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松永和紀のアグリ話

減農薬トマトの大産地、平取町は今

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2004年7月14日

 私は、トマトの減農薬栽培などに働くセイヨウオオマルハナバチに「肩入れ」している。おとなしく愛らしく、でも複雑な生態を持つマルハナバチ自体の面白さに加え、関わる人たちが魅力的なのだ。農家、企業人、研究者……。「セイヨウオオマルハナバチは、日本の生態系を変えてしまう」との批判を受けて、それぞれが、生態系を侵さずにマルハナバチの力を借りてトマトやナスを作る方法を模索している。

 先月末、彼らが北海道平取町に一同に集まって、連絡協議会を開いた。平取町は夏秋トマトでは日本一の生産地。そして、農家主導のセイヨウオオマルハナバチ対策先進地でもある。

 「あんなに強いセイヨウオオマルハナバチをヨーロッッパから日本に入れては、在来のマルハナバチなど日本の生物の営みがメチャクチャになってしまう。規制すべきだ」「生態系を大事にと言うけれど、霞を食べては生きていけない。セイヨウオオマルハナバチは減農薬と省力化でトマト生産に貢献しているのだから、規制すべきではない」。

 セイヨウオオマルハナバチを巡る議論は10年間、この2つの意見の「対立」が続いてきた。しかし、生態系を守りつつ上手に使うという「両立」を目指す動きが活発になっているのは、4月28日の本欄で書いた通り。来春からは、ハウスにネットを張って逃亡を防止し、使用後の巣箱(新しい女王蜂数十頭が、中で巣立ちの日を待っている)も処分するなど、厳しい使用条件を課される可能性が大きい。違反した場合の罰金は個人が最高300万円、企業は1億円だ。

 だが、使用規制は農家にはなかなか受け入れ難いらしく、反対の声が絶えない。ネット展張や巣箱の処理には、それなりの費用がかかるからだ。さらに、心情的な「壁」も大きい。「ミツバチも外来種なのに、なぜ対象にはならないのか?」「外来の害虫はどんどん増えて苦しめられるばかり。セイヨウオオマルハナバチだけ規制だなんて、あんまりだ」等々、不公平感が残る。

 考えてみれば、農業の歴史は外来種輸入の歴史でもある。稲は3000年前に渡来した。ダイズも千数百年前に中国大陸から伝わった。今も、中国野菜など海外からの新顔品種が続々だ。急に「日本の生態系を守るために、外来種の使用を制限する」と言われても、切り替えができないのはもっともだ。

 だが、平取町では既に昨年から、160戸あまりのトマト農家すべてが自主的に、ハウスにネットを張っている。平取町野菜生産振興会のトマト・胡瓜部会で部会長を務める大崎哲也さんらが呼びかけた。同町は、セイヨウオオマルハナバチを最も早く取り入れた産地の一つで、年間800〜900群を企業から買って授粉に利用している。ハチを導入したことが省力化と品質向上につながって、今では栽培面積が導入前の2倍に増え、トマトの年間売り上げは計25億円。夏秋トマトでは日本一の産地に急成長している。

 その一方で、平取町からセイヨウオオマルハナバチが逃げ出して野生化したのでは、と疑われている。同町では自然巣は発見されていないが、1996年に日本で最初に自然巣が見つかった門別町は、隣町。また、同じく隣町の鵡川町でも、昨年8つの自然巣が発見されている。

 大崎さんは、生態学者らがセイヨウオオマルハナバチを批判していることは、新聞などを通じて薄々は知ってはいたという。だが、重大な問題であることを理解したのは3年ほど前。企業の営業マンが、詳しく説明してくれた。「このままでは大変なことになる」。あわてた大崎さんは、さっそく自分のハウスにネットを張り、女王蜂が野外に逃げ出さないように巣箱の処分を始めた。仲間にも説明し、取り組みを呼びかけた。

 今年からは、野生化してしまったハチの繁殖拡大を防ぐため、捕獲活動も始めた。5月には、150人を動員して、営巣活動をしている女王蜂58頭を捕まえた。今後も大掛かりな捕獲活動を計画している。農家ばかりでなく、商工会議所の青年部も協力を申し出てくれている。

 先月末に平取町であった連絡協議会では、同町のネット展張などの取り組みの効果について、東北大学大学院生命科学研究科助手の横山潤さんが調査結果を発表。野外にいるセイヨウオオマルハナバチを捕獲調査したところ、2003年は2002年に比べて数が激減したという。横山さんは、「目を疑うほどの効果があった」と述べた。

 大崎さんも、こう発言した。「平取町は、セイヨウオオマルハナバチによって大きな経済効果を得た。若い後継者が戻ってきて、今では20代と30代が4分の1を占めるまでになっている。若い人が、末永くハチを使って営農できるように、研究者とも協力して危機感を持って取り組みたい」。「うちの町がセイヨウオオマルハナバチを野外に放してしまった張本人だ」と思うからこそ、敢えて決意を口にした。

 連絡協議会には、はるばる熊本や宮崎からも、県職員などが駆けつけた。南日本の産地には、北海道にはない難しさがある。ハウスにネットを張ると、風通しが悪くなりどうしても中の温度が上がりがちになる。雨上がりなど、ネットに水滴がついて密閉状態となり、トマトの苗そのものが蒸し焼き状態にもなりかねない。温度上昇を防ぐために、農家はかなりこまめなネット管理を要求されるだろう。農家の苦労、努力を、私たち消費者も忘れたくない。(サイエンスライター 松永和紀)

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