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松永和紀のアグリ話

番外編・吉川泰弘・東京大学大学院教授にBSE問題、食品安全委員会の委員人事不同意について、とことん聞いてみた(3)

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2009年7月29日

リスク評価が間 違っているとい うのなら、その根拠を示してほしい
松永:政治家や消費者団体、リスク管 理機関など、多くの人たちの思惑が複 雑に絡み合う中で、食品安全委員会は BSE(牛海綿状脳症)に関するリスク 評価を出さざるを得なかったわけです ね。

吉川:実際のリスク評価は、そんな思 惑とは関係がありません。分かってい るデータはこうで、わかっていないの は何で、どこまで自分たちは分析でき てどこからはできないか、検証するだ けです。僕自身としては、今でもあの分析方法は間違っていなかったと思っています。

  全頭検査で安全が買えるというのは 間違いで、若齢牛については、検査の 限界があるということを国民に伝えな ければならなかった。検査でつかまえ ることができないので、SRM(特定危 険部位)の除去、ピッシングの排除を 行うというメッセージを伝えました。 それがどこまで理解されたかは分かり ません。科学的評価の結果を自分がど う利用するかは、各自の対応でしょ う。

 米国・カナダ産の牛肉についても、 同じように科学的に検証しリスク評価 したと僕は思っています。ただ、その 時の大前提がまだ行われていない管理 措置を含む評価だったというのが、難 しい点でした。この前提が守られな かった時には、評価シナリオは全部崩 れるのですから。でも、輸入再開後の 米国の対応を見ると、誠意を持ってリ スク評価に対して応えてくれているの ではないかなあ、と思います。輸入再 開直後、SRMである脊柱を含む米国産 牛肉が発見されると、米国は「これ は、米国側のルール違反である。 ヒューマンエラーかシステムエラーか 検証する」と言ったし、データもきち んと送ってきました。だから、国会で もそう答えました。これは、思想信条 とは別問題、事実なのです。

  国内が科学的評価とはかなりずれた レベルで動いているのは、地方自治体 による全頭検査継続を見ても明らかで す。でも、リスク評価そのものに介入 しなければ、どう利用してもいい。い や、それは言い過ぎかな。なるべく評 価を重んじてほしいけれども、それぞ れ戦略があり戦術も違うので、仕方が ないです。しかし、評価自体の科学的 正当性を理由もなく否定することはや めてもらいたいし、評価が間違えてい ると思うなら、その根拠を示して反論してほしい。

科学者が食品安全委員会の委員を引き 受けたがらなくなっている
松永:プリオン病という非常に難しい ものを対象に、食品安全委員会は大き な責任を引き受けて、責任ある回答を 出しました。委員の先生方は、長い時 間を費やし研究の時間を割いて、責任 を引き受けた。なのに、立法府から非 難された。しかも、なぜ非難されるの か、明確な説明がない状態です。

  今回の問題を契機にして、専門調査 会の委員を引き受けるのを科学者たち が躊躇するようになっている、と私は 聞いています。ちょうど、専門委員の 改選時期にあたっているわけですが、 事務局が打診をしようとすると、断ら れてしまうという。これでは、リスク 評価自体が危うくなってしまいます ね。

吉川:今度の問題がなくても、そうい う人は多かったですよ。われわれのよ うに定年に近ければ、最後のご奉公と 思ってやりますが、自分で研究室を立 ち上げて第一線で動かさなければなら ない人は、時間的余力がないし、分析 結果、評価がどう活かされるかの結果 を見てしまうと、積極的にやろうとい う人は出てこないでしょう。

松永:今までは、時間を割かれる、責 任を伴うという理由で引き受けるのを 渋ったのでしょうが、今回のように科 学者が最善を尽くして覚悟して評価書 を出して、それでも科学的でない批判 を受けてしまうという姿を見てしまう と、若い先生方はますますいやになっ てしまうのでは。

吉川:同じことは、これからはないで しょう。そうでないと、困ります。シ ステムとして未熟だったから、プリオ ンの問題が科学的に難しかったから、 誤解を生じてしまったと信じたい。た だ、プリオンの難しさはなくても、 まったく別の価値観に巻き込まれてし まうと、同様の問題が起こりうるの で、そこをこれからどのように改善す るかが立法府にとっても食品安全委員 会にとっても大きな問題になると思い ます。

政党はリスク評価に介入するのか?
松永:どうしたらいいのでしょう か? 私などは、科学的な評価を理解 できない立法府が同意しないと食品安 全委員会の委員を任命できないなんて 仕組みはやめたらいい、と思ったりし ます。一方で、立法府は国民の代表な ので、立法府を完全に外してしまうの も難しい。

吉川:政治的な変動が激しくなった時 に、評価機関をコントロールしようと する政治的意思が動き出したら、食品 安全委員会の存在意義はなくなってし まいます。政治状況とは独立した形で 決められる方法を見つけなければなら ないのでは?

 例えば、人事の同意になぜ、党議拘 束をかけなければならないのか? 議 員が自分の責任でイエスかノーか考え る方がまだましかもしれません。党で コンセンサスを得る性格のものではな い。科学的評価結果を、政党間の対立 のテーマにすること自体がおかしいと 思います。

 もし、そういう状況が生じるなら、 その根拠について、政党は説明責任を 負うべきだと僕は思う。僕も何回も国 会に行っています。その時点で正当で ないという科学的根拠があるなら、ど うしてそこで議論してくれなかったの か。いや、議論すべきだろうと思うの ですが。僕は、そういう場を拒否した わけではない。

  政治的な混乱に巻き込まれて、動き がとれなくなるのは、中立的な科学的 評価という食品安全委員会の機能を否 定するのと同じことですよ。

松永:日本学術会議の会長と食品安全 委員会の委員長が談話を出したにも関 わらず、マスメディアがほとんど報じ ていないのも、おかしいですね。

吉川:間違えると政争の具になってし まう。そういうタイミングだから、取 り上げないのかもしれませんね。しか し、そんなこととは関係がなく、食品 安全委員会は自らの責務を果たしてい かなければならないと思います。

松永:今後は、政権を取った党がリス ク評価に介入してくるのでしょう か? 今回の件を見る限り、介入して 来かねない、と私は思います。そう なったら非常にまずい。国際的にも、 日本という国の信用が失墜してしまい ます。

吉川:もし政治信条を持って介入して きたら、中立的にリスク評価する科学 者はいなくなります。食品安全委員会 は空洞化するしかありません。

松永:生臭い話を、私が一方的にして も仕方がないですね。話を変えましょ う。

<インタビューして 松永和紀>
吉川教授の口からは、政党批判は一 切出なかった。ただ、政治的な思惑に 乗せられては食品安全委員会の存在価 値がなくなる、という強い危機感はひ しひしと伝わってきた。

 実は私は、このインタビューとは別 に、最大野党である民主党の政策調査 会に6月30日付で質問状をファクスで 送っている。連載している月刊誌「栄 養と料理」の記事執筆のための質問と して、吉川教授の食品安全委員会委員 任命人事を、党でまとまって同意しな かった理由/その根拠は、中西準子・ 独立行政法人産業技術総合研究所安全 科学研究部門長の論文なのか/日本学 術会議の会長談話に対する党の見解—- の3点を尋ねている。

 ファクスを送った後、担当者にアポ をとろうと政策調査会に何度か電話を 入れた。だが、たった1人しかいない という農林水産の担当者は常に不在と いう返事だった。ただ、電話に出た人 はこう言っていた。「担当者はファク スを見たようで、『回答しなきゃなら ない』と言っていたようです」。

 本来なら、専門調査会の部屋の前で 担当者を待ち、帰ってきたところをつ かまえて確認すべきなのだろうが、私 もそう暇でもないので、そこまではで きなかった。
 ファクスを送った6月30日の時点 で、民主党のウェブサイトに関連する 談話などが載っていないか、検索して かなり調べたつもりだが、私は見つけ ることができなかった。ところが今、 同党のウェブサイトには、民主党『次 の内閣』ネクスト農林水産大臣の6月2 日付の談話がアップされている。

  このページが、6月30日の時点で 「なかった」ということを証明するこ とは不可能だし、いつ民主党がこの内 容をまとめたのか、本当に参議院本会 議での不同意の前に、ここまで明確に 考えていたのかを知ることも難しい。 本連載の1回目で紹介した民主党議員 の議員運営委員会での説明と、このネ クスト農林水産大臣の談話とのあまり の乖離に、私は茫然とするばかりだ。

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