科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

食品添加物表示制度のゆくえ~第2回食品添加物表示制度に関する検討会を傍聴して

長村 洋一

キーワード:

現在、消費者庁で開催されている「食品添加物表示制度に関する検討会」の第2回は、消費者団体の代表者からのヒアリングであった。選ばれた消費者団体は5団体で、質問事項に回答をする形で持ち時間15分の意見表明である。このうち、添加物は安全性がほぼ確立されてきたとみなしている団体と、そうでないとする団体とで認識の食い違いがあった。

物質名表示、一括名表示、用途名表示などの表示の在り方に関しては意見が異なったが、無添加表示に対しては優良誤認の助長を理由に「反対」で一致していた。以下、私が傍聴した内容をかいつまんで私の受けた印象とともに紹介させていただく。

●生活クラブ生活協同組合の発言

生活クラブ生活協同組合(神奈川)理事長の藤田ほのみ氏は、最初に組合活動全般は、組合が発行しているパンフレット(Think&Actデータブック2019)を紹介し、「食品添加物は国が認可しているものすべてを認めているわけではなく、国は820品目認めているが我々は85品目のみを認めている」として、現行制度は安心な状態ではないことを強調された。

そして「現在の表示方法そのものは見やすくなっているが、一括名表示によって危険な添加物が隠されてしまっている。物質名表示をより徹底することこそ最大の普及啓発と考える」と、使用添加物すべてを物質名で表示すべきと強調された。それに伴って表示面積が増加するが、その増加分は任意表示のスペースを減らせばできる、と述べられた。

このような取り組みをせざるをえないのは現行制度に対する不信感があるからで、その具体例として、アカネ色素が禁止になったように既存添加物の安全性が未知であること、食べ合わせによる相乗効果による危険性が未検証である、さらには乳幼児も摂取するのに乳幼児のADIが定めてないことが説明された。最後に無添加表示は食品添加物を一切使用していないとの優良誤認を招くので禁止すべきとまとめられた。

藤田氏の以上の説明に対し、オブザーバーとして参加した厚生労働省の担当者から、
・既存添加物に関しては平成7年の食品衛生法改正時に長年使用された489品目の使用販売が認められた。これを受け、平成8年度に安全性評価の検討について分類分けがなされ、流通実態が少ない等の理由で124品目が削除されていること
・さらに平成8年度の分類分けで「安全性を行う必要があるもの」66品目の洗い直しが開始され、現在までに62品目が終了していること
・食品添加物の複合影響については、平成18年度に食品安全委員会が調査事業を行い、個々の添加物の評価を十分に行うことで、複合影響についても実質的な安全性を十分に確保できると結論づけられていると承知している、との回答がなされた。

藤田氏の発言を聞いて私が感じたのは、市民公開講座等でお会いする、化学物質に関して怖いものと捉えられている方々はこうしたリーダーに育てられておられるのだろう、ということであった。資料のパンフレット(Think&Actデータブック2019)を拝見すると、添加物に限らず安心した生活を営めるようにと並々ならぬ努力をしておられる姿が良く伝わってくる。

しかし中には「食品の包材も化学物質無添加を追及」(p6)といった表題が見られ、中を読んでみると排除しようとしておられるのは、酸化防止剤、滑剤、着色剤等とあり、人工または合成といった化学的な変化をした物質を化学物質と総称されていることが分かる。合成化学物質=危険化学物質という考え方には強い違和感を感ずる。

このような考え方の人たちは果たして化学物質のリスク評価の概念をお持ちだろうかとの疑問がぬぐえない。したがって、この団体がお使いにならない85品目以外を含めてすべてを物質名表示にしたとしても、本当にその方々にとって有用な手段となりえないのではと私は考えている。

●食のコミュニケーション円卓会議の発言

食のコミュニケーション円卓会議代表の市川まりこ氏は、食品添加物の安全性は確保されている、という前提をおいての説明であった。そんな観点から一括名表示や、用途名表示は現状で良いが、文字が小さすぎて読みにくい、さらに物質名表示になったら意味が分からなくなるのではないか、と主張される一方で、栄養強化の表示は省略が認められているが、添加されている以上表示すべきである、と話された。

市川氏はさらに無添加表示の問題に対して、保存料無添加は、食中毒のリスクを高める、必要な保存性を避けることで環境への負荷やコストを増大させる、安全な添加物を避けるべきと思わせる、添加物が健康に悪そうだと思っている消費者の弱みにつけ込んでいる、無添加商品が健康上優れているような誤認を利用していないかと指摘して、無添加表示に規制をかけるべきであると訴えた。
最後に消費者の理解はなぜ進まないのかという項目を立てて、添加物問題の根源として消費者教育を取り上げた唯一の団体であった。

市川氏の姿勢は、食品添加物の安全性は一応確保されている、との立場にたっての発言であり、私としては納得できる内容であった。例えば無添加表示に対して他の方々は、漠然と優良誤認を指摘されているのみであるのに対し、添加物の利点を否定する具体例を指摘して無添加表示の問題を掘り下げた。特に私が日頃強く感じている消費者へのリテラシー教育の必要性を取り上げられたのは印象深かった。

第1回の検会に関する記事にも書いたが、添加物の安全性の確保に関する現在の日本の在り方は大筋において誤りはなく、今後は昭和40年代頃に見つかったような大きな問題は起こらないと考えている。こうした状況にあっては、大量流通そして健康を考えた食生活をしなければならない人たちのために添加物の有する利点を有効利用する時代に入り始めている、と感じているのでそのためには消費者の理解が第一であるからである。

●食品表示を考える市民ネットワークの発言

食品表示を考える市民ネットワーク代表の神山美智子氏は、東京都が平成4年に出した市民向けに作られたカラー刷りブックレット「天然添加物」は大変すばらしいが現在は入手できない、との話で始まり、消費者庁でもパンフレットなど出してくれれば消費者の理解を広めることになるとの要望があった。

また、ネットワークで作成しているブックレットを示して、「たとえば一番問題ではないかと思っている類別名表示で増粘多糖類があり、既存添加物名簿の中に40くらい増粘安定剤があるが2つ以上使ったら増粘多糖類でいいとされ物質名が書かれていない。また調味料(アミノ酸等)では何が入っているのか不明である、さらにこれらに限らず添加物にアレルギーのある方などはそれを知らずに食べたら大変なので物質名で全部表示すべきである」と述べられた。

神山氏の主張は、内閣府令の原則を尊重すれば当然、全部物質名表示になるはずであり、物質名に変わる一括名、簡略名、類別名は廃止すべきであるということだ。「そうなると情報が過多になるという意見もあるが、そうなったら添加物使わなくなり、減らしていくのではないかとも思う」と主張された。最後に無添加表示については、保存料無添加と表示しながらグリシンを添加するなどの現状があり、こういった否定的な表示を禁止してほしいと提言された

神山氏の発言を聞いていると、毒性試験のデータが不十分という指摘など科学的に踏み込んだ発言のように聞こえたが、化学物質に対するリスク管理の概念には疑問も感じられた。私の先入観的な見方かも知れないが、神山氏が言われる東京都のブックレットは現在同じような印刷物が出されていないということは、東京都がその内容が誤解を生じさせるか、必要ないと判断しているのではないかと考えながら聞いていた。

●日本生活協同組合連合会の発言

日本生活協同組合連合会組織推進本部本部長二村睦子氏は、生協の添加物に関する歴史として、食品添加物が心配された時代・1970~80年代に生協独自の基準を作成していたこと、そして食品衛生法改正運動と食品安全基本法制定までの1990年代後半~2003年を経て、現在は消費者・市民も関わるリスクアナリシスを前提として、リスクコミュニケーションを重視していると説明された。

そして、添加物に対する基本的な考え方について、食品添加物は食品安全委員会でのリスク評価、厚労省でのリスク管理がされており、食品添加物表示は「選択に資するための情報」と捉えていると強調された。

そのうえで、
・食品安全委員会設置前に指定された指定添加物・既存添加物は、優先順位をつけながら安全性の再評価、再検討に取り組むべきと考えている。
・そこで「使わないほうが安心と考える人・場合」「使ったほうが安心と考える人・場合」があるので使用状況を選択の参考にしたい、というニーズには応えるべきである。
・現行の制度の変更は消費者にとっても、事業者にとっても周知徹底までの時間と労力が必要と推測されるので、現行制度の振り返り(レビュー)をして、消費者にとって必要な表示の姿について検討すべき
としたうえで、現在の生協の取り組みの具体例をいくつか説明された。

最後に今後の検討に向けての要望として、以下の3つの提言を行った。
・現行の表示制度は、消費者に定着しており、一定の役割を果たしている。まずは、現行制度の丁寧なレビューを行うべきではないか
・「不使用・無添加表示」については、制度変更以前に、「食品表示基準Q&A」の周知徹底・運用強化を行うべきではないか
・表示の目的、優先度について社会的な合意づくりが必要。本来的には、食品表示全体の考え方の整理、表示項目・内容の優先度についての整備を先に行う

私はこの日本生協連の提言はかなり的確であると感じた。私は昭和の終わりころから名古屋市消費者センターをはじめ、ここ15年くらいは全国で市民公開講座のような形で講演をしてきたなかで、いわゆる生協の人たちと議論になることが非常に多かった。そんな議論を思い出しながら二村氏の発言を聞いて、食品添加物に関する現行制度の施行に当たっての生協の果たした役割の大きさを考え直していた。そして生協自身もこの30年ほどで大きく進化したと感じた。

●一般財団法人消費科学センターの発言

最後に話された一般財団法人消費科学センター理事の犬伏由利子氏は、「そもそも食品全般における表示とは選択の手段に使用できるものでなくてはならない。物質名で表示されていても何のために入っているのかが理解できなければ意味がない。本当に消費者が知りたい表示は、安心しておいしく食べられるための表示でなければならない。従って期限表示やアレルギー表示などは重要だが、詳細はITを使用して知ることができればよい。」と現状をまとめた。

このような観点から消費者庁への要望として「添加物の表示に関しては、その用途・目的を記入し、物質名はホームページに譲るといったこともあって良いのではないか」と述べられた。

私は、犬伏氏は一般消費者の最も多い集団の姿を把握しておられるうえでの発言であると感じた。実際に物質名で添加物が表示されていても、一般消費者がどこまでそれを理解して商品選択の基準として使用するか大きな疑問であると私も感じている。犬伏氏も食品添加物制度における添加物の安全性は一定レベル確保されていることを前提とした発言で、具体性に富んでいると感じた。

そして発言はされなかったが、提出された資料には「ADIをどこまで信じるかは人それぞれだと思いますが、国として国民の健康を考えて叡智を絞ったものとしてもっと啓発すべきなのではないでしょうか。文部科 学省や厚生労働省との連携を緊密にとるべきだと思います」と消費者への啓発教育が必要であることを提言されている。

●全体の印象

以上の5団体の発言をまとめてみると、あくまでも物質名表示をすべきとこだわられたのは、藤田氏と神山氏であった。私は自身の市民公開講座等の経験など基に考える時、物質名で表記しても実質利用する人はほとんどいないと推測している。従って商品その物にたくさん物質名表示は必要なく、IT等を使用して知りたい消費者がすぐ調べられる環境を整備すれば良いと考えている。

前述したとおり、添加物に関する現行の制度はリスク管理機能が働いていて大きな事件を発生させるようなことは非常に考えにくい状態となってきており、消費者庁は現在の添加物の状況に関してしっかりした消費者教育によるリスコミを行う必要があると感じている。実際に奈良市が消費者庁と共催で行った添加物に関連した市民フォーラムにおける意識の変化についての報告を見ると、しっかりとしたリスコミを行えばそれなりの成果が上がることを読み取ることができる。

しかし、この場合にいわゆる最も一般的な消費者をどのような意識レベルであるかを正確に判断しないと、いくらリスコミをやっても空回りしてしまう可能性がある。その点において今回の犬伏氏の提言や、当日意見を述べられた武石徹委員の「消費者ニーズの的確な把握のための検証について」の指摘は、今後の検討において是非考慮していただきたく考えている。

最後に無添加表示に関しては5団体とも非常に厳しい姿勢を取っておられるので、是非何らかの制度的な規制案が提言されることを望む次第である。

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

食や健康に関する間違った情報が氾濫し、食品の大量廃棄が行われ、無意味で高価な食品に満足する奇妙な消費社会。今、なすべきことは?