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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

中国から飛来してきた害虫ツマジロクサヨトウ トウモロコシ緊急輸入の原因ではないが

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2020年2月6日

昨年(2019年)7月3日、農林水産省は鹿児島県のトウモロコシ畑で、ツマジロクサヨトウという夜盗蛾(ヨトウガ)が国内で初めて見つかったと発表した。侵入を警戒していた害虫で、その後、沖縄県、本州各地でも見つかり、11月には北は青森県まで全国21府県で確認されている。

ツマジロクサヨトウという和名は、成虫の翅のつま(端)の部分が白いことによるが、似たような夜盗蛾が日本にもいるので、判別は難しい。英語名はfall armyworm(中国では秋行軍虫)と呼ばれるように、秋に幼虫が大発生して作物を食い荒らす大害虫である。トウモロコシだけでなく、イネやサトウキビ、牧草、さまざまな野菜類も加害するが、日本での被害は飼料用トウモロコシと生食用スイートコーンに限られているようだ。

日本政府は8月25日、米国と新貿易協定を結んだ際、首脳会談で米国産トウモロコシを追加輸入すると発表した。27日に官房長官は、害虫被害のため国内の飼料用トウモロコシが足りなくなる可能性があるためで、トランプ大統領が安部首相に押し売りしたのではないと弁明した。この害虫がツマジロクサヨトウだが、このニュースを聞いて私は、「そんなにトウモロコシに被害がでているのか」、「たとえ被害があったとしても、日本の飼料用トウモロコシは茎葉と一緒に青刈りするので、穀物トウモロコシを輸入しても用途が違うだろう」と思った。畜産農家やこの分野を多少知っている人なら同じように思ったことだろう。

この問題は昨年秋、メディアでも取り上げられたが、ツマジロクサヨトウの特徴とともに改めて整理してみる。

●アフリカ、中東、中国を経由して日本に?

ツマジロクサヨトウの日本への侵入経路はちょっと変わっている。もともとは米国南部や中南米に分布しているが、2016年にアフリカ中部で初めて見つかり、サハラ砂漠以南の大陸全土に広がり、今もトウモロコシやソルガムなどに大きな被害を与えている。アフリカへの侵入経路は不明だが、南米からアフリカへの物流が増えていることから、輸入物資に紛れてが有力だ。

この蛾は飛翔力が高く、自力で数百キロメートルも移動でき、2018年にはインド、2019年初めには中国南部、台湾、タイでも確認された。日本と韓国では2019年7月に初めて確認されたが、これは自力で飛んできたのではなく、下層ジェット気流という西からの季節風に乗ってきたと考えられている。ウンカ(イネの害虫)やコナガ(キャベツの害虫)なども中国南部や東南アジアから季節風に乗って、毎年日本に飛来するが、昔から毎年飛来してくるので侵入害虫とは呼ばない。2016年にアフリカで見つかった集団のルーツはまだ確定していないが、北米、中南米から直接日本へというルートでないのは確かで、今までにはなかった侵入経路だ。

暖地性の害虫なので、本州での越冬は難しいが、九州南部や沖縄県では越冬可能だし、季節風に乗ってこれから毎年、日本に飛来してくる可能性は十分考えられる。定期的な常連害虫になるのか、日本での被害は拡大するのかが注目だ。

●米国産トウモロコシ275万トン輸入はツマジロクサヨトウ被害のためではない

日本の飼料用トウモロコシは農薬を散布しないで栽培することも多く、なにも対策をとらないと被害がでる。農林水産省植物防疫課の特設サイトでは、被害が大きくならないうちに早めに見つけて農薬散布すること、土に潜った蛹も耕して駆除することなどを勧めている。昨年に限れば、トウモロコシを大量輸入するような緊急事態ではなかったようだ。

米国産トウモロコシ大量輸入は、8月25日のトランプ大統領と安部首相の首脳会談で発表された。新聞報道の見出しを追ってみる。

・朝日(8月27日)  米産トウモロコシ大量輸入 害虫被害が理由 菅官房長官説明

日本農業新聞(8月27日) トウモロコシ275万トン追加輸入

・毎日(8月27日) トウモロコシ購入約束 トランプ流に振り回され

・毎日(8月28日) 米トウモロコシ購入 企業困惑 「害虫対策」首相説明に疑問

・JA新聞(9月3日) 米国産トウモロコシ 275万トンの保管料を支援 吉川農水相「あくまで被害対策の一環、米国で余っているから実施しているのではない」

・東京(9月23日) 米中摩擦で余ったトウモロコシ肩代わり 日本企業購入予定ゼロ「米国産は国内産と用途異なる、蛾の幼虫による被害は限定的」

・毎日(10月12日) 安倍首相「害虫の被害対策の一環で、民間企業が購入するもの。米国と約束や合意した事実はない」衆院予算委質疑で

・毎日(11月7日) 宙に浮く米産トウモロコシ 国内業者「用途異なる」購入支援策 申請ゼロ件

・毎日(12月28日) 募集3カ月 初の申請 米産トウモロコシ「農水相会見で 業者名や数量は明らかにせず」

 ●ツマジロクサヨトウ対策なら組換えBtトウモロコシの栽培

日本は毎年およそ1100万トンのトウモロコシを飼料用として輸入している。これは穀物を直接家畜のエサにするが、日本で栽培している飼料用トウモロコシの多くは茎葉と実を一緒に収穫する青刈り飼料だ。穀物肥育と青刈り肥育、さらにトウモロコシを与えない牧草肥育で、肉牛の育て方は異なり、肉質は大きく変わる。青刈りトウモロコシが不足したから、代わりに穀物トウモロコを与えれば良いというものではない。

日本でも最近、穀物飼料にする実取りトウモロコシの栽培も行われているが、面積はごくわずかだ。仮にこの用途のトウモロコシが大半で、ツマジロクサヨトウによって大きく減収したのなら、275万トンの追加輸入は効果があるかもしれないが、実際はそうではない。侵入確認から1月あまり、まだ被害実態もはっきりしない中で、275万トンの大量輸入を決めたのはなんとも理解できない。

実取りトウモロコシ畑でツマジロクサヨトウの被害が大きくなったら、有効な対策は遺伝子組換えBtトウモロコシを栽培することだ。「南アフリカのツマジロクサヨトウに対するBtトウモロコシの効果」という論文によると、アフリカ大陸に侵入したツマジロクサヨトウに対して、唯一組換えBtトウモロコシを商業栽培している南アフリカ共和国では、かなりの防除効果があるようだ。ただし、ツマジロクサヨトウは単一のBtトキシンには抵抗性を発達させやすいので、複数のBtトキシンを発現する品種を栽培する必要があると注意している。

トランプ大統領は安倍首相に「害虫対策ならBtトウモロコシを栽培して、組換え作物のメリットを日本でも実感しろ」とでも言えば良かったのだ。それでは米国農家の余ったトウモロコシは売れないが、日本に対する黒船的圧力としては効果があったはずだ。

●なぜ穀物自給率は上がらないのか 

緊急輸入はツマジロクサヨトウ被害のためなどと、農業者や穀物取引の専門家からは呆れられる見え透いた言い訳はどこから出てきたのだろうか。これは笑えるが、笑ってすまされないのが農水省の食料自給政策だ。

昨年8月発表の2018年食料自給率統計によると、総合自給率(カロリーベース) は37%、飼料自給率は25%でいずれも過去最低だった。

食用米に代わって飼料イネを作ったら補助金をアップするという政策を2014年から始めたが、うまく進んでいない。2025年には120万トンを目標としていたが2018年は前年より7万トン減の43万トンで、頭打ちになった。補助金を上乗せしても、生産者はなぜ飼料米を作らないのか。輸入トウモロコシから飼料イネにシフトした畜産業者が、品質などの理由からトウモロコシに戻ったのか。他の理由があるのか。その辺の原因をきちんと分析した形跡がない。

国産飼料の自給率向上を農水省は本気でやるつもりがあるのか。昨年8月のトウモロコシ緊急輸入の言い訳以来、農水省の政策のお粗末さ、軽さに危機感を持っている。

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