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松永和紀のアグリ話

今、なぜか話題になるカドミウム食品汚染

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2004年9月22日

 火山国、日本の食品には、避けようのないリスクが存在する。カドミウムだ。水や土壌、農水産物に比較的多く含まれており、日本人のカドミウム摂取量は、諸外国の数倍にもなる。そのため、どこまでの含有値を許容するのかが盛んに議論され、環境中のカドミウムを回収除去する方法も研究されている。先週14日から16日まで福岡市で開かれた日本土壌肥料学会でも、植物の力を活用する研究発表が目立ったので、ご紹介する。

 研究発表に触れる前に、食品中のカドミウムに関する議論の動向について、簡単におさらいしておこう。カドミウムは重金属元素で、1000年以上前から鉱山開発などにより掘り出されており、河川や海の底、土壌などに普通に存在する。生物にも吸収されるため、農産物や海産物に高濃度に蓄積する場合もある。

 だが、カドミウムと聞いてだれもが最初に思い出すのはイタイイタイ病だろう。大正時代から昭和にかけて、富山県神通川流域で、骨が折れやすくなり全身の痛みを訴えて「痛い痛い」と叫ぶ病気が発生した。原因は、亜鉛鉱山で製錬した後の排水が神通川に流されて、流域の住民が水や農産物を通してカドミウムを長期間、大量に摂取したためだった。患者は、腎機能障害や骨代謝異常などを引き起こしていることが分かり、1968年に「公害病」として認められた。

 ほかの鉱山周辺でも、カドミウム濃度が高い地域があることなども判明し、排水基準や水質基準が定められた。また、食品のうち最大のカドミウム摂取源であるコメについては、食品衛生法によりカドミウムを1ppm(玄米1gにつき1μg)以上含んではならないと定められ、1ppmを越す玄米は焼却処分されるようになった。また、1970年からは0.4ppm以上1.0ppm未満の玄米も、農水省が買い上げて工業用ノリなどの原材料としてきた。

 平行して、1ppm以上のカドミウム含有米ができた水田(すなわち、高濃度汚染の水田)は、汚染土を取り除き客土を行う恒久対策がとられた。0.4〜1.0ppmの玄米ができた水田については、イネのカドミウム吸収蓄積を抑えるような栽培技術が指導されるようになった。

 こうしてこの数十年、対策が講じられてきたにもかかわらず、最近急に、カドミウムによる食品汚染が注目され話題に上るようになった。理由は、含有量に国際基準を作る動きがあるからだ。

 イタイイタイ病患者は、毎日数百μgのカドミウムを摂取していたと推定されている。だが、現在の日本人の1日摂取量は、29.3μg(2001年度調査)。高濃度局所汚染によるイタイイタイ病対策から、低濃度汚染による食品リスクの検討と国際協調へ—-。課題の質は、大きく変化したのだ。

 国際基準を検討するCodex委員会では当初、カドミウムの精米における上限許容量を0.2ppmにする案が出された。それに対して、日本は0.4ppmを主張した。日本側の根拠の一つは、0.4ppmが現在の日本の実質的な上限基準であり、これに基づく日本人の摂取量は4.2μg /kg/週で、FA0/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が定めた暫定週間耐容摂取量(7μg/kg/週)を下回っていることだ。さらに疫学調査などの結果、この摂取量レベルでは腎機能障害や骨代謝異常などとの関連も認められないとした。

 一部の研究者は、「0.4ppm近いコメを食べ続ければ、腎機能に影響が出る場合もある」と指摘する。一般消費者が、特定の田んぼでとれたカドミウムが高濃度のコメばかりを食べ続けることはまず考えられないが、農家の自家消費などではそのようなケースもないとは言えない。そのため、新聞や市民団体などの間では、「国は食の安全を軽視している。0.2ppmにすべきだ」とする論調もあった。

 だが、日本が0.4ppmを主張せざるを得なかったのには、別の理由もある。まず、基準値を0.2ppmにすれば、生産されている米の約3%、約25万tを、非食用にしなければならない。また、再発防止のために広大な水田に客土などの恒久対策を施さなければならない。

 が、なにせ日本の表層土のカドミウム濃度の平均は水田で0.265ppm、森林でも0.118ppmでかなり高い。非汚染土壌を客土しようにも、持ってくる非汚染土壌がなかなかないのだ。しかも、客土に必要なコストは10a当たり500万円。全国規模での対策となると莫大なコストがかかる。 
 確かに、カドミウムは体内に蓄積しやすく1回の摂取量は少なくても長年にわたって体に貯まれば、影響が出る。摂取量をなるべく少なくするに越したことはない。一方で、火山国に住み、カドミウムを蓄積しやすいコメを主食としている以上、コストも考えればある程度の量は我慢しなければならないだろう。時には、高濃度米を食べる日があったとしても、それですぐに体を壊すわけではなく、別の日には低濃度の米を食べるような食生活ならば、大丈夫ではないか—-。

 この2つの考え方の妥協点として、国が打ち出した現段階での上限許容量が0.4ppm、と考えれば分かりやすい。Codex委員会も日本の主張の妥当性を認める形で、今年3月に基準値原案を0.4ppmに引き上げ、検討を続けている。(カドミウムに関する一連の情報は、農水省のウェブページが簡潔で分かりやすい)

 そして、0.2ppmか、0.4ppmかのシビアな議論が続く中で、急速に関心を集めたのが、ファイトレメディエーションなのである。土壌中のカドミウムを植物に吸収蓄積させてまとめて回収し浄化する。客土や化学処理に比べてコストが安く環境負荷も小さい。低濃度の汚染土壌対策にうってつけと考えられている。

 さて、具体的にはどのようにして行われるのか。今回は字数も尽きたので、次回、植物の力をフルに活かすファイトレメディエーションの現状と展望を紹介しよう。(サイエンスライター 松永和紀)

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