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松永和紀のアグリ話

「ものづくり」が仕事の農家はGMの関心が高い?

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2004年9月15日

 農家とだんだんと親しくなると、意外にも「遺伝子組み換えを作ってみたいなあ」と漏らす人が多い。だが、「消費者が理解してくれるなら」という条件付きで、しかも「これは書いてはだめだよ」とくる。農家にとって、省力化、減農薬につながるGMは、やっぱり魅力的で一度は手に取ってみたいものだが、公言できないのだ。10日に開かれた日本モンサント河内農場(茨城県)での圃場見学会で、除草剤耐性ダイズの見事な雑草防除効果を見ながら、国内農家の苦渋に思いを馳せた。

 見学会は、報道関係者を対象としたもので、全国紙記者やテレビクルーなど20人あまりが参加した。農場で栽培されているのは、日本で利用も栽培も認可されている除草剤(ラウンドアップ)耐性ダイズ。普通の畑で作ってよい品種だ。

 タネを播き高さ15cmから30cmほどに育ったときに、1回だけ除草剤、ラウンドアップを散布。すると、雑草は全部枯れるが組み換えによりラウンドアップ耐性を持つダイズだけは生き残る。その後は、ダイズが生い茂り雑草は日が当たらないために発芽生育できない。ダイズは元気に育ち開花結実し高収量を上げる仕組みだ。

 河内農場では、除草剤耐性ダイズを4つの区画(ラウンドアップ散布区/無除草区/ほかの農薬による除草区/機械でうねの間の草を鋤き込む「中耕培土」処理)に植え、比較試験を行っていた。

 雑草が全くなく太り始めたサヤが目立つラウンドアップ散布区と、ヒエやオオイヌタデなどが生え放題の残りの区画との差は明らか。報道関係者の一部からは「こんなにすごい効果だったら、日本でも作っていいんじゃないか」という声も聞こえたほどだった。(日本モンサントで、この栽培試験の様子を「組み換え大豆観察記」として公開しており、写真も豊富に掲載されているので、ぜひご一読を)

 モンサントの担当者も、日本の農家の関心の高さは実感しているという。「私も栽培したい」「いもち病にかからないGMイネを開発してほしい」などの声が寄せられるそうだ。

 GMを商用栽培している農家がなくGM反対論が優勢な日本では、こうした意見は少数派と思われがちだが、私の見るところ、そうではない。農家の仕事は「ものづくり」だから、新技術、新品種への探究心はもともと強い。

 GMの栽培は諸外国で加速度的に増えており、米国では2003年、ダイズの全栽培量の80%が除草剤耐性ダイズになったほどだ。消費者は「米国政府が政策誘導するから」「企業が儲かるGM作物を売りたがるから」などという市民団体などの言い分をうのみにするが、農家は違う。「そんなことでは、自分たちは動かない。米国の農家だって同じはずだ。大きなメリットがあるからこそ増えているはずで、それが何なのか確かめてみたい」と考えている。もちろん、厳密なアンケートをとったわけではないけれど、私にはそう思えて仕方がない。

 とりわけ、農家のダイズへの関心は高い。なぜならば、日本でのダイズの栽培は、天候に左右されがちでとにかく難しいからだという。農水省が今年6月にまとめた「国産大豆の生産流通の現状」によると、ダイズの生産量は94年度に9万9000tで最低となったが、その後年々増加し、2001年度には26万tになった。しかし、2002年度も26万tのまま、2003年度は天候不良などにより23万tに下がっている。

 確かに生産量は増加傾向にはあるが、マスメディアがここ数年、「地元のダイズで作った豆腐やしょう油、手作り味噌」をしきりに推奨する割には、劇的な伸びではない。ダイズの年間総消費量のわずか5%前後しか、日本国内では作っていないのが現実だ。

 価格面でも芳しくない。国産ダイズの入札販売価格(国の交付金対象ダイズ)は、99年度には60kg当たり6780円だったが、生産量が増えるにつれて下がり、2002年度は4815円だった。国の助成により生産者の手取り額は維持されているが、これでは農家は展望を開けない(ただし、2003年度は不作になったことなどにより高騰し、9907円となった)。

 国産ダイズの自給率を上げGMダイズの増加を食い止めようとする「ダイズ畑トラスト運動」が、市民団体などの手で展開されているが、これも自給率増加の決め手にはなっていないようだ。今年1月に茨城県で開かれた全国集会でも、GMに反対する農家が「3年に1回は不作になり苦しむ。もっと消費者が支えてほしい。そうでないと、今に農家はGMに手を出してしまう」と訴えたほどだった。

 こうした農家の苦労に消費者が触れる機会がないから、GMの議論は曲がりくねったままなのではないか。GMノーを叫ぶが国産ダイズは高くていやと言い、海外の農家に非GMの農産物を作らせて安く輸入する。あるいは、GMの環境影響を問題にしながら、海外での環境影響には知らん顔でGM油を食べ、GM作物を飼料とする畜産物を食べる。そんな今の日本の消費の姿を、素朴に「変だなあ」と感じ始めない限り、GMに関するリスクコミュニケーションは、もはや進みようがないのではないか。

 モンサントの農場で栽培されている緑のダイズは、私にいろいろなことを考えさせてくれた。他の報道関係者たちは、「日本もGM導入を」と思ったか。あるいは、「ダイズを育てるのがこんなに大変ならば、非GM国産ダイズに適正な価格を支払い農家を支えていけるように、消費者に働きかけていかなければ」と思っただろうか。(サイエンスライター 松永和紀)

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