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松永和紀のアグリ話

外見で遺伝子組み換えが分かれば対話は進む?

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2004年4月21日

 遺伝子組み換え植物が、知らないうちに生態系に入り込んで影響を与えるのではないか、と心配されている。組み換え体であることが目に見えたらよいのだが、遺伝子組み換え植物は外見では分けることができない。と思い込んでいたら、国立環境研究所が、外見で区別できる組み換え植物を作って野外での影響を調べる研究をしていた。今月9日に公表された「重点特別研究プロジェクト等中間報告書」に載っている。いろいろなことを考えさせてくれる面白い研究なので、ご紹介する。

 研究しているのは、「生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクト」の分子生態影響評価研究チームに所属する玉置雅紀さん。

 遺伝子組み換え植物は野外で栽培された時に、花粉が飛んで非み組み換え体と交雑する可能性がある(イネやダイズでは、花粉が他の個体に移動する確率は極めて小さいが、トウモロコシやナタネは、虫や風などによって花粉が運ばれてゆく)。花粉が移動するということはすなわち、遺伝子も移動するということ。花粉が飛び種子をつけることを繰り返すうちに、組み換え遺伝子が野外に広がっていくかもしれない。

 現在は、外見では組み換え体と非組み換え体は区別がつかない。栽培地点の周囲に生えている植物すべての遺伝子を解析すれば、組み換え遺伝子が拡散しているかどうか分かる。しかし、現実には莫大な費用と手間がかかり不可能だ。

 確たるデータがないので、反対派は「遺伝子が拡散し、生態系を攪乱する恐れが強い」と主張し、推進派は「栽培の仕方に気をつければ、生態系を攪乱するほどの遺伝子の拡散はない」と言う。これでは、水掛け論になってしまう。

 そこで、玉置さんは「一目で分かる目印を、遺伝子組み換え植物につけて、遺伝子拡散の程度がすぐに分かるようにすればいいのでは」と発想した。具体的には、クラゲの発光タンパク質の遺伝子を植物に導入して、暗闇で光る植物を作っている。

 野外でこの植物を栽培し、暗闇で光る性質が広がれば、組み換え遺伝子が野外で拡散していることが簡単に分かる。実験後は、光る植物をすべて引き抜くことで、生態系への影響をゼロにできる。

 例えば、遺伝子組み換えイネの実用化を検討する場合に、あらかじめこの光る遺伝子を導入したイネを作り、野外で栽培してほかの品種との交雑の確率や雑草への影響などを調べる。組み換えイネの動向が目に見えるので、大規模な試験も可能で、現実の稲作に近いデータが得られるだろう。この実験でリスクが小さいことを確認した上で、組み換えイネの実用化にゴーサインを出す、などということも理論的には可能だ。

 あるいは、組み換え技術を使った環境浄化植物が将来実用化され、耕地以外の住宅地や工業地帯、山などで使われる場合にも、有効だろう。植物は、耕地での研究は進んでいるが、耕地以外でどのように挙動し近縁植物がどのくらいあるかなどについては、分からないことが多い。光る組み換え植物をあらかじめ植えて調査した後に、環境浄化植物を利用する、というステップが考えられる。

 こんなことを書くと、「光る植物なんて不自然な」とエコ派市民に怒られそうだ。この「発光遺伝子」は、これまでよく研究されていてさまざまな性質が分かっているので、あくまで基礎実験の一例として導入しただけのこと。これで、実用化に一気に突き進むわけではない。玉置さんは、発光遺伝子のほか、葉の形が変わる遺伝子も研究している。

 ほかにも、課題は多い。生物は突然変異を起こすことがあり、組み換え体であるにもかかわらず外観の変化が起きていない個体が出てくる可能性も、ゼロではない。さらに、商用化を目指す組み換え植物とマーカー遺伝子を導入した組み換え植物の生態学的な挙動が同じかどうか、確認するのも容易ではない。

 実用化にはたくさんの課題がある。しかし、「遺伝子組み換えであることが、目に見えたら分かりやすいじゃないか」という逆転の発想自体は、とても面白い。

 遺伝子組み換えはとかく、「白か黒か」「禁止するか許可するか」という極端な議論になりがち。しかし、上手に利用するための技術革新も、様々な形で行われている。これまで、遺伝子組み換え植物は従来の植物と同じであることが良い、とされてきた。しかし、「違うから、コントロールできてよい」という考え方もアリ、なのだ。こんな研究にも注目してほしい。(サイエンスライター松永和紀)

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