ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

農水省VS環境省、ナタネ戦争勃発か?

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2004年7月7日

 先週、遺伝子組み換えナタネ自生のニュースを紹介した。発表した農水省は、ほかの輸入港の調査はしていないという。が、実は、環境省が調査を始めている。そもそも農水省が今回発表したのも、環境省が輸入港調査へ向けて動き出したから、という噂すらある。「環境省に先を越されては、農水省の沽券(こけん)にかかわるので焦った」というのだ。農水省と環境省、ナタネ戦争勃発か?

 環境省の調査は「遺伝子組換え植物の輸入による組換え遺伝子の拡散に関する予備的研究」。 研究代表者を、国立環境研究所の中嶋信美・生物多様性研究プロジェクト分子生態影響評価研究チーム総合研究官が務める。

 大変失礼ながら、他人のケンカは面白い。「生態系を大事に」の環境省と「食料生産がまず重要」の農水省と……。農水省が「沽券にかかわる」と考えたかどうかは別にして、環境省がこの研究を採択するかどうか検討し始めた3月以降、急に農水省の発表への動きが目立ち始めたのは事実。3カ月ほどすったもんだした挙げ句、農水省はナタネの自生を公表した。

 下世話な興味を先行させる私は「農水省と戦いますか?」と研究代表者の中嶋さんに尋ねた。拍子抜けするほど静かな答えが返ってくる。「いやいや、違うのです。とにかく調べてみないと、何も始まらないでしょ」。そうなのだ。日本というフィールドで現在、GMナタネがどんな挙動を示しているか、実際には誰も分かっていない。

 農水省は、鹿島港周辺での自生を確認したが、それ以外のことを調べていない。「GMナタネの野外での挙動は、除草剤をかけない限りは非GMナタネと同じ。こぼれダネも同じ程度に自生し、同じ程度にナタネや近縁種と交雑するはず。ならば、GMナタネだけ調べ規制するのはおかしいではないか」という言い分だ。

 一方、反対派市民団体や一部の保全生態学者などは、GMナタネは非GMナタネとは同じではなく規制すべきだ、と考える。なぜならば、GMナタネは、もともと持っていなかった除草剤耐性遺伝子、すなわち人工的な遺伝子を持っていて、それを生態系に拡散させていくから。彼らは、「人間の活動自体が元々、環境によくないことなので、人間の活動が環境へ与える影響は最小限度にして生物多様性を守るべきだ」と考え、予防原則を訴える。いずれにしても、両者とも「○○のはずだ」「△△の可能性がある」というレベルの主張でしかない。

 もちろん、交雑の程度を調べた実験はある。例えば、「遺伝子組換え作物の生態系への影響」(養賢堂)で、日本モンサントの社員が書いものによれば、GMナタネと非GMナタネの交雑を調べる野外試験を2回行ったところ、10m離れた場所での交雑率は1回目が平均0.1%、2回目が平均0.4%だったという。

 GMナタネとカラシナやアブラナなど近縁植物との交雑率はもっと低い。カラシナの場合、GMナタネと隣同士で植えられ距離が0mの時、交雑率は平均2.3%、2m離れると平均2.1%、5mで平均0.1%、10mで0.0%。GMナタネとアブラナの場合は、隣同士で平均3.1%、2m離れると1.6%、5mで0.3%、10mで0.0%だ。カラシナの仲間にはタカナ、アブラナの仲間には、ハクサイやカブ、コマツナなどがあるが、これらは約10m離れれば、交雑しない、というわけだ。

 モンサントだけでなく、ほかの企業や大学、研究機関などが、様々な実験や調査を行い論文を出している。データは基に、「交雑は起きにくい」とか、「ゼロではない」などと論じる。

 でも、実験と現実は大きく違う。そして、現実が分からない。日本の港湾の小さな植え込みに落ちたこぼれダネは、世代交代していくのか? 河川敷のナタネの大群の横に、トラックからGMナタネの種子がこぼれ自生したことは、これまでに一度もないのか?

 「だから、調べるのです」。中嶋さんは話す。中嶋さんも、「組み換えによって導入された遺伝子」という人工物が、誰も知らない間に自然に存在する生物に移ることは阻止しなければならない、と考える。そういう点では、反対派市民団体や保全生態学者に共感するところが大きい。「しかし、推定で生物多様性を侵すなどと議論するのは、科学的ではありません。しかも、ナタネは現在、国内自給が1%以下。組み換えノーを唱え極端な規制を行って輸入停止した場合の損失は、あまりにも大きい。ならば、現状を調査し『組み換えによって導入された遺伝子の種類』や『阻止にかかる費用』などを勘案して、対処方法を考えていくしかないでしょう」。

 農水省と敵対する気など、さらさらない。もっとシンプルに、科学的な議論を行うために、今年は関東地方の港湾や幹線道路などに自生しているナタネやカラシナなどの種子を採取。GMナタネの分布状況や、カラシナに遺伝子が移っていないかどうか、調査するという。

 最後に、中嶋さんはこう付け加えた。「今回のナタネの件は、遺伝子組み換え体がどうのという問題よりも先に、ナタネをこぼした企業のマナーの問題ではありませんか? 輸入している会社が刈り取ればいいだけのことですよ。自分たちの営利行為でナタネやムギが散らばって公道にわんさか生えていて、汚らしいですよね。農家が、あんなふうにタネをこぼしたら、村中で非難されますよ」。

 確かに、こういう性質の問題まで一緒くたになって、遺伝子組み換え是か非かの議論になってしまうのが、現在の風潮だ。落ち着いて調査結果を見つめ、考えていきたい。(サイエンスライター 松永和紀)

■最後の「輸入している会社が刈り取ればよい」という中嶋さんの話に対して、輸入にかかわる方から「ナタネは入関手続きをした後、次々に転売され運ばれて最終的に油になる。輸入業者だけの責任ではないのでは」というご指摘をいただきました。ありがとうございました。7月9日松永和紀)

関連の記事:
「松永和紀のアグリ話」バックナンバーページ

筆者のホームページ:
松永和紀のページ「ワキラボ」

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。