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松永和紀のアグリ話

食品偽装問題の奥底に潜むもの

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2004年9月1日

 また、野菜の産地偽装問題が起きている。社員の関与を認めた京都の青果業者、ローヤルの社長は、会見で「契約通りの商品を納入できず、取引先との関係が壊れるのが一番怖い」と述べたそうだ。だから、社員が産地を偽装して取引先のスーパーに納入してしまったということらしい。この話、スーパーに道義的責任はないのか?

 参照記事:京都新聞8月27日付
 もちろん、いかなる理由があろうと、産地を偽装し消費者を騙した責任は免れない。ローヤルのこれまでの対応を新聞記事などで読む限り、社長の言い訳をすんなりとは受け取れない部分もある。しかし、「欠品をスーパーが許さない」という愚痴もまた、食品業界ではよく聞く話。私は、1年前に聞いたある言葉を思い出した。

 1年前、宮城県の養殖カキのトレーサビリティシステムを取材した。同県では2002年3月、カキを生産者から買いパックや袋詰めなどの加工をする業者が、韓国産カキを混ぜて宮城産として売っていたことが明らかになった。スーパーや生協などが取引停止処分を行い、同県の生産者、加工業者共に大きな打撃を受けた。

 失われた信頼を取り戻すため、宮城県漁業協同組合連合会(県漁連)が目指したのが、トレーサビリティシステムの構築だ。消費者が、インターネットの検索システムで小売りパックに書かれたID番号を入力すると、漁協名、養殖し身を取り出した生産者名、処理場名、消費期限、小売りパックに分けた加工業者の名前などが分かる。カキを浸す塩水の濃度までチェックし、混入を防止する。県漁連や加工業者にとってコスト負担は大きかったが、03年から本格導入に踏み切り、誰もが「逃げ道がない」「ごまかしがきかない」と認める仕組みができあがった。

 参照ページ:宮城のかき情報
 関係者が一様に「混入事件の汚名返上を目指す」「高品質の宮城産カキへの消費者の理解を深めたい」と張り切る中、「実は、トレーサビリティシステムの導入には、もっと大きなメリットがある」と打ち明けてくれたのは、ある加工業者だ。

 「スーパーに、欠品もあり得ますよ、と言えるようになった」と言うのだ。バック詰めなどをする業者が韓国産カキを混入した大きな理由として、多くの関係者が、価格の安さと共に、欠品を許さないスーパーの姿勢を挙げた。以前は、天候が悪くカキを水揚げできなかった時も、欠品すればスーパーから取引停止になることがあった。加工業者は、何が何でもカキを手に入れなければならず、韓国産に手を出した面があったというのだ。新システムを導入したことで、加工業者は「水揚げがなければ、商品を作れない」という当たり前のことが、スーパーに言えるようになった。

 確かに、天候や市場の動向に大きく左右される農産物や海産物が、前に印刷されたチラシ通りにずらりと並ぶのは、よくよく考えればおかしい。台風の後でもいつも通りの品揃え。消費者が、そのゆがみに気付くべきだったのだ。

 新聞報道によれば、ローヤルの社員は、ハワイ産パイナップルをフィリピン産と偽ったり、トンガ産カボチャをメキシコ産とするなどの偽装に関わっていたという。価格差はほとんどなかったらしい。もちろん、偽装は悪い。そして、真実は分からない。しかし、ローヤルを単純に「消費者を欺く行為」と断罪するだけで済むのか。私たち取材者が、もっと深い「真相」に迫らないと、同様のことがずっと続くのではないか。本音を漏らした宮城のカキ加工業者のちょっと屈折した表情が、苦く思い出される。(サイエンスライター 松永和紀)

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