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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

有機農産物 生産基準もきびしいが監視・査察もきびしい

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2012年7月19日

 6月20日に「きびしいルールは有機農業の宿命」と書いた。しかし、きびしいのは有機農畜産物の生産基準だけではない。「ほんとにルールを守って生産しているのか?」と監視や査察もきびしいのだ。

 2012年7月3日に欧州会計検査院から、「有機農畜産物の生産、加工、流通、輸入の管理システムに関する監査報告書」が公表された。

有機レモネードから遺伝子組換えレモン?
 欧州連合(EU)では、有機食品の販売額は2009年には200億ユーロ(約2兆円)に達し、食品市場の1.5%、栽培面積も930万ヘクタールでEUの農耕地面積の5%を占めている。

 有機食品は成長産業だが、消費者の信頼を確保するには、生産現場(農場)から販売(店頭)まで全体を管理するシステムが重要であり、そのシステムが有効に働いているかを調べたのが、今回の監査報告書だ。有機食品の販売額が多い、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、スペイン、アイルランドの6カ国が調査対象となっている。

 報告書によると、民間、行政機関とも、監視システムは十分に機能しておらず、情報交換・情報の共有も不十分と評価はかなりきびしい。トレーサビリティ(追跡能力、生産から加工・流通までの食品の移動の全段階を把握すること)について、市場で販売されている商品を調べたところ、約40%は履歴をたどって生産者を特定することができなかった。

 有機表示のある食品を化学的検査で分析すると、有機農畜産物基準では使用禁止の農薬、抗生物質、遺伝子組換え産物、重金属などが77例で検出された。リンゴやミルクに農薬、ベーコンに抗生物質、卵に防腐剤など、それほど驚く内容ではないが、報告書は、「使用禁止の化学物質が検出されることは消費者の信頼を低下させる。販売される前の段階でのチェックを強化すべき」と指摘している。

 EurActiv紙ではドイツのレモネードから、遺伝子組換えレモンが検出されたとあるが、報告書(アネックスII)では「レモネードからGMO」と記載されている。遺伝子組換えレモンは、まだ世界のいずれでも商品化(商業栽培)されていないので、おそらく甘味料としてトウモロコシかシュガービートが使われていたのだろう。

なぜ有機食品はきびしく監視されるのか?
 私が興味をもったのは報告書の監査結果ではなく、今回の監査の目的だ。報告書の冒頭で、「有機食品と表示されていても、科学的な方法で判別することはできない」、「有機食品は認定された農場で生産され、販売されるという信用・信頼が基礎にある」、「そのためには途中のトレーサビリティを含め管理システムが十分に機能していなければならない」、「だから、今回の監査をおこなった」と述べている。これは有機農畜産物の生産基準を定めたEUの法令(Regulation EC No.834/2007など)に基づくものと、監査の法的正当性も強調している。

 さらに、有機農畜産物生産者には多くの農業補助金が支払われており、きびしい監査を受けるのは当然であり、「私の買った有機食品はほんとうに有機なのか」という消費者の知る権利に応える責務もあると述べている。

 EUの予算の約40%は所得補償など農業補助金に使われており、2014年からの新EU農業政策ではこれを約33%に減らす方向だ。しかし、有機農業など環境に良いとされる農畜産業への補助金を大幅に減らす動きはなく、むしろ増額を主張する国が多い。その点で、有機農畜産業には追い風なのだが、税金を多額に使うという点で、行政や市民団体の監視もきびしくなってくる。

 今回の報告書では触れていないが、有機畜産物では家畜の飼育にも多くの条件がある。エサに組換えトウモロコシやダイズを使わない、予防目的の抗生物質は使わないなどのルールとともに、ゆったりした環境で動物福祉に配慮して飼育することが義務づけられている。狭い畜舎に閉じ込めておいてはだめで、ときどき野外で運動させる必要がある。これを守っているかは、冬の積雪期間の抜き打ち調査がもっとも有効だという話を聞いたことがある。雪の上に残った家畜の足跡から放牧の有無、運動の範囲がわかるからだ。

 有機農業は環境や人の健康に良いということでヨーロッパでは支持を得ているが、生産者が「有機農業でやってます」というだけでは、消費者や役所には信用してもらえない。有機農業は性善説ではなく、性悪説が根本にあるのだろうか?

日本では今後どうなるのか
 日本の有機栽培面積は1万6000ヘクタールで全耕地面積の0.36%、出荷量は10万2000トンで全体の0.35%だ(日本農業新聞2011年7月14日、報告書)。出荷額は示されていないが、EUの1.5%にくらべたらもっと低い値だろう。

 日本で有機農業がこれから伸びていくかわからないが、行政の指導・監視が強化されるのはまちがいないだろう。1万6000ヘクタールの栽培面積のうち、有機JAS規格(日本農林規格)を満たしているのは9000ヘクタールで、56.3%に過ぎない。6月20日のコラムに書いたように、日本には2つの有機栽培基準が存在するが、7000ヘクタール(43.7%)は「JAS規格には適合しない有機栽培」ということになり、これらに対しても、なんらかの改善指導が始まるだろう。

 「環境支払いなどで補助金を受けているから」という法的な根拠や、「消費者の知る権利に応えるため」という市民・消費者団体からの追い風もあり、有機食品の生産現場や流通(表示を含む)への監視も強化されるだろう。

 要員はいるのだ。今は農水省地方農政局地域センターと名称を変えたが、食糧管理法のもと、米の等級検査や米の不正流通を摘発していた旧食糧庁・食糧事務所が母体だ。

 不正表示や違法栽培の摘発はお手の物なのだろうが、今後、彼らが活躍することが人や環境にやさしいとされる有機農業の健全な発展につながるかどうかは疑問だ。

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