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執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農と食の周辺情報

イヌサフランをミョウガとまちがえて食中毒、季節感がなくなったため?

白井 洋一

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 「イヌサフランをミョウガとまちがえて食中毒」という記事が先月(2013年6月26日)の産経新聞に載っていた。

 記事によると60代の女性が札幌市の姉の家の庭に生えていたイヌサフランの球根をミョウガとまちがえてゆでて食べ、食中毒をおこし入院したという。

 イヌサフラン(ユリ科)は花を楽しむ園芸植物。有毒物質であるコルヒチン(アルカロイド)を含んでいることは知らなくても、食べられる植物でないことは多くの人が知っているはずだ。

 私がこの記事を読んで不思議に思ったのは、ミョウガ(ショウガ科)とまちがえたとしても、6月下旬の北海道、札幌の野外でミョウガが採れるのか、こんな時期にミョウガはおかしいと思わなかったのかということだ。

 ミョウガは夏から初秋の薬味野菜だが、温暖化の影響で6月下旬に札幌でも露地物が出回るようになったのか?それともハウス栽培ミョウガは1年中スーパーで売られているので、露地ミョウガの季節感がなくなったのだろうか?

 翌日(6月27日)、厚生労働省から「有毒植物による食中毒予防の注意喚起について」という通知文書が全国の保健所あてに出された。

 先の札幌の食中毒のほか、6月3日には石川県でジャガイモとまちがえてゆでて食べ女性2人が食中毒を起こした。今回、死者は出なかったが、過去10年にイヌサフランを食べて死亡した事例が2件あるので注意しましょう、消費者や関係事業者への注意喚起をお願いしますというものだ。

 この通知文書には参考として、厚生労働省版「自然毒のリスクプロファイル」を紹介している。

 リスクプロファイルには、魚貝類やキノコとともに山野草(高等植物)があげられ、写真もきれいで解説文とともに読んでためになる資料だ。

 イヌサフランの項を開くと写真が出てくる。

 確かに葉はミョウガに似ているが、花も含めジャガイモと姿形は全然違う。どうしてまちがえるのかと思ってしまう。

 私は学生時代、ハシリドコロ(ナス科)、ルイヨウボタン(メギ科)、ノアザミ(キク科)などの野草を食べるテントウムシの研究をしていたので、ハシリドコロの項を開いてみた。

 ハシリドコロとは根茎部(トコロ)を食べると走り回るほど苦しくなることから名前がついたが、トリカブトと並んで有名な毒草だ。雪解けとともに他の植物に先駆けて芽を出し大きな葉を付けるので、春の信州では観光客がなんかおいしそうな山菜とまちがえる事故がよくある。私も調査中に「これは何?」、「食べられるのか?」と何度か聞かれたことがあった。ハシリドコロにはアトロピン、スコポラミンという有毒アルカロイドが含まれ、鎮痛薬にも使われるが、ちょっとなめても舌がしびれはき出してしまう。食中毒をおこすほど食べてしまうのが不思議だ。

 ハシリドコロを大学構内に移植して実験していたら、コンフリー(ヒレハリソウ)(ムラサキ科)と似ていて紛らわしいと他の研究室の教授に注意されたことを思い出した。

 そのコンフリーも当時(30年以上前)は食用やお茶用に使われていたが、過剰に取ると肝障害を引き起こすピロリジジン(アルカロイド)を含むことがわかり、現在は食べてはいけない植物になっている。

 ベニバナインゲン(マメ科)も有毒植物のブラックリストに入っているのでびっくりした。

 ベニバナインゲンは、「ハナマメ」とも呼ばれ、東北や長野、山梨の高原地帯で栽培されている。草丈が高く広い面積で栽培されるので紅色(橙色に近い)の花が夏の高原ではひときわ目立つ。ベニバナインゲンを食害する侵入害虫(インゲンテントウ)が1990年代に長野と山梨県で発見され、その防除対策にかかわったことがあるので、この植物も私にはなじみ深いものだ。

 ベニバナインゲンがなぜ有毒植物なのか? インゲンマメ同様、ふつう生では食べない。煮豆や餡として利用される。解説文によると、よく加熱すれば問題ないのだが、不十分だとレクチン(有毒タンパク)が残る。最近、健康食品として機能性を強調し、調理方法、熱処理の必要性をきちんと書いていないものが多く、食中毒が増えているとのこと。

 健康食品ブームだ。ベニバナインゲンに限らず通常の調理法で加熱すれば問題ないのに、健康に良いを強調し、生や半生で食べるとかえって危ないことになる食品、植物は増えているのかもしれない。

 厚生労働省の通知の最後のページには「一部地域で、山菜から放射性物質が検出されています。山菜狩りをする場合は、十分ご注意を」とも書かれている。

 私の住む茨城県南部では2011年3月の原発事故の後、今もタケノコや山菜の出荷は止まっている。ワラビを採る人も減ったし、秋にクリ拾いをする子供の姿も見かけなくなった。

 私は気にせず近所でワラビを採っている。ここのワラビは4月初めから7月終わりまで、早生から晩生まで同じ場所で採れるちょっと珍しい場所だ。先日も35度の炎天下の中、ワラビ採りをし、放射性物質を気にしない年代の人にも送った。

 「この時期にワラビが採れるんですか、珍しいですね」というのはワラビの旬を知っている人。山菜もハウス栽培や真空パック売りが年中出回っているので、ワラビの旬を知らない人も多いかもしれない。あく抜きの方法を知らない人も多い。重曹(タンサン、炭酸水素ナトリウム)である。ミョウバンではない。ミョウバンはナスの漬物用だ。

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介