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松永和紀のアグリ話

群馬県の食の安全本が大ベストセラー、カルタも発行

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2004年5月26日

 食の安全に関する取材をしていて、農家からも量販店関係者からも最後に必ず聞かされるのがこの一言。「消費者も、食品についてもっと勉強してほしいねえ」。食品がどのようにしてできるか全く知らずに、過剰な安全志向に陥っている消費者が多く、生産現場は疲弊しているのが実情だ。消費者を、次代を担う幼児の意識からじっくりと変えていこうという試みが、群馬県・食品安全会議によって行われている。

 「遊びながら食を学ぶすくすくカルタ」をご紹介しよう。群馬県は、食の安全対策の充実で知られる県だ。全国3例目のBSE発生県となった反省にたち、2年前に専門部署「食品安全会議」を設置。国の農薬取締法改正前に、農家に無登録農薬の使用を禁じ、使用農薬の記帳も義務づけた。

 消費者の「表示が複雑過ぎて分からない」との声に応えて、JAS法、食品衛生法、景品表示法など多数の法律に基づいてできている表示を分かりやすく解説する「食品表示ハンドブック」(300円)を県職員が執筆して昨年発行。大手量販店グループがまとめて数百部を購入するなど大評判となって、現在の発行部数は4万7000部。自治体発行物としては異例の大ベストセラーになっている。

 この食品安全会議が4月から販売しているのが、「遊びながら食を学ぶすくすくカルタ」組み立てキット(380円)だ。昨年度、県庁内の「子どもの食育・健康な食生活推進ワーキンググループ」を中心にして、制作された。県職員のほか学識経験者や保育士、幼稚園教諭、調理士などが集まって話し合いを重ねる中で、「小学生以上は、文部科学省などの指導で食育が行われている。でも、なるべく早い段階から食育したいね。幼児が繰り返し遊んで楽しみながら覚えられるものを作れたらいいね」という話になったのだ。

 詠み句は県民から公募し、3000句あまりから44句を決定。昨年度は、通常のカルタの4倍の大カルタを1000部を作成し、大人数でわいわい遊んでもらえるように県内の幼稚園や保育園などに配った。好評だったため、今年は普通サイズのカルタを、安くなるように組み立てキット方式にして、売り出した。

 詠み句をご紹介しよう。

 お手々「ピカッ」 お食事前のお約束
 土作り おいしい野菜の 基本だよ
 鉄とろう レバーとあさりと ほうれん草
 肉料理 野菜も一緒に食べようね
 残さずに 食べて大地に ありがとう
 麺を打ち 野菜と煮込む おっきりこみ
 野菜のね うまれた場所が 分かるかな
 冷蔵庫 開けたらすぐに閉めようね

 題材は、栄養学、郷土料理の紹介から、食料自給率問題、食中毒予防、原産地表示まで盛りだくさん。詠み札の裏には詳しい解説が載っており、指導者が遊びの中で教えることができる。

 3000部制作し、早くも1200部が売れたという。県内だけでなく岩手県や大分県の保育所や家庭などからも注文があった。制作事務局を務めた食品安全会議の川田純子さんのもとには保育園などから「幼い子が、詠み句をそらで覚えているのですよ」「子どもたち同士で遊んでいます」などの反響が届いている。保護者から「家で食事をする時に、子どもが詠み句を突然言い出して、びっくりしました。食事を見直すきっかけになりました」などの声も寄せられているという。

 川田さんは「保育園や幼稚園の先生など、実際に子どもと接する人たちの意見に基づき、詠み句も公募して県民参加型のカルタになったのが、良かったのでしょう。行政だけで作ったのでは、使ってもらえるものになりませんから」と笑っていた。

 教育は、目先の利益や効果につながらないだけに疎かになりがち。しかし、数十年後の社会がどのようなものになるか、どこへ向かうのかを決めるのは、現代の子どもたちだ。

 今、子どもの食が悲惨な状況になっているのは、私も実感する。遠足から帰ってきた娘(小学5年)に友人たちのお弁当のおかずを尋ねると「フライでしょ。ソーセージでしょ。後は、小さいグラタン、ミートボール、唐揚げ……」。スーパーの冷凍ケースに並ぶものばかり。野菜はほとんど入っていないそうだ。かくいう私のお弁当も、野菜はせいぜいカボチャの煮物やホウレンソウのお浸し程度。娘からは「おばさん臭いお弁当」と悪評ふんぷんなのだから、ほめられたものではない。

 食についてじっくり子どもと話す時間を作れないことを、反省するばかり。カルタをするには大きすぎる娘も、この組み立てキット式カルタには興味をそそられたらしい。時には、カルタで楽しく遊びながら、子どもと共に学び食べ物の恵みに感謝したい。(サイエンスライター 松永和紀)

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