ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

米農家歓迎のスタック品種に日本食品企業は困り顔

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2004年10月20日

 9月末から10月上旬にかけて、米国で遺伝子組み換えの最新事情を視察した。研究所でも農家の間でも、コーンの新品種の話題で持ち切りだった。従来のBtコーン(アワノメイガ抵抗性)に根切り虫抵抗性も付加された品種が、来年ついに市場に出るのだ。米国の農家の多くは大歓迎だが、非遺伝子組み換えを求める日本の食品企業は将来、大きな問題を抱え込むかもしれない。非組み換えを確認するための検査コストが跳ね上がる可能性が出てきたからだ。

 根切り虫(Corn Root Worm)は米国、特に中西部の農家にとって頭の痛い問題だという。全土で年間10億ドルもの被害を出すと言われており、農家は収量減に悩み殺虫剤などで対策を講じてきた。遺伝子組み換えにより、この虫が食べれば死ぬたんぱく質をコーンに導入できれば、根切り虫が増殖して根を食い荒らすことはない。各社が研究してきたが、米Monsanto社が先行。土壌微生物が作るたんぱく質の一つ(アワノメイガ対策に有効なたんぱく質とは別種のBtたんぱく質)が、根切り虫に効果があることを見つけ、この遺伝子をコーンに導入して根切り虫抵抗性を持たせることに成功した。

 根切り虫抵抗性だけがある品種は既に日米で認可され、米国で2003年から商業栽培されている。来年売り出されるのは、根切り虫抵抗性とアワノメイガ抵抗性の両方を持つ品種。日本に比べて米国での承認は早く、今年も作付けは可能だったが、日本での承認がまだだったため、上市を見送っていたそうだ。日本での安全性確認も得られ、来年の作付け分から市場に出る。Syngenta社やDuPont社も、後を追って売り出す見込みだ。このように、遺伝子が複数導入されているものを、スタック品種と呼ぶ。

 生産現場のこのスタック品種への期待はとても大きい。イリノイ州の農家、Ron Fitchhornさんによれば、これまでは畑1エーカー当たり17〜18ドルの殺虫剤を散布していたものの、70%しか効果がなかったという。Ronさんは、「新しいスタック品種を使えば99%の効果が得られる。GMの種子を買う時には技術料を払わなければならないけれど、農薬を買わなくてすむ分、技術料を払ってももうかるよ」とご機嫌だった。

 Ronさんは、1人で約800haを耕す農家で、そのうちの35%に遺伝子組み換えされたGMコーン、35%にnon-GMコーン、27%にGM大豆、3%にnon-GM大豆を植えている。来年は、non-GMコーンを減らして、スタック品種の作付けを増やす予定だそうだ。生産者団体の期待も非常に高い。農家は、根切り虫対策としてこれまで、有機リン系殺虫剤も使っていたそうで、農薬散布中の曝露による健康被害も懸念されていたという。農薬使用量が減るスタック品種の作付け割合が来年、一気に増えるのは間違いないだろう。

 米Monsanto社をはじめとするGM開発企業は今後、1つの種子に導入する遺伝子を増やしていく構えだ。既に、根切り虫、アワノメイガの両方への抵抗性に加えて除草剤耐性も持つ品種も作られており、日本の食品安全委員会専門委員会でも審査されている。農家が強く望んでいる以上、開発企業としては当然の方針。だが、導入される遺伝子が積み重ねられた時には、日本の食品企業はかなり困ることになるかもしれない。スタック品種の検査は容易ではない。

 日本では、食品に「遺伝子組み換えでない」と表示する場合には、生産、流通、加工の各段階で、GMと区別して管理するIPハンドリングが求められる。検査による確認は義務付けられていないが、多くの企業は検査で、GMの混入が法的に認められた5%を超えていない事を確認している。ところが、従来の検査方法では1つの種子に2つの遺伝子が導入されていることを確認しづらく、2倍にカウントしてしまう。つまり、根切り虫とアワノメイガのスタック品種が1%混じっていたとすると、見かけ上の検査結果は「GMが2%混入」となってしまう。

 実は、現在既にスタック品種はあるのだが(除草剤抵抗性とアワノメイガ抵抗性の2つの遺伝子が導入されたもの)、流通量は数%だという。根切り虫抵抗性の登場により来年、スタック品種の流通割合は一気に増えるだろう。他社がスタック品種を出せば、さらに複雑になる。各社が3スタック、4スタックと出し始めたら…。見かけ上のGM混入率があっという間に5%を超える可能もある。

 遺伝子組み換えの検査で有名な企業、GeneScan USA社でも尋ねてみたが、「今のところ妙案はない。トウモロコシ一粒ずつを検査して、スタック品種かどうか確認すればよいが…」とのこと。サンプリングした試料を一粒ずつ調べ、あとは統計処理をして元の試料のGM混入率をはじき出すしかない、というわけだ。こんな検査が、食品企業にとって大変なコスト負担となることは言うまでもない。

 同社によれば、科学的に意味があるかどうかには関わらず、「とにかく検査をして、GMフリーであることを証明してほしい」という企業は相変わらずあり、ウオッカまで持ち込まれることもあるとか。もちろん、発酵蒸留して作ったアルコールを検査するのは難しい。

 日本の食品メーカーによれば、多くの場合、流通や小売りが検査による証明を要求する。メーカーは、科学的に無意味であることは分かっていても、「とにかく、出しときゃいいさ」になる。これまでは、定量検査でも数万円で済んでいたからだ。しかし、スタック品種を真面目に定量しようとすれば検査価格は跳ね上がるはず。スタック品種の本格化は、検査を「葵の御紋」とする風潮に、いかなる影響を及ぼすだろうか。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。