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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

洋上風力発電 海洋生物への影響を考える

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2013年1月16日

 3連休の中日、1月13日に日本野鳥の会主催でシンポジウム「野鳥と洋上風力発電」が開かれた。

 自然保護団体主催のシンポなので、バードストライク(鳥の衝突)や繁殖地の破壊をひきおこす巨大風力発電(風発)の建設に反対の集会かと思ったがちがった。日本野鳥の会は地球温暖化対策として、再生可能エネルギーの導入に前向きだ。今回のシンポのサブタイトルも「野鳥保護と自然エネルギーの共存を目指して」とあり、まずはいろんな立場の専門家を招いて勉強しようという集会だった。

 朝10時から夕方6時まで、開発側、行政(環境省)、鳥類生態学者、洋上風発先進国で30年の歴史を持つイギリスとデンマークの専門家による11題の講演と1時間のパネル討論というタイトな日程の集会だったが、情報の共有や問題点の整理という点でなかなか意義のあるものだった。

バードストライクだけではない 考慮すべき影響

 洋上風発には海底に基礎土台を作る「着床式」と、土台は作らずワイヤーで海底に固定する「浮体式」がある。着床式は千葉県銚子沖と福岡県北九州沖で経済産業省が、浮体式は長崎県五島市沖で環境省が建設し、実際に稼働(発電)させて、海鳥や漁場への影響を調査する実証試験が始まっている。どちらも2011年3月の原発事故以前からの計画だ。

 洋上風発は海鳥の衝突だけでなく、ほ乳類(アザラシやアシカ)や頭足類(イカやタコ)などにも影響する可能性を示す論文がいくつかある。着床式と浮体式でも海洋動物への影響は異なる。

 シンポジウムの講演者の一人、名城大学の風間健太郎氏は保全生態学研究誌(17巻1号、2012年)に「総説・洋上風力発電が海洋生態系におよぼす影響」を発表している。

 着床式では土台建設時の震動や騒音でほ乳類の音声コミュニケーションがかく乱される。これは建設時の一時的なもので、浮体式ではこのようなリスクは小さい。しかし、発電機や海底ケーブルからでる低周波音波がほ乳類の聴覚や頭足類の平衡感覚に影響する可能性が指摘されている。

 風間氏はパネル討論で、「浮体式の方がリスクが少なく、もし海洋生物に悪影響があるとわかったら、設置場所を移動できるのではないか」と提案したが、デンマークの専門家は「浮体式でもワイヤーで固定するので、簡単には移動できない」と答えた。

 鳥の衝突の事前評価も難しい。鳥の移動ルートや飛翔高度は季節によって変化するので、短期間の調査ではわからない。餌となる魚の群れの位置も年によって変化するので、1年だけの調査で影響あり、なしと判断できないというのが鳥類専門家の一致した意見だった。「小型飛行機はいいが、ヘリコプターによる調査はだめ。音に驚いて正常な行動観察ができなくなる」という指摘も出された。

 いずれにせよ、海鳥を含め海洋生物への影響評価は事前も事後も難しい。たとえ悪影響があったとしても、陸上風発のように衝突による死体は見つからない。タコやイカが激減しても、「温暖化による海水温の上昇とかほかの要因もあるのではないか」と指摘されるだろう。何を悪影響の指標とするかを含め評価方法が確立していないというのが実情だ。

風発の経済寿命は20~30年

 私はシンポの質疑応答で、風発の耐用年数とその後の扱いについて質問した。

 (独法)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、現在計画を進めている日本の風発の耐用年数(経済的寿命)は約20年と算定しているという。

 デンマークでは寿命は20~30年で、老朽化した陸上の風発はより大型のものに置き換えられているという。洋上風発もこれから寿命を迎えるが、交換は可能だと思うとの回答だった。

 イギリスでは設計寿命は25年で、部品を総入れ替えすれば50年の稼働は可能。しかし10年以内でもギアボックスの交換など常にメンテナンスが必要とのことだった。

 20年という寿命は他の発電施設とくらべて短いと言える。「20年しかもたないのか」と考えるか、「とりあえず20年やってみる」と考えるか、判断は難しいと思った。

試行錯誤、順応的管理で

 私は2012年4月11日のコラム「追い風か逆風か 海に浮かぶ巨大風力発電」で、日本の環境アセスメント(事前影響評価)の体制は十分でなく、このまま建設ラッシュとなるとしたら心配と書いた。

 しかし、今回のシンポを後援した環境省や、パネリストの新エネルギー・産業技術総合開発機構や電力中央研究所などが、海外の事例も含め慎重にアセスメントを行い、まずいところはまずいと認め、改善できるところは改めるという姿勢をとれば、洋上風発に未来はあるという印象をもった。講演者の何人かも言っていたが、建設ありきで突き進むのではなく、状況を見ながら計画を修正し事業を進めるという「順応的管理」の発想だ。

 洋上風発による鳥や生態系への影響研究は日本ではまだ始まったばかりと言えるが、日本語で読める文献もいくつか出ている。先にあげた風間健太郎氏の総説のほか、今回のシンポジウム講演者でもある電力中央研究所・北村亘氏が「風力発電施設が鳥類に与える影響とその評価手法に関する文献調査」(2012年6月)として簡潔に現状とこれからの課題をまとめており、ダウンロードできる。

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