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松永和紀のアグリ話

GMナタネで食は汚染されるのか?

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2004年5月19日

 100万tもの遺伝子組み換え(GM)ナタネを輸入している日本では、GMナタネがこぼれて野外に生えている可能性はあるだろう。しかし、食や環境に影響があるかといえば、それはまた別問題。少なくとも、食にはほぼ関係がない。それなのに、「GMナタネによって食が汚染される」と言う声が、最近聞こえ始めた。前週に引き続き、GMを落ち着いて判断する材料を提供しよう。

 GMナタネについて、「栽培すれば、カブやハクサイ、タカナ、キャベツなどと、それらの野生化した種との間で複雑怪奇に導入遺伝子が交差拡散する結果をもたらすことは、目に見えている」と主張する人たちが、日本でも出てきた。

 そこで思い出されるのは、カナダのナタネ農家で自家採種していたシュマイザー氏が、モンサント社のGMナタネを違法に手に入れ栽培したとして、特許侵害で訴えられた一件。シュマイザー氏は、近くの農家が栽培するGMナタネの種子が紛れ込んで根付いたり、花粉が飛んで自然交雑したなどと主張しており、昨年来日して「自分の畑のナタネは遺伝子汚染を受けた。日本で作付けすれば、同じことが起きる」と、農家などに呼び掛けたそうだ。

 うーん、そうだろうか?日本の種苗メーカーも農家も、そんなずさんな種子管理はしていないはずなのだ。ナタネなどアブラナ科の作物が、ほかの作物と交雑しやすいことは、農業関係者なら誰もが知っている。

 ナタネの花は、ハクサイやダイコン、キャベツ、コマツナなどとよく似ている。昔は、アブラナ科ではなく十字花科と呼ばれていた。『白菜のなぞ』(板倉聖宣著、平凡社ライブラリー)によれば、白菜は明治時代に中国から伝わってきた野菜だが、はじめは政府の育種場でもよい白菜になるタネが採れず、次第にほかの作物との交雑が原因であることが分かってきた。

 そこで、宮城県の育種家が松島の無人島で栽培することを思いつき、島に自生していた十字花科の植物を根こそぎ抜いて交雑を防ぎ、ハクサイの採種に成功した。愛知県では、育種家が農場を金網で囲い天井をガラス張りにして、虫などがほかの花粉を運んでこないようにしてハクサイを栽培し、採種したという(『白菜のなぞ』は、気楽に楽しめる名著なので、ぜひ読んでいただきたい)。

 現代の農家も、ハクサイやカブなどアブラナ科の野菜の種を自分たちで採るのが極めて難しいことが分かっている。そのため、ほとんどの場合、種苗会社が売る種を購入する。種苗会社は、交雑を防ぐ厳しい管理をして種を生産し、その後に遺伝的な検定も行って問題がないことを確認したうえで販売する。

 大手企業でなく、地域の伝統野菜を守る種苗商もいるが、彼らも同様に細心の注意を払って種子を生産している。以前に、カブなど伝統野菜の採種と販売で有名な「野口のタネ」」の野口勲さんにインタビューしたことがあるが、この人もDNA解析まではしないものの、「知らない間に交雑」というレベルとは全く異なる緻密な種子作りを行っていた。そのことに、プライドも持っていた。こだわりを持つ農家のごく一部も自家採種するが、彼らが不明の交雑を招くようなルーズな採種をするとは思えない。

 従って、GMナタネが野外にこぼれたとしても、農家が播く野菜の栽培品種に遺伝子組み換えで導入された遺伝子が入るような事態は起きない。また、GMナタネが近くの畑の野菜と交雑する可能性はないわけではないが、そうやって実ってできた種子が野菜として栽培されて売られることもない。野菜が汚染されるなどと心配しないでほしい。

 ただし、食に無関係だからと言って、無関心にはならないでいただきたい。100万tのGMナタネが輸入されている日本で環境に影響が出てくるとすれば、次のようないくつもの段階が考えられる。

(1)運搬中にこぼれるなどして種子が野外に出るか
(2)それは、自生、増殖するか
(3)周辺の非組み換えナタネや近縁植物と交雑するか
(4)その結果、野外でGMナタネの個体群や遺伝子が安定して存在するか
(5)個体群が拡大したり、遺伝子が拡散していくか
(6)これまであった種に、被害を及ぼすか

 日本は既に、外来種であるセイヨウアブラナやカラシナが入り込んで、在来の生態系は大きく損なわれている。ここに新たにGMナタネが入ることが、どんな意味を持つのか。環境影響の各段階を、人の手で管理し抑えることができるだろうか。そんなことを考えながら、GMナタネの動向を見守りたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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