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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

アマゾン熱帯林とヨーロッパのダイズ輸入の関係

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2013年7月3日

 アマゾン熱帯林の違法伐採を禁止したブラジル国内法(法定アマゾン)の成果か、最近は熱帯林の伐採面積はやや減っているが、それでも地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの吸収源としてアマゾン熱帯林を守れと言う世界の声は強い。

 中国など新興国の食生活レベルの向上で、家畜飼料のダイズや牛肉の輸出が増え、ダイズ畑や牧草地に変わったためというのが熱帯林減少の理由になっているが、一時期、ブラジルからヨーロッパへのダイズや牛肉の輸出も急増した。これにはヨーロッパで発生したBSE(牛海綿状脳症)が関係していることはあまり報じられていない。

人間の消費活動と熱帯林伐採の関係を分析
 今年(2013年)4月、ノルウェーの非営利団体「国際気象環境研究センター」の研究者がEnvironmental Research Letters誌に「アマゾン熱帯林の伐採による二酸化炭素放出への人間活動の係わり、1990~2010年のデータからの分析」という論文を発表した

 20年間(1990~2010年)の統計データをもとに、熱帯林伐採面積、牛(肉)の生産量、ダイズの栽培面積を調べ、牛肉とダイズは国内向け、輸出用に分け、二酸化炭素排出量に占める割合を推定した。

 分析の主な結果は以下のとおりだ。
1)ブラジルの二酸化炭素排出量の30%は熱帯林伐採によるもので、伐採された土地の29%は大豆畑に、71%は牧草地・牧場になった。
2)ダイズ畑は20年間の平均で国内向け、輸出向けが半々だが、20年間で輸出の割合が33%から69%と倍増した。
3)牛肉は平均で国内向け85%、輸出が15%だが、輸出は20年間で12%から18%に増加した。
4)熱帯林の伐採は1995年と2004年前後に2つのピークを示し、欧州向けのダイズと牛肉の輸出増加と一致した。
5)最近(2005年以降)は、欧州向け輸出は減り、中国へのダイズとロシアへの牛肉輸出が急増している。しかし、熱帯林の伐採率は年々減少している。

 ややわかりにくいが、1~3をまとめると、熱帯林伐採は面積ベースではダイズ畑より牧草地の方が多いが、農産物の輸出割合はダイズの方が高いので、輸出品ベースでみた二酸化炭素排出量はダイズが牛肉よりも多くなるということだ。

 論文では、「アマゾン熱帯林の減少は○○国への輸出が原因」とは断定せず、熱帯林減少には先進国や新興国への農産物輸出が関与する割合が高く、今後、熱帯林伐採を抑制するためには、輸出市場など世界スケールの人間の消費行動も考えて対策をたてるべきだと述べている。

ヨーロッパ向けダイズ輸出が増えた理由
 結果の4と5で、新興国の中国やロシアへの輸出が増えているのは理解できるが、1995年と2004年前後に欧州向けのダイズと牛肉の輸出が増えた理由が興味深い。

 これは2007年9月のGMO情報「遠くて近い組換えダイズと生物多様性の関係」でも紹介したが、BSE(牛海綿状脳症)の発生が一因となっている。
BSEは1986年にイギリスで初めて感染が確認され、その後、欧州各地に広がり、1992年には最大で3万7千頭以上が感染、2005年に終息に向かうまで毎年数千頭の発生が確認された。

 欧州各国はBSEの感染源である肉骨粉など動物タンパク由来の餌を牛に与えることを禁止し、代わりにダイズをタンパク源とした。BSEも怖いが、欧州人は遺伝子組換え産品にも拒否反応を示した。ダイズの主な輸出国である米国とアルゼンチンは1996年から除草剤耐性の組換えダイズを導入し、そのシェアは年々高まっていた。ブラジルは2003年から組換えダイズの商業栽培を公式に始めたが、1990年代はまだ栽培していなかった。

 このため、欧州はブラジル産ダイズを大量に買い付けた。この時期、ブラジル産牛肉の欧州向け輸出が増えた理由には、口蹄疫の根絶達成で安価なブラジル産牛肉の輸出が増えたことや為替相場(レアル安)などいくつかの要因が絡んでいるが、ダイズの輸出急増にBSEと肉骨粉禁止が一役買ったのは事実である。

必需品の飼料用ダイズは素早く承認 トウモロコシは後回し
 肉骨粉の代わりのダイズをブラジルからの輸入に求めたように、欧州の畜産業界では飼料用ダイズの輸入依存度は高い。ダイズ需要の伸びとともに輸入依存率も上がり、2000年に74%だった依存率が2007年には88%に上昇している(EuroStatデータ)。

 ブラジルのダイズも今は約90%が組換え品種であり、欧州は飼料用ダイズをブラジルだけでなく、アルゼンチン、パラグアイなど中南米各国から輸入している。

 有機農産物は家畜の餌に組換えダイズやトウモロコシを使用しないのが決まりだが、一般の食品では組換え作物を餌とした家畜の肉や乳製品に表示義務はない。組換え食品嫌いと言われる欧州でも、家畜の餌のダイズやトウモロコシは大量に輸入され使われている。

 しかし、組換え作物を輸入して餌として使うには、食品・飼料の安全性審査を受ける必要がある。これが難関で畜産業界の悩み、いら立ちのもとになっている。

 安全性審査はEFSA(欧州食品安全機関)が評価するが、EFSAが科学的に見て食品、飼料に用いても問題なしと判断しても、その後の各国間の協議が難航する。

 食品チェーンと動物の健康に関する専門家委員会と農相閣僚会合では、EU(欧州連合)27国(今年7月からクロアチアも加わり28国)の意見が対立し、賛成、反対、棄権が入り乱れ、有効票数に達せず承認されない。

 先日も、害虫抵抗性と除草剤耐性の組換えトウモロコシ2件の承認が委員会で見送られた。「欧州連合 組換えトウモロコシの輸入承認にまた失敗」の見出しでEurActiv(2013年6月11日)が報じている。

 反対多数で承認拒否とはならず、反対国が次の会議では棄権に回り、決定が先送りにされるドタバタが繰り返されており、反対の理由は科学的なものではない。最後は行政府である欧州委員会がデフォルト採決で強行承認するというのがおきまりのパタンだ。EFSAの評価が出てから最終決着(輸入承認)までの日数はトウモロコシやワタでは300~500日、長いものは1000日以上も先送りにされることがある。

 ところが、飼料用の組換えダイズの承認手続きは早い。2013年からブラジルで商業栽培される予定の害虫抵抗性と除草剤耐性を併せ持つ組換えダイズはEFSAが2012年2月15日に安全性に問題なしと判断してから、132日後の6月27日にデフォルト承認された(欧州バイテクニュース、2012年7月10日)。
トウモロコシやワタなどではデフォルト承認どころか、委員会、閣僚会議の議題にもあがらず、承認を先送りにすることもあるので、必需品のダイズだけ特別扱いしているのは明らかだ。

 欧州では組換え作物・食品に対する市民の懸念、抵抗感は根強いと言われる。これは確かだろうが、規制管理や表示制度も厳しいかと言われると、果たしてほんとうにそうなのかと思ってしまう。輸入品なしではやっていけないダイズは素早く承認するが、多少遅れても影響の少ないトウモロコシやワタはなかなか承認しない。

 科学的理由で判断していると言いながら、そのときそのときの政治や経済事情で承認するしないを決めているのだ。こんなことを続けていたら組換え作物栽培国(輸出国)の南米や北米に足下を見られることになると思うのだが。

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