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松永和紀のアグリ話

さらば、“残留農薬検査狂騒曲”

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2004年8月25日

 残留農薬ポジティブリスト制の暫定基準第2次案等が8月20日、厚生労働省から公表されて、パブリックコメントの募集も始まった。細かな変更点は多いが大筋の方針は変わらず、今後粛々と策定作業が進んで行きそうだ。では、ポジティブリスト制が始まったあかつきには、安心安全にこだわる食品メーカーや生産者団体などは、基準が設けられる700あまりの農薬すべてを測って、残留量が基準値内に留まることを確認するべきなのか?

 昨今の「検査=安全証明」の風潮をみていると、全国いたるところで、約700の農薬の検査が始まりそうで怖い。実際に、20日に公表された第1次案に対するパブリックコメントの中にも、「ポジティブリストに関わる全物質を検査できる機関を、国としてリスト化してほしい」という要望があった。

 検査結果に一喜一憂し食品を捨てる“検査狂騒曲”は、もう2度と引き起こしてはいけないと思う。最近の「検査万能主義」は、科学的には無意味だ。先週、本欄で指摘した検査精度の問題に加え、サンプリングの限界もある。700の農薬すべてを測定したとしても、サンプリングした食品の残留農薬を確認しただけ。サンプリングからもれた食品に基準値を超える農薬がないとは言いきれない。残留農薬検査は、どこまでやっても食品の安全を証明するものにはなり得ない。

 それに、700の農薬残留量を測ろうとすれば何百回も抽出分析を繰り返さなければならない(多成分一斉分析法の研究をどんなに頑張って進めても、適用できる農薬は400程度に留まるという意見が残留農薬分析の専門家の間では強い。それ以外の農薬は、個別に抽出分析するしかない)。莫大なコストが掛かり、化学物質も大量に使うことになる。

 では、ポジティブリスト制実施を控えて、食品メーカーや生産者団体などは、残留農薬をどのようにコントロールしていけばよいのだろうか?私の見るところ、検査よりもまず、生産者に注意を促し実際の状況把握に務めた方が、うんと効率がいい。国産の場合は、農業取締法に基づく使用方法が守られていれば、残留が問題になる恐れは少ない。

 「農薬ではないが、病害虫を防ぐ効果がある」などと称する怪しげな農業資材を使わないことも求め、前作で何を栽培したか、土壌残留性の高い農薬を使用していないか、という点も押さえる。あとは、周辺の農地からのドリフトを心配するくらいだ。輸入品の場合は、生産国の農薬使用基準を調べ、日本と大きく異なるようなら注意する必要があるだろう。

 生産管理で網をかけ、そのうえで使用状況や土壌環境などに合わせて残留の可能性の高い農薬をピックアップして検査して確認する。むやみやたらとたくさんの農薬を検査するのでなく、生産管理と検査をリンクさせることが重要だ。

 では、どんな農薬を重点的に検査したらよいのか。ヒントを与えてくれる研究結果が、ウェブで見られる。全国5カ所の地方衛生研究所の2001年度と02年度の残留農薬検査データをまとめた研究だ。5つの研究所を合わせた検体(検査対象となった農産物)の数は2012件で、そのうち38.9%から何らかの農薬が検出されている。検出された農薬の種類は計115。そのうち、10検体以上から検出された農薬は35種類。1件しか検出されなかった農薬も25種類に上っている。

 現在は基準値が設定されていない農薬の検出もかなり多く、2002年度の調査では、検出された農薬の43%を占めている。このほかにも、農薬の使用と残留を関連付けて考え対策につなげられるデータが、多く盛り込まれている。

 この研究は、地方衛生研究所の中でも検査技能が最高レベルの5研究所の分析を集めたものなので、データの信頼性は高い。研究をまとめた斎藤勲さんは、日本農薬学会農薬残留分析研究会委員。研究当時は愛知県衛生研究所職員だったが、現在は東海コープ事業連合商品安全検査センター長を務めており、欧米の残留農薬の状況にも詳しい。

 「米国FDAも毎年、1万件近い食品について、400種類近くの農薬の残留量を検査し公表していますが、そこでも検出農薬数は毎年、100前後しかありません。検査数をいたずらに増やしても意味がなく、食品生産においては、あくまでも品質管理が主。検査は補助であるべきです」と話してくれた。

 本当は、こうした情報は、消費者にこそ理解してもらうべきものだろう。生産側は、本音ではコストが掛かる検査などしたくない。「検査して安全を確認しました」という紙切れ1枚に安心する消費者がいるからこそ、検査狂騒曲が始まってしまう。検査の限界と意義、現在の「安全」のカラクリを消費者にいかに伝えるか? 私たち科学ライターにも大きな「宿題」が課せられている、と思う。(サイエンスライター 松永和紀)

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