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松永和紀のアグリ話

古畳原料の飼料に残留農薬、これが特殊例でないのなら・・

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2004年6月9日

 今週7日、農水省から気になるプレスリリース が出た。古畳を原料として製造された飼料から、大量の有機塩素系殺虫剤(BHCとディルドリン)が検出されたというのだ。数十年前に使われた薬剤が残留していたらしい。翌日の新聞はあまり取り上げていなかったようだが、食品関係者にとって薬剤の長期残留汚染は、いつ何時、足下をすくわれるか分からない極めて重要な課題だ。

 汚染飼料を作っていたのは、大阪府の企業。今年5月の立入検査で、BHCが1.05ppm(基準値0.05ppm)、ディルドリン(アルドリンを含む。アルドリンは、環境中でディルドリンに変わる)が0.53ppm(基準値0.02ppm)含まれていた。

 これらは有機塩素系殺虫剤で、高残留性などを理由に71年、農薬としての使用が禁止された。しかし、その後もシロアリ駆除剤などとして使われた(ディルドリン、アルドリンなどのドリン類は、81年に化学物質審査規制法により完全に使用禁止となっている)。有機塩素系薬剤は、ほかの農薬に比べて極めて分解しにくい。農水省の担当者は「原料となった古畳が輸入されたとは考えられず、おそらく以前に使用された薬剤の残留が原因ではないか」という。

 飼料は牛用で汚染量などは分からない。農水省は飼料の出荷先を確認し回収をするほか、飼料を食べた家畜がいる場合には、肉や牛乳などへの移行を考え、出荷時に検査し汚染の有無を確認するという。徳島県で肉牛農家に与えられたという話も出てきている。

 農薬を問題と煽るような本などには、有機塩素系薬剤の毒性として頭痛や吐き気、肝臓障害、発がんなどおどろおどろしい語句が並んでいる。しかし、検出で出た値はかなりの高濃度ではあるものの、牛に症状が出たり肉や牛乳が毒性を示す数値にはほど遠い。農水省の担当者が「牛がこの飼料ばかりを食べるわけではないので、何かが起きるとは考えにくい」というのももっともだ。ここは、落ち着いて対処して欲しい。
 しかし、問題はこれが決して特殊な検出例ではない、ということだ。実は、肥飼料検査所が2002年に飼料を検査した時も、高濃度の有機塩素系殺虫剤で汚染された飼料が3例、見つかっている(うち2例は、飼料の名称に畳の文字が入っている)。さらに、古い畳は、堆肥や敷きわらとして野菜の栽培などに使われることも多いが、この使用実態は分かっていない。

 農水省は同年4月、都道府県知事宛てに通知を出し、BHCやディルドリンなどで汚染された古畳を原料とするわらを家畜用の飼料、堆肥又は敷きわらに用いないよう、農家に指導することを求めている。しかし、今回見つかったところをみると、検査に引っ掛からないまま、有機塩素系殺虫剤に汚染された飼料や堆肥などが、食品生産に利用されているかもしれない。

 実は、ドリン類の食品残留については、一昨年から昨年にかけて、山形で大問題となっている。山形はキュウリの大産地。そして、キュウリはどういうわけか、ドリン類を吸収しやすく汚染されやすいのだ。93年から2002年にかけて、食品衛生法に基づく基準(0.02ppm)をオーバーする山形県産キュウリが全部で9例、見つかったという。

参照記事
山形市「消費者に安全なきゅうりをお届けするために」
山形新聞特集「食と安全〜残留性農薬」

 県は、昔使われた農薬が土壌に残留しているのが原因と見ており、高濃度の畑の持ち主には、ほかの作物栽培への転換を促している。これとは別に、土壌汚染の程度にかかわらずキュウリ販売農家の全戸を対象に出荷前残留農薬分析を行うなど、今も対策に大わらわだ。

 繰り返しになるが、ドリン類など有機塩素系殺虫剤が残留基準を少々オーバーしたキュウリや肉、牛乳などをもし食べたところで、体への影響は全くない。が、土壌への残留が30年後の今でも問題視されているほどなのに、わざわざ古畳という「負の遺産」をリサイクルして、食品への信頼をさらに危うくする必要はない。リサイクルという一見、好ましい言葉に惑わされることなく、関係者には毅然と対応してほしいと思う。(サイエンスライター 松永和紀)

筆者のホームページ:
松永和紀のページ「ワキラボ」

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