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松永和紀のアグリ話

ライブドアと残留農薬の関係は?

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2004年9月8日

 輸入食品の農薬残留基準違反を詳しく調べてみると、原産国の基準値は下回っているものの日本では基準値が異なるためにオーバ?してしまった、という例が多い。ポジティブリスト制が導入されれば、このような「悪意なき違反」はさらに増えるかもしれない。そんな事態を予防するために今から準備すべきことは? なんと、プロ野球球団買収問題で名を馳せた企業、ライブドアが、“処方箋”を持っていた—-。

 厚生労働省の輸入食品に関する監視状況(7、8月分)が9月2日、公表された。その中に、フランス産レンズ豆の残留基準値オーバーの事例が2件あった。レンズ豆は最近、サラダやスープにするおしゃれな食材として人気がある。厚労省によると、今年1月からの7カ月間で16件、計1万9098kgが輸入されているが、そのうち2件でデルタメトリンが残留基準値を超えて検出された。16件中の2件とは、かなりの高率だ。

 なぜか? レンズ豆におけるデルタメトリンの残留基準値は、EUが1ppm、日本は0.1ppm。違反事例は、0.24ppmと0.21ppm。つまり、どちらもEUでは全く問題がない商品だったのだ。

 残留基準値は、その国の農薬の使用状況によって大きく異なる場合がある。輸入者がデルタメトリンに関する情報を持っていれば、レンズ豆もフランスで残留農薬検査を行い、日本の基準値内に収まったものだけを輸入しただろう。今回の残留量では、食べても体への影響は全くない。しかし、輸入者は厚労省から廃棄や積み戻しを命じられ、社名を公表された。企業として大きなダメージを受けたはずだ。

 現在、残留基準値は242の農薬に設定されているが、ポジティブリスト制になれば、約700の農薬について、設定されることになる。レンズ豆と同様のことが頻発する可能性がある。輸入業者にとって、生産国での農薬の使用状況や残留基準値などの情報収集は、ますます重要になる。

 だがおそらく、情報を集めるのは容易ではない。例えば、生産国がアメリカやEUならば、行政が情報を公表しており、日本でもインターネットで容易に分かる。しかし、中国はどうか。残留基準値は省ごとに異なるという。さてどうするか?あるいは中南米は? 東南アジアは? アフリカは?輸入業者がそれぞれ、各国の状況を調べるのがどんなに困難か、十分想像がつく。

 そして、解決のビジネスモデルがあった。それがライブドア。いや、正確に書くと、ある食品の輸入に関わる企業が集まっている業界団体が、ライブドアと共に開発し運用しているインターネット上のデータベースだ。企業の担当者が個別に必死になって情報を集めるのではなく、団体が会員企業が扱う農産物に関する情報を集約し、会企業にネット経由で提供しているのだ。

 このデータベースに、その食品の原料となる農産物名を入力する。すると、700あまりの農薬について、現在の国内の残留基準値、厚労省が検討中のポジティブリスト制基準値案、Codex基準値、米国やEUなど各国の基準値、農薬としての用途、厚労省のモニタリング項目になっているかどうかなど、情報がずらりと出てくる。これを見れば、日本と各国の残留基準の違いなど一目瞭然。会員企業は24時間、データベースにアクセスできるようになっており、既にフル稼働している。

 この団体の会員企業は、 メーカーよりも輸入商社が多いため、インターネットや人脈を駆使した海外情報集めはお手のもの。それでも、各国の情報収集には大変な苦労があったそうだ。政府が残留基準値を公表しておらず、大使館経由で尋ねても回答がなく、NGO経由でやっと入手できた国もあったという。

 さらに、各国とも随時、残留基準値を変更するので、今後も常に最新情報を手に入れ、データベースに反映させていかなければならない。相当な努力が要る。しかし、団体の担当者は「それが、業界を束ねる団体の責任。各社が個々に調べるのでは労力の無駄ですから、会員企業に少しずつお金を出してもらって、うちがきちんとやることにしました」と言う。

 システム構築のため、団体がライブドアに支払った額は、二百数十万円。さらに、データをライブドアのホスティングサーバーに置いているので、利用料月額15万円を支払っている。

 この金額が高いか、安いか。判断は人それぞれだろう。しかし、企業個別の取り組みでは限界があるのはもはや明らか。どの業界も、企業が協力し合い情報整理に動くことが必要ではないか。

 団体の担当者はこう話してくれた。「各企業にまかせていては、中小の輸入者の中から、情報をうまく手に入れられずに脱落するところが出てくるでしょう。そして、違反事例が出れば、その業界全体の信用が問われる事態にもなりかねない。うちは、うちの特性を活かした手法として、データベースを作った。それぞれの業界も、ソリューションを早く考えた方がいい」。

 この原稿を書くに当たって、団体から「問い合わせをいただいても、データベースを会員企業以外に公開することはできないので、団体名は伏せてほしい」と言われた。その代わり、ライブドアの担当者のメールアドレスを教えていただいた(ライブドア担当者の連絡先 katay@livedoor.jp )

 自分たちの業界に合わせたデータベースを、ライブドアと共同で作るもよし、全く違う方策もよし。いかなるやり方を選ぶにせよ、食の安全とは全く無関係の残留基準に振り回され、汚名を着せられることを思えば、業界ぐるみの先行投資は決して高くないはずだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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