共同研究拠点

2015年11月 米国の小麦生産者団体(NWFとNAWG)、米国小麦の復興、再生計画発表

2016年1月 国際チーム、パン小麦ゲノム情報の90%解読

2016年9月 モンサント、InterGrain(豪州)との資本提携解消

これからどうなるバイテク小麦

2010年7月、モンサントとBASFが10年後に商品化をめざすと発表した乾燥耐性品種と肥料吸収効率の高い品種の開発は予定通りには進んでいないようだ。小麦は6倍体で、DNA含量が多く複雑なため、トウモロコシやダイズのようにはいかないのかもしれない。上記のバイテクメーカーの共同研究もすべて組換え技術を使ったものではなく、バイエルやシンジェンタは報道発表で「当面組換え小麦の予定はなし、新品種は(組換えではない)マーカーアシスト技術で」とコメントを付けることも多い。それでも2010年以降、これだけ多くの買収、資本提携をしてきたのだ。そう簡単には引き下がらないだろう。

ところでまだ仮定の話だが、バイエルとモンサントの縁談がまとまったら、モンサントとBASFの小麦の共同開発はどうなるのだろか? 乾燥耐性技術ではBASFの貢献が大きいはずで、別れ話のときの財産分与はどうなるのか。余計なことだが、ちょっと気になるのだ。

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