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松永和紀のアグリ話

100万tのGMナタネ輸入国日本が考えるべきこと

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2004年5月12日

 この春、河川敷に広がる黄色い菜の花を見ながら考えた。この中に、遺伝子組み換えナタネがあるのでは? 日本は食用油の原料として年間100万t程度の遺伝子組み換えナタネを輸入している。これが、一粒たりとも野外に出ない、ということは考えにくい。ナタネなどアブラナ科の栽培植物は、遺伝子組み換えされているほかの栽培植物(ダイズやイネ、トウモロコシなど)と異なり、こぼれダネの野生化が極めて容易だという。今、多くの生態学者の目が組み換えナタネに注がれている。ご紹介しよう。

 遺伝子組み換えナタネ(学名セイヨウアブラナ、Brassica napus)が、非組み換えナタネや近縁種と交雑して遺伝的な拡散が起きることは、海外での多くの野外実験や調査によって、分かっている。

 オーストラリアの研究チームは、同国で除草剤耐性ナタネが商業栽培されている畑の周辺の畑を調べ、除草剤耐性の拡散は最高0.197%以下で割合は小さいものの、周辺3km程度まで拡散していることを確認した(Science Vol.296 2002)。

 遺伝子組み換えナタネが、近縁種であるBrassica rapaと容易に交雑することは分かっている(Theoretical and Applied Genetics Vol.107 2003)。さらに、非組み換えのセイヨウナタネが近縁種のBrassica junceaと交雑することも分かっている(Theoretical and Applied Genetics Vol.91 1995)。

 このうち、日本に存在するのは、まず河川敷の菜の花。日本の河川敷の黄色い菜の花は非常に喜ばれており、日本の原風景と思っている人も多いようだが、『遺伝子組換え植物の光と影』(学会出版センター)によれば、あの菜の花は在来種ではなく野生化したセイヨウナタネとカラシナだ。カラシナはタカナと共にBrassica junceaに含まれる。

 また、Brassica rapaには、在来ナタネやハクサイ、カブ、コマツナなどがある。つまり、組み換えナタネが何らかの形で野外に出てしまうと、全国各地に山ほど生えているセイヨウナタネやカラシナなどの近縁種と交雑し遺伝子が拡散していく可能性は極めて高い(ただし、近縁種と交雑してできた種子は、不稔性で遺伝子を拡する能力を持たない場合もある)。

 日本は、ナタネの自給率はほとんどゼロ。年間200万tあまりのナタネを輸入しており、食用油を得た後の搾りカスも飼料として利用している。このうちカナダのシェアが75%(2002年)、カナダの栽培の遺伝子組み換えの割合が約65%(2002年)なので、日本に輸入されるナタネのうち約100万tが遺伝子組み換えと見られている。

 農水省は、組み換え農産物Q&AのQ17で、組み換えナタネが雑草化しない根拠の一つとして、「ナタネは、わが国に種子の形態で30年近く輸入されていますが、これが輸送の途中でこぼれ落ちるなどして雑草化したという報告はない」としている。

 確かに、学術論文はない。輸送中のどこに種子が落ちて広がったか、なんて学術的には調べようがない。しかし、前述したように、河川敷に広がる菜の花が在来ナタネではなくセイヨウナタネであることは事実。農水省は「学術論文がないから、その現象は今後も起きない」というスタンスのようだが、その理屈はやっぱり無理がある。

 現在の製油所では、横に船を横付けしてナタネをベルトコンベヤーで運び込む方式が多いようなので、こぼれダネはほとんどないかもしれない。しかし、規制がなくモニタリングもしていない状況では、ゼロとは考えにくい。

 さらに気になるのが、昨今の菜の花ばやり。市民団体や自治体などが、セイヨウナタネの種子を購入して植え、景観を楽しんでいる。その種子の多くは海外産。来歴を問わず購入する人が少なくないようだ。遺伝子組み換えナタネが日本の畑や河川敷などにはない、遺伝的な拡散はない、という根拠はもはや、極めて希薄ではないだろうか。

 いくら「食の安全を守る」「日本の生態系を守る」と称して遺伝子組み換えに反対しても、食料を完全に海外に依存している以上は、影響を避けようがない。それが、日本の現実だ。

 早くモニタリングをして、データを基に検討した方がよい。遺伝子組み換えノーというのなら、目指すはナタネ自給率100%。これが無理なのは誰の目にも明らかなのだから、現実的な対策についての議論が始まるだろう。

 もっとも、仮に環境中で組み換えナタネが見つかることになっても、一部の市民団体のように「日本の食が汚染される」と騒ぎ立てる必要はない。FOOD・SCINECEの読者は、食に関わる仕事をしている人が多いと思うので、きちんと触れたいのだが、スーパーで売られるカブやハクサイなどの野菜に遺伝子組み換えナタネの遺伝子が入り込む、などと言うことは、まずあり得ない。

 それは、遺伝子組み換えの性質から言えることではなく、日本ではナタネや白菜、カブなどアブラナ科の種子作りが極めて厳しく隔離され、高度な技術を駆使して行われてきたことと関係する。来週は引き続き、アブラナ科の種子作りについて説明したい。(サイエンスライター 松永和紀)

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