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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

欧州連合のグリホサート再承認 泥沼のバトル続く

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2017年10月26日

5月25日の当コラム「サイエンスが勝つか、政治力に屈するか? グリホサート・・をめぐるヨーロッパの攻防」で書いたように、12月末で使用期限が切れるグリホサート除草剤の再更新をめぐり、欧州連合(EU)の政治家や活動家は盛り上がっている。

欧米の環境市民団体は夏休みをしっかり取るので、8月は騒がない。9月に入り欧州議会で反対、賛成の攻防が再開し、10月25日、欧州委員会(EUの行政府)の常設委員会で最初の投票が行われた。

●賛成16国も有効票に届かず

EUでは農薬の再更新は原則15年間で、グリホサートは2016年6月に15年間の再更新が認められるはずだった。欧州食品安全機関(EFSA)が2015年11月に再評価して安全性に問題なしとしていたからだ。しかし、2015年3月、世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)が「グリホサートはおそらく発がん性の可能性がある」と発表したことで、反農薬、反遺伝子組換えの市民団体や政治家が勢いづいた。グリホサートは組換え作物開発のトップ企業、モンサント社の製品だからだ。

2016年6月の再更新は難航し、欧州委員会のデフォルト決定で1年半延長でその場を乗り切った。欧州委員会は今年改めて10年間延長を提案し、10月25日の植物動物食品飼料常設委員会で、賛成反対を問う投票が行われた。各国は人口によって持ち分票が異なる。賛成、反対が成立するには、15国以上、65%以上の有効票が必要となる。

10年間の更新に賛成したのはイギリス、スペインなど16国(355票)。反対はフランス、イタリアなど10国(204票)。棄権がドイツとポルトガルの2国(111票)で、賛成は15国を超えたが、票数では有効票に届かなかった(ロイター通信2017/10/25EurActiv 2017/10/25)。

当初、大国ドイツは賛成に回ると報道されていたが、棄権に回ったのが大きかった。ドイツが棄権したのは、連立政権の政策協議が進んでいないためだ。9月の総選挙でメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟は第一党(246議席)になったが、過半数に達せず、自民党と緑の党との3党連立政権をめざしている。しかし、移民問題や環境政策で3党の足並みはそろわない。今回のグリホサートが3党協議の最大の関心事ではないが、緑の党の意向を無視して、ドイツが賛成に回るのは得策ではないとの政治判断が働いたのだろう。緑の党は遺伝子組換えやゲノム編集にも反対か強い懸念を持っている環境政党だ。67議席でドイツ主要6政党の中でもっとも議席が少ないが、連立政権に参加することになると発言力は増す。EUではドイツの賛否の影響は大きく、農薬だけでなく、新育種技術でも緑の党による反対、抑制が予想される。

●両派 中傷合戦に

グリホサート使用禁止とする絶対反対派は、IARCの「おそらく発がん性の可能性」だけを反対の根拠にしているのではない。2015年のEFSAの決定では、モンサント社と関係の深い研究者が書いた論文を重視したとか、メーカーの提出データをコピーアンドペーストしただけと、EFSAの審査体制そのものを攻撃している。欧州議会でも10月11日に関係者を呼んで公聴会が開かれた(EurActiv, 2017/10/11)

遺伝子組換えでも同様だが、「バイテクメーカーから材料提供を受けた」と論文に書いても、「メーカーと関係の深い研究者」と攻撃する人たちだ。私も在職時、モンサントやシンジェンタ社から組換えトウモロコシの種子を提供してもらって実験し論文を書いたので、彼らの分類では私も「バイテクメーカーと関係の深い研究者」に入るのだろう。10月11日の公聴会でもEFSAやメーカー側は正当性を主張したが、活動家や政治家は聞く耳を持たなかったようだ。

グリホサート支持派も黙っていない。フランス、英国などの農民団体は、グリホサートが使用禁止になると、播種前や収穫後の除草作業が困難になる、グリホサートに代わる除草剤は効果が劣るし、値段も高いと議会や欧州委員会に陳情してきた。もし来年から使用禁止になれば、損害賠償を含め欧州司法裁判所に訴える構えだ。

騒動の発端になったIARCの発がん性決定のプロセスについても新たな疑惑が出ている。(ロイター通信 2017/10/19)

IARCの決定根拠はリスク(確率)ベースではなく、一例でもバザード(危害)の可能性があれば、発がん性にランク付けるもので、実際の利用場面を考慮していないと批判されてきた。しかし、ロイター通信によると、IARCは2015年3月の決定の際に、草案(ドラフト)にあった「発がん性の因果関係はない」という報告を削除したり、米国で行われた大規模農業者健康調査を論文になっていないからと無視して、最終決定したとある。記事の正確性はいまのところ判断できないが、ここまでくるとサイエンスをはるかに離れた泥沼の世界だ。

●グリホサートは承認されるのか?

10月25日の常設委員会では、欧州委員会が妥協案として出した5~7年間延長には、10年間賛成国が反対した。本来は15年間更新すべきもので、(IARC以外の)審査機関はすべて発がん性なしと評価しているのだから、値切りは認めらないという主張だ。

12月15日で使用期限が切れるが、賛成(延長)国が多数なので、投票で使用禁止が有効票を得ることはない。ドイツがこの後の投票で賛成に回ることができるか。今回賛成した国が妥協して5~7年で落ち着くのか、あるいはもっと短く3、4年ならフランスやイタリアも賛成に回るのか。フランスやイタリアも主要な農業団体はグリホサート支持なので、本音は完全使用禁止は避けたいところだろう。いずれにせよ、組換え作物・食品の問題以上に、争点がサイエンスではなく、政治、思想、感情(好き嫌い)の問題であることがはっきりした。年の瀬、クリスマスまでには何らかの決着が着くのだろう。

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