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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

平成最後のBSE 米国産牛肉の月齢制限撤廃と英国産の輸入再開

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2019年1月24日

BSE(牛海綿状脳症)が日本の牛で初めて見つかったのが2001年(平成13年)9月10日。翌9月11日に米国で同時多発テロ事件が起こったが、この事件にかき消されることなく、BSEは連日、大きく報道された。最初は狂牛病と呼ばれ、へたり牛とか肉骨粉(にくこっぷん)という言葉を記憶している人も多いだろう。

英国は1996年にBSEは人にも感染すると発表し、日本は英国産牛肉の輸入を禁止した。しかし、国産牛では発生の心配はないと対策をとらなかったため、農林水産省と厚生労働省の信用は失墜した。

BSEは異常プリオンという病原体が原因だが、若齢牛は感染してもプリオンはまだ蓄積していない。しかし、日本はBSE発生直後から、やっても検出できない若齢牛を含む全頭検査を続け、2005年8月から20月齢以上に検査対象を引き上げたが、それでも全国の自治体は独自に全頭・全月齢検査を続けた。 2013年4月に国内産と米国、カナダ産などの検査対象を30月齢以上に引き上げたときには、「危険だ、規制緩和は早すぎる」、「米国の圧力だ」など社会面を賑わせたが、その後はほとんどメディアも報道しなくなった。

平成最後の年、2019年1月に、米国産牛肉の検査月齢制限の廃止と、BSE発祥国とされる英国産肉(牛と羊)の輸入再開という出来事があった。これに関連するメディアと消費者団体の動きを追ってみた。

●米国産だけでなく、カナダ、アイルランド産も月齢制限なしに

1月15日の第726回食品安全委員会で、BSEの安全性評価について、昨年末におこなった意見募集(パブコメ)の結果が報告された。

日本農業新聞(2019年1月16日)は「米産牛月齢規制 食安委 撤廃を答申」の冒頭で以下のように書いている。

食安委は厚生労働大臣に米国産牛の輸入月齢規制の撤廃を認める答申をした。2018年4月から審議してきたが、飼料規制や特定危険部位の除去などが適切におこなわれていることを前提に、現在の30月齢以上の制限を撤廃してもリスクは無視できるとした評価書をまとめた。米国は2018年4月の貿易障壁報告書で、月齢規制撤廃を日本に求めていた。

この記事は間違いではないが、2つ誤解を招くところがある。1つはカナダとアイルランド産も同様に月齢規制が撤廃されており、米国産だけではない。毎日、共同通信なども、「米国産」だけで、加・愛にはふれていない。

もう一つは、2018年4月の米国の報告書が圧力になって、日本国が変更作業を始めたような流れだが、これは違う。2013年4月に米国、カナダ産などの検査対象を20月齢から30月齢以上に引き上げたとき、各国の情報が揃ったら、さらなる月齢引き上げについて検討することになっていたのだ。当時から国際的には「月齢制限なし」が一般的だった。

飼料規制や特定危険部位除去などの追加資料を提出した米加愛の3国について、さらなる検討が始まったのが2018年4月だった。食安委のプリオン専門調査会は4月9日、6月6日、7月20日、9月6日、11月1日、11月15日と6回の審査をおこなった(通常は3、4回)。6月6日の審査では、今までの生体牛の感染リスクから、食肉処理時の暴露リスクに評価のポイントを変更することにした。合理的な変更だが、国際的にはかなり遅れている。この変更は一般紙も専門紙も報道しなかった。

審査途中の8月29日米国フロリダ州で米国通算6例目となるBSE感染牛が見つかった、日本ではまったく報道されなかった。

BSEには肉骨粉などエサを介して伝達し人にも感染する定型と、比較的高齢牛で自然に発生する非定型が知られている。米国のBSEは非定型であり、食肉ルートに入っていないことが確認されたから報道されなかったのだろうか。2012年4月の4例目、2017年7月の5例目も、非定型BSEだったが、「米国でBSE感染牛、輸入規制の審査に影響か」など各紙は報道した。

なお、米国のBSE第1例は2003年12月の定型感染牛だが、この牛はカナダ生まれで米国に渡った80月齢のメス牛だ食安委の評価書(資料3-3)の35頁(BSEの発生状況)にも書いてあるが、一般にはほとんど知られていない。今回の3国の中で、定型BSEの国内発生がなかった国は米国だけということになる。

パブコメでは6通の意見が寄せられた。肉骨粉処理などエサ管理に懸念がある、米国の圧力に屈した、エサ管理や特定危険部位除去などの前提条件が崩れたらどうするのかが主な意見だ。米国圧力説は、定型も非定型も区別せず、米国ではまだBSEが毎年発生しているという、相変わらずの主張だ。あとの2つは、安全性評価というより、リスク管理機関(厚労省と農水省)の担当であり、前提条件が守られるよう厳しくチェックするしかない。 2013年4月の30月齢への引き上げのときには米加併せて413通のパブコメがあったので、消費者団体などの関心は激減したことになる。

 ●BSE発祥国 英国産も輸入再開 1996年以来

2013年4月のパブコメでは、「英国産だけは輸入を認めないで」という意見があったが、その英国産の輸入再開が決まった(厚生労働省、2019年1月9日)。

安倍首相の英国外遊に合わせたかのような発表だったが、英国政府は再開されれば5年間で牛肉7500万ポンド、羊肉5200万ポンドの利益が期待できると大歓迎している(1ポンドは約140円)(英国政府、2019年1月10日)。

日本でも日経、毎日などが「厚労省 英国産牛肉の輸入再開 23年ぶり」の見出しで報じた。この審査は2017年8月からプリオン専門調査会で始まり、3回の審査で特定危険部位除去、エサ管理が適切になされていればリスクなしと結論された。2017年12月から18年1月のパブコメ意見はゼロだった。BSE発祥国からの輸入なのに、意見ゼロは意外だったが、意見が多いのは米国絡みのときだけで、アイルランド産への意見もゼロだった。

英国産解禁に向けて、政府間の事務レベル協議の途中、2018年10月18日にスコットランドで定型BSEが確認された

2001年1月に飼料規制が厳密になってから英国の定型BSEの発生は大きく減り、2018年までに22例、うちスコットランドでは2007年12月以来の通算2例目となる。定型BSEであり、感染曝露経路など詳細は不明だが、食肉処理時の暴露リスクやエサ管理条件などから、日本政府は輸入再開に支障なしと判断したようだ。

英国で定型BSE発見というニュースは日経などで報道されたが、輸入再開と関連して安全性を懸念する報道はなかった。なお、今回の英国産には月齢制限があり、30月齢以上は検査対象となる。今後、英国が月齢制限撤廃を求めて追加資料を提出してくれば、食安委は改めて審査することになる。

●メディアの反応 消費者団体の反応

2018年8月に米国で非定型BSEが確認されたとき、日本のメディアはまったく報道しなかった。不思議だったので、知り合いの新聞記者に聞いてみた。かってBSEの記事を多く書いていた全国紙の記者は「非定型だし、危険部位とか除去されていれば心配ないと(デスクが)判断したからだろう」と答えた。そうだろうか、それならその前(2017年)の非定型も同じはずだが。

食品業界紙の記者は「2017年の非定型は一般紙は一応報道したが、まったく反応がなかった。それで、今回は報道する価値がないとデスクが判断したのではないか」と答えた。「非定型だからとか、食品安全上の問題がないから、報道しなかったのではないと思う」、「以前、米国産の非定型で大騒ぎした時には、非定型とはっきり言わず、ただBSEと報道したこともあった。なぜ、あの時は大騒ぎし、今はまったく触れもしないのか、メディアとしても比較検証する価値はあると思うのだが」とも言っていた。

一方、消費者団体など強硬反対派の熱がさめた理由もよくわからない。2013年4月、30月齢以上に検査対象を引き上げた際に、「米国の圧力、TPP(環太平洋連携協定)に入れてもらうため」など、米国圧力説を唱えた政治家、大学教授、ジャーナリストなどから、今回は目立った発言は聞こえてこない。メディアのデスクと同じで、大声を上げる価値はないと判断したからなのか、それとももう飽きただけなのか。

米国圧力説を唱えた政治家、学者、文化人などが今、熱心なのは2018年に廃止された「主要農作物種子法」だ。イネ、ムギ、ダイズの生産・供給を都道府県に義務付けていた法律が廃止された。安倍政権、規制改革推進会議の策略で、民間や海外の種子ビジネスに「日本が売られる」という論調だ。部分部分に正しい指摘もあるが、一方的な見方という印象は否めない。でも、BSEや遺伝子組換え反対で盛り上がった人たちの波長には合うのだろうと思う。

米国産の月齢制限廃止も英国産の輸入再開も、事務手続きがあるので、実現は数か月先になる。平成のBSEの話題は今回が最後のようだ。平成の次の時代、米国圧力説の信奉者たちは何を標的にするのだろうか。

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