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松永和紀のアグリ話

ウインドレス鶏舎は不自然?養鶏巡る“珍”論争

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2004年4月14日

 養鶏に妙な論争が起きている。国が3月、鳥インフルエンザウイルス対策として、ウインドレス鶏舎(ウインドウレス鶏舎とも呼ぶ)の新設に最大半額の補助金を出すことを決めた。これに対して、「窓のない自然でない養鶏に、国が金を出すなんて」と、平飼い業者や市民団体などが反発しているのだ。窓のない養鶏って何?不自然ってどういうこと?

参照記事:京都新聞
 ウインドレス鶏舎がどんなものなのかを理解されないまま、誤解が誤解を呼ぶ状況がおきている。まずこれを整理したい。養鶏施設の種類は大きく3つに分かれる。ウインドレス鶏舎と開放型のケージ鶏舎、平飼いである。

 国が補助金を出すというウインドレス鶏舎は、窓がなく外から遮断されており、日照時間や気温、湿度、換気など、すべて人工的に管理される。鶏は5〜8羽ずつ金属製のケージに入れて何段にも積み重ねられて、1棟に数万羽が飼われる。

 給餌や卵集めなどにはベルトコンベアが使われる。糞も、鶏や卵に付かないようにすぐにケージから出され、しばらく溜めた後にまとめて取り出す仕組みだ。人による作業がほとんど要らないシステムにしてあるのは、人件費を削る狙いもあるが、人の出入りによって病原菌が中に入ることを防ぐためでもある。

 アンモニアや二酸化炭素濃度、糞から出る塵芥など、換気の管理はなかなか難しいらしい。だが、匂いが外に出にくく近隣住民との軋轢が少ない、という利点もある。鶏が多様な自然を見たり感じたりできないのでストレスがたまっている、という意見もあるが、これは鶏に聞いてみなければ分からない。

 開放型ケージ鶏舎も、2羽ずつ金網のケージに入れられ飼育されている。設備は新旧様々で、新しいものは給餌や卵の回収、糞の始末など自動化が進んでいる。それでも、初期設備費用は、ウインドレス鶏舎の半分以下だそうだ。外と遮断されておらず、虫などが入りやすい。酷暑の夏に、鶏が熱中症で集団死するニュースがよく流れるが、あれはこのタイプの鶏舎だ。

 平飼いは、鶏舎や屋外で、鶏が地面やコンクリート床などを自由に運動できるようにする開放型飼育。鶏は時には日の光を浴び、風に吹かれる。土の上に糞がたまると病原菌が増殖したりハエが卵を産みつけたりして不衛生になりがちなので、農家はこまめに鶏舎を掃除する。卵も人の手で集める。生産性は高くないが、最近は「自然の卵」として見直され、ウインドレス鶏舎や開放型ケージ鶏舎で生産された卵の2〜5倍の価格がついている。

関連サイト1:養鶏業者の間でも定評がある個人サイト「たまご博物館」の養鶏学コーナー
関連サイト2:中央畜産会・畜産経営技術Q&A

 これらの方式を比較して生産性や細菌汚染の程度を調べた研究もあるが、様々な結果が出ており、どれが良いとは言い切れないようだ。

 東南アジアで鳥インフルエンザの流行に火がついたのは、開放型ケージ鶏舎かららしい。一方、オランダで2003年に鳥インフルエンザが発生した最初の養鶏農場は、放し飼いだった。

 ウインドレス鶏舎は、野鳥を遮断することができるので鳥インフルエンザ対策にはかなり有効だが、人の出入りなどがある以上100%安全ではなく、米国ではウインドレス鶏舎で鳥インフルエンザが発生している。外の病原菌やウイルスにさらされていないので免疫力が弱く飼育密度も高く、ひとたび病原菌やウイルス、寄生虫などが中に入ると、集団が一気に感染する。

 それぞれの方式に一長一短があるのは明らかだ。ただし、著名な市民団体などが主張する「ウインドレス鶏舎は、大量飼育の薬漬けである」との論調だけは、事実誤認でいただけない。

 ウインドレス鶏舎は、平飼いや開放型ケージ鶏舎と比較にならないほどの初期設備投資を必要とする。そのうえに薬(抗生物質)漬けでは、激しい価格競争には勝てないのは自明のこと。抗生物質を使わない飼育をするために、病原菌やウイルスを遮断するウインドレス鶏舎を導入するのだ。

 2年前、ある養鶏業者が語ってくれた一言が印象に残る。「現在の採卵鶏のルーツは、マレー半島辺りの野鶏なんですよ。だから、冬は苦手で病気によくかかる。私のところでは、ウインドレス鶏舎を導入して年中マレー半島あたりの気候になるように設定したら、病気が激減し卵もよく産んでくれるようになりました。消費者はよく、自然な養鶏をして欲しいというけれど、それは鶏にとってなのでしょうか、人にとってなのでしょうか?」

 自然だ、不自然だ、とレッテルを張る珍論争はつまらない。もっと細部を科学的に議論しないと、来冬もまた、鳥インフルエンザがやってくる。(サイエンスライター松永和紀)

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