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松永和紀のアグリ話

残留農薬のポジティブリスト制って何?

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2004年7月21日

 食品の残留農薬にポジティブリスト制を導入する動きが進んでいる。正式決定し施行されるのは2006年。国産、輸入を問わず食品への影響は大きく、企業、生産者はなるべく早く対応した方が良さそうだ。今回から数回に渡って、ポジティブリスト制導入で何が変わるのか、具体的に解説していきたい。

 従来の残留農薬対策は、ネガティブリスト制だった。簡単に説明すれば、使っていけないものをリストアップする制度。「この基準をオーバーする食品は法律違反であり、流通を禁止しますよ」という趣旨で、残留農薬基準を定めてあった。対象となっていたのは、229農薬、約130農産物。世界では、700〜1000の農薬が使われていると言われているが、229農薬以外の基準のない農薬は、食品中にいくら残留していても野放しだった。

 食の安全にかかわるさまざまな問題が起きて消費者の健康保護を重視する流れとなり、03年5月に食品衛生法が改正され、3年以内にポジティブリスト制を導入することが決まった。世界で使われる農薬について、食品に残留してよい量(基準)を定めてリスト化し、基準が設定されていない農薬は、残留を原則禁止する制度だ。実は、原則禁止というところが「曲者」で、今後の議論の焦点ともなっているのだが、とりあえずその解説は後回しにして、大枠の説明を続けよう。

 229の農薬について既に定められている残留基準は、さまざまな実験研究データを基に、専門家が集まって科学的な評価を下して決めた数字。従って、この基準は新しいポジティブリスト制でも、そのまま残留基準となる。では、世界で使われ国内には基準がない何百もの農薬についてはどうするか?

 本来は229の農薬と同様に、データを基に科学的に評価して残留基準を定めるべきだが、06年までに世界中に存在するすべての農薬の実験データをかき集め、ないものは日本で実験を行い基準値を設定するなど絶対に無理だ。

 そこで、厚生労働省は「暫定基準」を設定することにした。国内で農薬登録の可否を決める時に用いられる「登録保留基準」というものや、国際基準であるCodex(FAO/WHO合同食品規格委員会)の基準、諸外国の基準の中から、採用する。各基準が変更される場合もあるので、5年程度ごとに見直しを行うという。厚生労働省の資料にはいろいろと難しい言葉やスキームが書き連ねてあるのだが、暫定基準は要するに、「海外で、きちんと科学的な根拠を検討したうえで決めたらしい基準を、とりあえず真似しておけばいいよ」という趣旨のものだ。

 こうして昨年10月に公表されたのが、農薬等(農薬のほか、DDT、ディルドリンなど農薬としてはもう使われていないが土壌などに残留し食品からも検出される化学物質も含む)647品目についての暫定基準第一次案。一つひとつの農薬について、米は○ppm、小麦は△ppm、大豆は□ppm、ほうれんそうは◇ppmと、さまざまな農産物の残留基準を設定してあり、それが647品目あるのだから、すさまじく膨大なリストである。

 そして、このリストに載っていない農薬については原則禁止、すなわち食品は一切含んではならない—-。ポジティブリストという言葉本来の意味なら、こうなるはずだ。ところが、厚生労働省の意向は実は違う。食品中から一切検出されてはならない農薬等として13品目を定める一方、それ以外の農薬については一定の量までは残留を認めようというのが、厚生労働省の考えだ。

 その場合の残留農薬には、次の2通りがある。
(1)いずれの農産物にも残留基準が設定されていない場合=海外で新しい農薬が開発され、使われて残留する例などが、これに相当する。
(2)一部の農産物には、残留基準値が設定されている場合=例えば、Aという農産物栽培に農薬を散布した時に、隣の畑のBという農産物にもかかったとする(こうした現象を、ドリフトと呼ぶ)。この農薬は、Aには残留基準はあるが、Bにはない。にもかかわらず、Bから検出された場合には、これもリスト外の残留農薬となってしまう。

 厚生労働省は、このような残留検出をすべて違反とすると、不必要に食品の流通が妨げられるとして、「人の健康を損なうおそれのない量」(一律基準値)を定め、この値以下ならば残留を認める方針だ。

 諸外国もこうした一律基準値を採用しており、カナダが0.1ppm(見直し中)、ニュージーランドが0.1ppm、ドイツが0.01ppm。米国は、明文化はしていないものの、0.01〜0.1ppmで判断している。厚生労働省も、0.01ppmを念頭に入れて検討中のようだ。

 以上が、ポジティブリスト制度案の概要だ。今後は、薬事・食品衛生審議会農薬・動物用医薬品部会の審議を経て最終案がまとまり、今年秋にはパブリックコメント募集やWTO通報などが行われる見込み。来年11月には、厚生労働省が基準を告示し、遅くとも2006年5月にはポジティブリスト制施行の予定という。

関連記事:厚生労働省の第一次案資料等

 では、この制度によって生産流通現場の何が変わるか?当然、海外の産地で、日本向け農産物の生産管理をいっそう厳しくせざるを得ない。特に、アジアは高温多湿で農薬を多用しがちなので、強い指導が必要だろう。現地でのマーケット買いはもはや、かなりのリスクを伴うとみてよい。

 それなら、国産農産物なら安心して買い付けできるか? ところが、国内の農業現場、農薬取締法を守って真面目に栽培している農家にとっても、このポジティブリスト制は大問題なのだ。その理由は、農薬のドリフト。次回は、国内のドリフト問題を取り上げる。(サイエンスライター 松永和紀)

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