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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

ゲノム編集応用食品は有機農産物と認めず?  説明不足の農水省パブコメ募集

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2019年11月28日

2019年11月8日の毎日新聞オンライン版に「ゲノム編集食品、有機農産物と認めず 農水省が規格改正方針公表」という見出しの記事が載った。 

なにかと話題のゲノム編集技術だが、当コラムでも何回か紹介したように、厚生労働省や農林水産省などは、この技術を利用して作った作物や家畜、食品のうち、一部は遺伝子組換え体を管理する法律の対象外とした。外来遺伝子を導入せず、小規模な変異を誘導して、狙った遺伝子の働きだけを止める場合が対象外になる。

この決定が有機農産物の規格改正にどう影響するかというと、日本農林規格(JAS)の有機農産物の定義が変わるのだ。「有機」、「オーガニック」という言葉は農薬を使わないので環境や健康に良いというイメージがあるようだが、有機農産物としてJAS法で認められるにはいくつかの条件がある。原則として化学農薬や肥料を使わない、遺伝子組換え技術を使わないなどが主な条件だが、他にも細かい決まりがたくさんある。

今回の毎日新聞の記事は、農水省食料産業局食品製造課基準認証室が11月8日に出したパブリックコメント募集によるものだ(12月7日締め切り)。

このパブコメが実にわかりにくく不親切だ。なんの前置きもなく、一部改正案の概要が添付されているだけだ。

●これで決まりではない 農水省の方針イメージ示しただけ

改正案の概要では「有機農産物の日本農林規格について、現在の実情等を踏まえ、組換えDNA技術を用いて生産されたものが、原材料等に使用できないことに加えて、ゲノム編集技術を用いて生産されたものについても使用できないことを明確にする改正を行う」とだけ書いてある。これを読めば、「農水省は有機農産物の規格にゲノム編集技術の利用は認めないことを決めて意見募集した」と誰もが思うだろう。

昨年から今年にかけて行われたゲノム編集生物(環境省)や食品(厚労省)の検討会に関わった有識者の先生方(学者や消費者団体)の中には、この記事を読んで「知らなかった。農水省はどんな検討を経てこういう結論になったのか」、「これだけ読むとゲノム編集技術利用は全部だめとなるが、厚労省はゲノム編集でも規制対象外としたものもあるので、混乱するのではないか」などなどの意見がある。公式のコメントではなく、私が個人的に聞いた話であるが、いずれももっともな指摘だ。

担当の農水省基準認証室に聞いたところ「農水省としての決定案ではなく、これから有識者による検討会(審議会か調査会?)に諮る前に、農水省の方針(イメージ)を示したもの」との返事だった。私が「それならそうと前置きで説明しないと、わからないのではないか」というと「はあ、そうですか」とあっさり返された。

有機者会議の前に、説明なしのパブコメをする前例はあるのだろう。事案によっては、くどいほど前置き説明をつけたパブコメもあるので、どこで区別しているのか私にはわからないが、農水省の担当官にはそれなりの判断基準があるのだろう。しかし、ゲノム編集技術は社会的関心も高く、検討会に関わった先生方にも不信、不満を持たれるようなやり方はまずかったと思う。

 ●非公開の事前打ち合わせは不信感を増幅させるだけ

今回のパブコメの前に、農水省は傘下の独立行政法人・農林水産消費安全技術センターで「有機JASにおけるゲノム編集技術の取り扱いの検討会」を非公開で行っている。検討会委員には、有機農業推進協会理事、研究開発法人農研機構新技術対策室長、日本種苗協会理事、主婦連合会幹事など9名が名を連ねている。この検討会でゲノム編集技術は一切認めない方針を決めたらしいが、非公開ではなく公開にして、メディアに報道してもらったほうがよかったと思う。ゲノム編集をテーマにするとメディアは集まるので、有機農業とゲノム編集の関係を知ってもらう良い機会だった。

 昨年夏の環境省のゲノム編集の検討会(組換え生物等専門調査会)でも、会議終了後のメディア向け記者会見で、非公開の検討会があったことがわかった。

 当コラム(2018年10月9日)で紹介したが、「決定までの日程がタイト、実質の検討はたった2回で拙速な感じがするが」という記者の質問があった。

これに対し、調査会の委員長は「スケジュールがタイトなのはそのとおりだが、意見の中味は充実していた。これ以外に専門家の意見を環境省は非公開で聞いているので、今回の案は無理のないものだと思う」と答えている。確かに、環境省は農林水産業関係の研究者にヒアリングしたようだが、あくまで非公開だ。一部の作物、家畜、魚の開発者、研究者だけだろう。私はこのやりとりを聞いて、「まずいな、関係学会、業界の内情をよく知らないメディアの記者には理解されないだろう」と思った。

ゲノム編集食品については、外来遺伝子を導入しない小規模変異誘導産物も含めすべて規制の対象にしろ、消費者の選択の権利として表示を義務付けるべきという論調が多い。ほぼすべてのマスメディアで一致している。この背景には、検討のスタートとなった環境省の検討会の拙速感とメディア対応のまずさがあると思う。環境省の検討会を担当した記者の多くは、厚労省の食品関係の検討会も取材していた。疑問が晴れないまま、取材し記事を書いていたのではないか。

●有機農業はイメージ第一の世界 理屈ではない

今回の農水省のパブコメに対してどんな意見が出るのかわからないが、農水省の方針(イメージ)はそれほど間違っていない。海外の基準も今のところ「ゲノム編集技術の利用は認めない」のが大勢で、国際的な流れから外れてはいない。「厚労省はゲノム編集でも規制対象外としたものもあるので、混乱し、誤解を招くのではないか」という意見も当然あるだろうが、元々、有機農業、有機農産物の定義はそれほど科学的に割り切れるものではない。

化学農薬は認めないが、石灰イオウ合剤や硫酸銅の使用は認められている。化学的に合成した農薬ではないからだ(農薬工業会 有機農業でも使える農薬)。

ヨーロッパでは、硫酸銅は環境への悪影響があるので有機農業から除外すべきという意見も出ているが、代わりの殺菌剤がないので、使用禁止に踏み切れない。日本も同じだ。環境や人の健康に悪いものはすべて使わないというわけではなく、とりあえず化学合成農薬と化学肥料、遺伝子組換え技術由来のものは認めないと線引きしたともいえる。環境に害のある分解しにくい石油由来の化学資材(プラスチック材など)も使わないとは決して言わないのだ。有機農業の定義とはその程度のものと私は思っている。それにしても今回の農水省のパブコメは不親切だ。残念に思う。

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