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執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農と食の周辺情報

地球温暖化 今世紀末の平均気温上昇より心配な毎年の極端現象多発

白井 洋一

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 地球温暖化は人間活動の結果、二酸化炭素など温室効果ガスの排出が増えたためという「人為的原因」説を疑う科学者もけっこういる。それはともかく平均気温が上昇し温室効果ガスの排出量も増え続けているのは事実だ。温暖化を人間の力によって抑えたり、進行を遅らせたりすることがほんとうにできるかどうかはわからないが、さし迫った問題は80~90年後、今世紀末の平均気温が3度から5度上昇することではない。

 その頃まで生きている人は少ないが、今年、来年と毎年の異常気象現象が世界各地で頻発している。2013年7月3日、世界気象機関(WMO)は「2001~2010年の10年間は1901年以降でもっとも異常気象災害の多い10年だった」と発表した。

異常気象現象と極端現象
 気象庁によると異常気象とは「気温や降水量などが平年値(過去30年間の平均値)に対して著しい偏りを示す現象」であり、WMOも「平均気温や降水量が平年値から著しく偏り、約25年に1回程度しか起こらない現象」と定義している。

 地球温暖化問題を議論する会合でも今後起こりうる問題として「地域的な気候変化と極端現象の増加」をあげている。異常(気象)現象と極端現象、どちらも英語ではextreme eventだ。

 「異常気象はよく聞くが、極端現象という言葉はあまり一般にはなじみがない。イコールのものなか?」と知人の気象研究者に聞いた。「極端現象とは異常気象にプラス、他の現象が含まれるが、まあ大きくイコールととらえても良い」とのこと。

 専門家の間でも極端現象の定義はまだ定まっていないようだが、要は地球温暖化の進行とともに25年か30年に1回程度の異常気象現象が増えているということだ。

 25年か30年に一度というと、一生のうち3回か多くて4回の経験で済むが、これからはもっと異常現象に遭遇する機会が増えるらしい。

異常気象現象が急増
 今年の7月は地球温暖化と関連する異常気象現象増加の報道が相次いだ。

「地球表面の平均気温、過去10年で最も高く、世界気象機関」(読売新聞、2013年7月4日)

「猛暑日日数、40~50年で3倍に、気象庁」(朝日新聞、7月11日)

「世界各地で豪雨、大洪水相次ぐ、日英研究グループ」(共同通信、7月18日)

「今世紀末、日本各地で大雨の頻度増加、防災科学技術研究所」(毎日新聞、7月19日)

「2050年に北極海の海氷消滅、大気循環変わり日本も異常気象頻発、米中研究チーム」(毎日新聞、7月20日)

「気象庁が特別警報の目安発表、50年に一度のレベル、8月30日から運用開始」(共同通信、7月31日)

「異常気象で内戦や部族紛争多発 米国カリフォルニア大 過去1万年のデータ分析」(共同通信、8月2日)

台風や洪水被害は避けられるが高温、熱波は避けられない
 最初の記事(読売、7月4日)はWMOが7月3日に発表した「世界の気象2001~2010年、異常気象の10年」によるものだ。

 WMOの報告書では1901年以降の世界各地の信頼できる観測データを分析している。地球表面の平均気温は2001~10年が14.5℃で、前の10年(1991~2000年)より0.2℃高く、100年前(1901~10年)より0.9℃上昇した。陸地の気温とともに海水表面の水温も2001~10年が最も高くなった。

 気温、海水温の上昇と関連すると考えられる熱波、洪水、台風、サイクロン、高潮などの被害が増え、異常気象災害による死者が20%も増えた。注目は台風、サイクロン、洪水の頻度は増えたが、これらによる死者数は減っていることだ。災害頻度とともに死者が増えているのは熱波と異常低温だ。とくに熱波による死者は前10年比で23倍も増えている。

 報告書では洪水、サイクロンなどによる死者が減ったのは予報精度の向上で住民が避難できたためとある。逆に言えば熱波、高温はたとえ正確に予測できても、避難する場所もなく難を逃れることはできないと言うことで、将来が悲観されるレポートだ。

異常気象災害に弱い発電施設 保守点検と建て替えが必要
 異常気象災害というと、人の命、健康や農作物への影響がまず頭に浮かぶが、エネルギー(発電)分野への影響もある。米国エネルギー省は7月11日に「気候変動と異常気象現象にもろい米国のエネルギー部門」を発表した。

 この報告書は2012年に米国で起こった2つの異常気象災害から、今後の備えとしてまとめられた。2大災害とは7~8月の熱波・大干ばつと10月のハリケーン「サンディ」による高潮、浸水被害だ。

 昨年夏の米国中西部(コーンベルト地帯)の大干ばつはトウモロコシや大豆の不作、価格高騰で日本でも大きく報道された。エネルギー省報告では、熱波、干ばつが発電施設に与える悪影響として、水力発電では貯水量の低下、火力発電では河川の水位低下で内陸の発電施設へ石炭、石油など燃料供給ができなくなることをあげている。ミシシッピー川の水位低下が運搬船の航行を制限し、物流に大きく影響したのは事実で、発電施設にも影響することを示している。さらに降水量不足は、火力発電所の冷却水不足を招き、大規模な山火事で送電線網も被害を受けると危機感を強めている。

 10月のハリケーン「サンディ」では高潮や浸水で各地で長期にわたり停電した。近年の大型ハリケーンは海水面の異常上昇をともなうので、沿岸部に立地する火力発電所や原子力発電所は高潮や浸水防止策をたてる必要がある。停電とともに原発、火力とも冷却水の供給不足もおこり、送電線網の老朽化も心配のタネらしい。

 エネルギー省は以上の問題点を指摘した上で、これからの対策として4つの提案をしている。
・水の利用を減らす。水力発電所や油田・ガス田開発では水の再利用を進める。
・電力会社は送電網の保守強化とバックアップ体制をつくる。
・水力発電所のタービンやダムを省エネ仕様に改善する。
・市民、企業ともすべての電力ユーザーがエアコンの使用を減らし節電と節水を心がける。

日本でも考えないと
 いずれもごく当たり前で地味な提案だ。エネルギー浪費大国の総本山とも言われた米国エネルギー省が市民、国民に節電、節水の心構えを説いているのだ。

 今年の夏は気象庁の予報通り暑い。原発事故の前年(2010年)は9月下旬まで猛暑が続いた。9月22日、関東地方では最高気温が30℃を越え、「中秋の猛暑日」だった。今年も猛暑が続くと電力供給に影響がでてくる可能性がある。今は旧型の火力発電所をフル稼働させてしのいでいるが、耐用年数や保守管理も考えなければならない。だから原発再稼働を進めるべきとは言わないが、温暖化、暑い夏、異常気象災害の多発はこれからずっと続く。想定される問題点をすべてとり出し、対策を準備しなければならない。熱波、猛暑は避けて通ることはできないし、先送りにすることもできないのだから。

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介