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松永和紀のアグリ話

農地のファイトレメディエーションは雑草でなくイネで

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2004年9月29日

 食品中のカドミウム問題が怖いのは、鉱山など昔からある汚染源に加えて、新たな汚染“容疑者”が浮上しているからだ。リサイクルされないニカド電池である。環境中にカドミウムが放出され、食品に影響する可能性がある。そこで、環境中のカドミウムを植物に吸収蓄積させて回収するファイトレメディエーションが注目されるようになってきた。9月中旬にあった土壌肥料学会での発表や、今年2月に農業環境技術研究所が主催した研究会「農耕地における重金属汚染土壌の修復技術の現状と展望」などの情報をご紹介しよう。

 カドミウムは現在でもニカド電池や合金、顔料製造などに大量に使われており、日本の使用量は世界の約4割(1995年度)を占めている。PRTR(化学物質排出移動量届出)制度の資料によれば、02年度には、カドミウムとその化合物が大気中に約2.6t、公共用水域中に4.8tも排出された。環境中に拡散循環し、土壌に蓄積して食品を汚染する恐れがないとは言えない。

 既に、「電池が招く食品汚染」などと主張する市民団体もあるけれど、現在の食品汚染の原因が電池である証拠は何もない。しかし、リサイクルを進め排出を抑制することは重要だ。また、環境中に拡散しているカドミウムを効率よく集め除去する技術も、なるべく早く開発しなければならない。

 土壌中のカドミウムを取り除く方法は(1)客土–汚染土壌を除去し、あるいはそのままで上に非汚染土壌を乗せる(2)化学処理による洗浄(3)ファイトレメディエーション—-などがある。

 高濃度の汚染土壌は、客土や化学処理などで一気に解決するべきだろう。だが、低濃度汚染土壌はどうか? 植物の力を利用するファイトレメディエーションは、10年ほど前から提唱され、研究が始まったばかりの技術だが、コストが安く環境負荷が小さく、処理後すぐに農地として利用できるなど、利点が多い。

 そこで現在、カドミウムを大量に吸収蓄積できる植物探しが、世界各地で行われている。よく知られているのは、タデ科のミゾソバやアブラナ科のグンバイナズナ。ミゾソバは水田地帯の用水路などに群生し、カドミウムの含有率は2000ppm(植物の乾物重1g当たり、2000μgのカドミウムが含まれているということ)にもなる。グンバイナズナは帰化植物だが、カドミウム含有率が1800ppmにもなる。これらの植物の吸収蓄積の効果や作用機構を調べる研究が盛んに行われており、土壌肥料学会でも発表が目立った。

 ただし、こうしたカドミウム超集積植物には、大きな問題がある。概して生育が遅く、草自体が大きくならないのだ。どんなに含有率が高くても大きく成長しないのでは、回収できるカドミウム量は知れている。さらに、これらの植物は農地での大量栽培法が分からない。生育をコントロールできるのか、生態系への影響はどうなのか、不明のまま栽培するのはリスクが大きい。

 超集積植物のこれらの問題点を踏まえ、実際の運用しやすさを重視してファイトレメディエーション研究を進めているのが、農業環境技術研究所(農環研) だ。

 ここの研究者は、カドミウムの吸収量が高いイネの品種を探している。ハデな超集積植物に比べるとカドミウム吸収能はそれほどでもないが、イネには何万という品種があるため、地域にあった品種を選びやすい/農家が栽培しやすい/農家自身が種子を生産できる/タネ播きから収穫、梱包まで、通常のイネ栽培の機械を転用できる—-など、たくさんの利点があるという。

 さらに、私が面白いと思ったのは、農家の心理面を尊重していることだ。「超集積植物といえども、何も知らない人から見れば雑草に過ぎない。雑草を田んぼに生やすのは農家にとって大変な苦痛で、周辺の農家もいやがる。農地のファイトレメディエーションは、雑草ではだめなのです」という研究者の言葉は、とても説得力があった。

 農環研は、土壌肥料学会でも、カドミウム吸収や転流に関連する遺伝子がイネの遺伝子のどこにあるか、という研究の途中経過を発表した。玄米中のカドミウムの低減にかかわる遺伝子は第3染色体と第8染色体にあり、高濃度のカルシウムの蓄積は、第6染色体にある遺伝子が関わっているらしい。関係する遺伝子を突き止められれば、ファイトレメディエーションに使える品種を探す時に、その遺伝子を持つか持たないかでふるいにかけられるため、品種選びがかなり楽になる。また逆に、カドミウムをなるべく吸収しないイネを品種改良によって作り出すことも容易になる。

 ファイトレメディエーションについては、フジタなど企業も研究を行っている。実用化にはまだほど遠いが、これはだれからも歓迎され望まれる技術だ。

 火山国に住んでいる宿命として、ある程度のカドミウム摂取は我慢する。でもなるべくなら食べたくない。カドミウムの含有量をゼロにすることはできないが、植物の力を活かしてコスト計算をしながら対処し、問題ある土壌を少しずつ減らしてカドミウムのトータル摂取量を徐々に低減させていくことは、できるのではないか。期待を込めてファイトレメディエーション研究の行方を見守りたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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