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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

追い風か逆風か 海に浮かぶ巨大風力発電

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2012年4月11日

 原発事故以降、再生可能エネルギーによる発電が注目を集めている。風力、太陽光、地熱などだが、もっとも有望視されているのが風力だ。風力発電は安定した風が昼夜、年間を通して確保できないことと、騒音や低周波音への懸念から、なかなか普及しなかった。海上なら人の健康への影響もないし、陸地より強い風が吹くので、最近の注目は「洋上風力発電」だ。3月には福島県沖に高さ200メートル、翼の半径が約70メートルという超大型風車を100基以上作る計画が発表された(読売新聞 2012年3月7日)。

 漁業関係者からは漁場が破壊されるとの懸念が出ているが、大型風車による生態系への影響は風力発電先進国ですでに報告されている。もっとも大きいのが鳥の衝突死(バードストライク)だ。風車の翼は大型になるほど高速回転し、先端部分は時速100キロメートル以上で回る。扇風機が高速回転すると後ろが透けて見えるのと同じで、鳥は高速で回る翼に気づかず激突してしまう。

北米のコウモリ

 風力発電のさかんな国は、中国、米国、ドイツ、スペイン、インドの順で、日本は12位とまだ少数派だ(自然エネルギー白書2011)。2011年4月のサイエンス誌に北米では農作物の害虫を食べる捕食性コウモリの数が近年激減しているという報告が載った。渡りをする小型のコウモリだが、100万匹で1年間に600~1300トンの害虫を食べる。コウモリが減った分、農作物の被害が増えるので、年間約40億ドルの経済的損失になるという推定だ。

 コウモリ減少の原因として、大型風車への衝突とともに、ホワイトノーズ(白鼻)病という伝染病の流行があげられている。白鼻病はコウモリ類に特有の伝染病で最近、北米各地に広がっている。しかし、白鼻病の感染が初めて報告されたのは2006年2月であり、コウモリの減少はそれ以前から始まっているので、大型風車建設ラッシュが影響していることは確かなようだ。「このまま様子見ではだめ、衝突のリスクを減らす対策が必要」と研究者は警告しているが、具体的な対策までは示していない。

スペインのハゲワシ

 渡り鳥の行動を調べ、「短期間だけ風車を止めたら衝突死は半分に減らせる」と具体的な対策を提言したのがスペインの研究だ(2012年3月、サイエンスニュース)

 詳しいデータは生物保全誌(BiologicalConservation)に載っている。

 世界4位の風力発電国であるスペインでは740か所で1万7千基の風車が稼働している(2009年時点)。ジブラルタル海峡に近いスペイン最南端の13か所、296基で、2006~07年と2008~09年に、シロエリハゲワシ(Griffon vulture)の風力発電施設付近での死亡数を調べた。シロエリハゲワシはヨーロッパとアフリカ北部を行き来する渡り鳥で、海がもっとも狭くなっているジブラルタル海峡は渡りの通り道にあたる。

 最初の調査ではすべての風車が稼働しており、2006~07年にかけて13か所の周辺で135匹の死亡が確認された。スペインでは風車稼働後の生態影響調査によって、鳥類への影響が大きいと指摘された場合、試験的に一時停止し、再評価することが法律に盛り込まれている。これによって13か所のうち10か所の風車を止め、2008~09年に再調査した。稼働を続けた3か所での死亡数は28匹で前回より7匹増えたが、稼働を停止した10か所では58匹で前回の114匹からほぼ半減した。さらに死亡が多いのは渡りが活発な9月から12月に集中することもわかった。

 これらの結果から、研究者は「すべての風車を止める必要はない。渡りの時期の4ヶ月、少なくとも10~11月の2ヶ月間、停止するだけでハゲワシの衝突死を半分に減らせる」、「ハゲワシは昼間飛ぶので、夜間も止める必要はなく、発電量のロスも小さい」、「風力発電とハゲワシの共存は可能だ」と前向きな提言をしている。「絶対反対、全部止めろ」という主張ではなく、行動習性を調べたうえでの現実的提案として評価して良いだろう。コウモリの場合は、夜行性なので、この方法は採用できないが、衝突死の多い時期や場所をよく調べて対策を立てる必要がある。さらにこれらのデータを活かして、今後、大型風力発電施設を作ってはいけない場所の参考とするべきだ。

日本のこれから

 日本では風力発電はまだマイナーな存在だが、今回の大震災の前から、大型風車による生態系への影響や騒音・低周波音による人の健康への影響は環境省で検討されていた

 2010年12月27日の第4回検討会では、動物、植物、生態系に及ぼす影響として、北海道でのオジロワシの衝突死について、鳥類生態研究者が意見を述べている

 また、2011年3月の日本生態学会でも「増加する風車、北海道から発信する風力発電問題」という企画集会がおこなわれている。

 なお、植物への影響とは、高速で回る風車の風圧で植物がなぎ倒されるのではなく、山の尾根や海岸などに建設した場合の希少植物の生息地破壊であり、検討会でもバードストライクほど問題にはならなかった。洋上風力発電ではまったく問題とならないだろう。

 しかし、今回の大震災、原発事故を契機としておこった大規模風車建設計画に対して、環境アセスメント体制は十分とは言えない。海上に作った場合、深刻なバードストライクは起こらないのかもしれないが、海外を含め大規模洋上発電施設が少ないので、データがほとんどない。高さ200メートル、翼の半径70メートルの巨大風車を100基以上も集中して作るのだ。鳥類だけでなく、海洋生物相に想定外の影響がおこる可能性はある。小規模な短期間のアセスメントで生態系への影響なしとして、大規模風車建設にゴーサインを出すとしたら、「将来にわたり持続可能な社会をめざした再生可能エネルギーの利用」という格調高い理念に反することになる。

 869年の貞観地震、1611年の慶長地震の記録から、宮城沖や福島沖にも巨大津波があったことを大震災前から指摘してきた地震学者の警告を、「古文書の記録で信頼性に欠ける」と無視してきた原発ビジネス業界とあまり変わらないことになる。

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