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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

BSE検査対象月齢さらに引き上げ48カ月齢に、どうなる国産牛の安全安心とブランドイメージ

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2013年5月6日

 4月1日にBSE(牛海綿状脳症)の国産牛の検査対象基準が20カ月齢から30カ月齢に引き上げられた。1月30日の当コラム「2月1日からBSE対策変更 月齢基準のさらなる見直し作業も進行中」で、「BSE問題の次の山場は『さらなる月齢基準見直し』が答申されたときになる」と書いた。

 その山場は私の予想よりもやや早く7月1日になるようだ。4月1日以降も都道府県のと畜場はすべて今までどおり「全頭検査」を続けている。経過措置として国の補助金が継続しているためだ。

 しかし、次の月齢基準見直しが答申されたら、国が決めた月齢以下の検査を独自にやる場合、もう補助金は出さないと国は明言していた。このとき、都道府県はどうするのか、「消費者の安全安心のため」、「郷土牛のブランドイメージを守るため」と、国に反旗を翻し、若齢牛の全頭検査を続ける自治体が出るのかどうか注目していたが、そんな自治体はないようだ。

●これまでのおもな出来事

 おさらいのため、2001年9月以降のBSE対策のおもなできごとをまとめておく。

2001年9月10日 国内初のBSE感染牛確認、10月からと畜時に全月齢を対象に検査(肉骨粉飼料の禁止、特定危険部位の除去も決める)

2005年8月 検査月齢を全月齢から21カ月齢以上に変更、21カ月未満の自主検査には3年間、経過措置として国庫補助

2008年8月 経過措置終了後も、全自治体は独自予算で全頭(全月齢)検査を継続

2009年1月 国内最後のBSE感染牛確認(36例目、2000年8月生まれ)

2009年4月 全国のと畜場でピッシング完全に中止

2013年4月 検査月齢を30カ月齢に引き上げ、30カ月齢以下の自主検査には、当面国庫補助を継続するが、さらなる基準引き上げ時点で完全に廃止

2013年7月 検査月齢を30カ月齢から48カ月齢に引き上げ(予定)

●食品安全委員会の評価書、内容は良いのだが

 国産牛の検査対象月齢を48カ月齢に引き上げるという食品安全委員会の評価書案は4月9日から5月8日までパブリックコメント募集中だ。

 前回(2012年9月)のパブコメでは、国内産と輸入の両方の評価が混在し読みにくかったが、今回は国産牛だけで、書き方、項目の流れも整理され読みやすくなったと思う(科学的な評価書なので新聞記事のようにはいかないが)。

 肉骨粉の使用禁止などBSE対策が徹底し、2002年1月に産まれた牛を最後に11年間、1頭も国内では発生していない。もしBSE感染が確認されるとすれば、国内、国外の事例から97%は満11才までに見つかっている。だから、飼料規制などBSE対策が継続される限り、今後、国産牛でBSEが発生する可能性はほとんどないというのが評価書の内容だ。

 今回の見直しでは、異常プリオンが蓄積しやすい特定危険部位の除去は変更しない。つまり31カ月から48カ月齢のと畜牛の検査はしないが、特定危険部位は除去される。これも評価書の要約の最後に、注釈として書き加えてあれば、、食の安全・安心のリスク評価書としてはより親切だっただろう。

 ただ一点、いただけないのはパブコメやリスクコミュニケーションの最中に、厚生労働省が48カ月齢への変更は7月1日から実施すると公表したことだ。

●7月1日に向けて着々と 自治体は全頭検査廃止に足並み揃える?

 4月19日、厚生労働省は「国産牛のBSE全頭検査一斉見直しに関する地方自治体への依頼」と題する通知文書を出した。
全頭検査の見直しは都道府県ばらばらではやりにくいので、全国一斉に揃ってやめられるよう国の方で調整してほしいとの要望が自治体からあったので、それに応えて「みんな揃って国の基準に合わせてください」という要請文書だ。

 なんとも正直ベースのお役所文書だが、別添のPDFで「見直しはパブリックコメント、審議会報告等を経て、本年7月1日に施行する予定です」と日付を明示している。

 現在、募集中のパブコメで、48カ月齢への引き上げを否定するような科学的意見は出てこないだろうが、はじめに施行期日ありきでは、「パブコメは形式的な通過儀式」、「意見など反映させる気ははじめからないのだ」と思われても仕方ない。パブコメが5月8日に締め切られ、意見を集約して2,3日後に厚労省は通知文書を出すべきだったと思う。

●危険なピッシングは4年間放置していた

 少しぐらい手続きを遅らせてもよいではないかと思ったのは、ピッシングの完全禁止までの厚労省や農水省の対応の遅れが記憶にあったからだ。

 ピッシングとは、と畜のとき牛の脚が動かないように失神させてから頭部にワイヤ状の器具を差し込んで、せき随神経組織を破壊する作業だ。しかし、感染牛の場合、この作業で異常プリオンが血液に流れ込んで枝肉を汚染する危険があり、欧米では以前から禁止されていた。

 日本でも、2005年の月齢基準改定の際、「ピッシングはできるだけ速やかに中止するよう」勧告されていた。しかし、米国でも禁止されているピッシングの完全禁止に日本は約4年を要した。

 厚労省はピッシングの実態調査結果を出している(2009年6月)。

 全国のと畜場でピッシングを続けている施設の割合は、72%(2004年)、58%(2005年)、40%(2006年)、22%(2007年)、4%(2008年)で、2009年4月にようやくゼロになった。この間の都道府県の対策にもばらつきがあった。と畜施設の現場の事情を配慮したといえばそれまでだが、国民の食の安全より生産者の事情を優先させたことになる。

 この間、都道府県は「安全安心確保のため全頭検査を続けます、国産牛肉は安全です」と宣伝してきたが、「まだピッシングをやってます。体制が整えばやめます」、「全頭検査をしているから、感染牛がピッシングされることはないでしょう」など正直ベースの情報はほとんど消費者には伝わらなかった。メディアでも私の知る限り、毎日新聞の小島正美記者が書いていたぐらいで(2007年10月2日、記者の目)、食の安全・安心に敏感な消費者団体からの鋭い追求もなかった。

●全頭検査を続けるのも商業的には選択肢の一つ

 都道府県一斉に足並みを揃えて国に従うのではなく、「我が県は独自予算で全頭検査を続けます」と宣言するのも商業戦略としてはありうると思う。マスメディアや大手流通業、生協がこの英断を賞賛してくれれば、宣伝効果は抜群で、売り上げも伸び、独自の検査予算(数百万から数千万円)の元はすぐとれるだろう。

 「畜産王国、ホッカイドウのブランドを守るため」とか「近江牛のブランドイメージのため滋賀県は全頭検査にこだわり続けます」と宣言しても勝算ありのようにも思うが、そんな個性派知事はいないのだろうか。

 今回の月齢基準見直しを機会に、若齢牛の全頭検査が中止になれば、一番ほっとするのは都道府県の家畜衛生保健所の検査員だろう。検査は獣医師が担当しており、若齢牛で、しかも歩様など行動に異常のない牛をいくら検査しても、異常プリオンが検出される可能性はほとんどないことは彼らが一番よく知っている。

 業務とはいえ、検出される可能性のない検査を延々と続けるのはむなしい。しかし、一次検査では、陽性か陰性か判定できない擬陽性のケースも出るので、アルバイト職員に任せるわけにもいかない。プロの獣医師が長年、やっても無駄とわかっている全頭検査に黙々と従事してきたのだ。専門家をもっと大事な別な仕事に活用できるのが、今回の全国一斉全頭検査中止の最大のメリットと言えるだろう。

 7月1日の月齢基準引き上げ後の次の山場は、輸入牛の検査基準のさらなる変更のときだ。米国産、カナダ産、フランス産など海外からの輸入牛肉の検査月齢の見直しも、各国からのデータが揃いしだい結論を出していく方針で、食品安全委員会プリオン専門調査会は検討作業を続けている。

 複数国まとめての答申となるのか、データが揃った国から順次となるのかわからないが、食品安全委員会、厚労省、農水省はこんどはどのようなスケジュールで国民への理解、啓蒙活動を進めていくのだろうか。

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