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松永和紀のアグリ話

台風もGM品種選択でも農家に求められるリスク管理

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2004年10月27日

 今年日本に上陸した台風は10個となり、野菜や果物が大きな被害を受けている。農家から「深刻です」「緊急融資を」などの声が聞こえる中、オヤっと思ったのはある農協幹部の言葉。「農家も、これからは自分たちでリスク管理をしなくては」と言うのだ。実は、同様の言葉を、先日視察したアメリカの生産者団体や農家からも聞いていた。

 片や台風対策、片や品種選びと、リスクの意味合いは少し違うのだが、栽培や販売のリスクを、農家が自分たちで選択する厳しさと清々しさは、日米共通に思える。今回はいつもと少し趣向を変えて、日米農家のリスク管理をご紹介しよう。

 台風被害は、我慢するしかないことも多い。例えば今、店頭で1個500円以上の格がついているキャベツ。ある大産地では、露地に植え付けた苗が台風で根こそぎ引っこ抜かれ、さらに植えた苗も次の台風で持って行かれる、という状態。もう植える苗がない。その結果、農家は1月ごろまで収入ゼロ。1戸あたり数百万円の収入減になるそうだ。

 全国の冬キャベツ産地は、ほぼ壊滅的な被害を受けているそうで、市場関係者は「1月いっぱいは高値が続く」とみる。だが、露地物はまだいい。ビニールハウスの倒壊はもっと深刻だ。なにせハウスの価格は1棟1000万円以上、というのがごく普通。壊れてしまうと、とんでもない負債になる。

 天気任せの中のリスク管理。ピンと来ないのだが、方法はあるのだという。品種の選択、作付けの時期、収穫適期の少し前でも、台風の進路や速度を見ながら穫ってしまうこと……。ビニールハウスのビニールをはずしたり、わざと破ってしまうこともある。ビニールをかけたままにして、支柱まで倒れたり吹き飛ばされたりすれば被害は甚大。あらかじめビニールを破って風が通るようにしておけば、ビニールと中の野菜はダメになるが、被害は小さい。ビニールをしっかりと張り密閉度を高めて中を守るか、思い切って破るか、かなり勇気がいる選択だそうだ。

 昔は、農協の営農指導員や県の普及員がさまざまな農業技術の指導を行っていたが、今は農協も県も財政状況が厳しく、現場の指導者はほとんどいない。行政の助成制度や緊急融資も、昔ほど簡単には受けられない。農家は情報収集し仲間と相談して、自分で決断するしかない。したがって、リスク管理の視点が農家の中でぐんぐん育ってきている。

 一方、米国。今回の視察(9月27日〜10月7日)は遺伝子組み換えの取材が中心だったが、米国穀物協会の方に同行していただいたため、トウモロコシ農家や生産者団体の話をじっくり聞くことができた。この国も、農家は天候、害虫発生の予想から販路、価格情報の入手まで忙しいという。

 最も重要なのは、品種選びのようだ。例えば、遺伝子組み換えによってアワノメイガ抵抗性を付加されたGM品種を、高い技術料を払って購入し植えたとする。アワノメイガが大発生する年ならば、周りのnon-GMの畑が大被害を受けても、殺虫剤のコストをかけずに傷のないピカピカのトウモロコシを収穫できる。一方、アワノメイガの発生がなければ、種子に含まれていた高い技術料はムダになってしまう。この数年のアワノメイガの発生状況などを考慮に入れて、農家は予測する。

 販路の検討も十分に行う。販路は主に、国内加工食品メーカー用/輸出用/家畜の飼料用。最近は、エタノール加工用という選択肢も出てきた。日本と違って米国農家は、品種と作柄、シカゴ穀物取引所の相場などを検討し、自分で販路を決めていく。仮に、畑がミシシッピ川に近くはしけを経て輸出するルートに容易に乗せられるなら、儲けは比較的大きい。しかし、EUは承認していないGM品種が多く、日本の食品メーカーもnon-GM品種のIPハンドリングを要求するので、コストもそれなりにかかる。輸送や分別にコストをかけるよりは、むしろ飼料やエタノールにした方が儲けが多い場合もある。

 農家は様々な条件を加味して、選択する。その際には、1種類を植えるのではなく、トウモロコシだけでも何種類かを植えるのが普通だそうだ。天候や市況の変化に対応し、ある品種は不作でも別の品種でカバーできるようにして、リスク分散を図るのだと言う。ひと言でGM品種といっても、数千種の種子が市販されている。non-GMも合わせると、何万という品種があるため、農家は冬は種子カタログと首っ引きになるという。

 国や生産者団体も、そのための情報提供には余念がない。全米トウモロコシ生産者協会は「Know Before You Grow」というキャンペーンを展開している。これは、GM品種が収益を上げる良きツールではあるもののEUや日本では歓迎されないことを踏まえて、農家に情報をデータベース化して提供し、品種選びの詳細な検討を呼びかけるもの。

 同協会イリノイ支部発行のハンドブック(15ドル)を見ると、農家は自分の畑の地理的条件を検討し、販路や分別方法、保管用サイロの有無などの条件をフローチャートに当てはめて、GM品種を採用するかどうかの方針を大まかに決められるようになっている。その後、インターネット情報やカタログなどを基に、品種を決定。収穫時期には、品種の番号を協会のインターネットのデータベースに入力することで、持ち込むべきエレベーターや分別の仕方なども瞬時に分かる、という寸法だ。

 協会幹部の言葉が印象に残る。「日本ではGMが嫌われているけれども、GMもあくまでも収益を上げるためのツールに過ぎない。農家が各々、経済的な判断をして、何を作るか選んでいるのです」。その結果、米国でのGM作付け比率がトウモロコシで45%、大豆で85%という数字になって表れている。幹部の言葉の裏側に、「日本が商品を買う以上は、リスクをあがなう代金はきっちりいただきますよ」という意図があることは、言うまでもない。

 もちろん、日米の比較などできない。しかし、やはり日本は、農家の選択を組織が情報提供によりバックアップしていく仕組み作りがまだ弱い、と思う。農家の情報分析力も全体には低い印象を受ける。しかし、これから少しずつ変わって行くだろう。全国で数千億円という台風被害に負けずに、農協再生に結びつけようとする幹部、キャベツの苗の後始末に追われる農家、ハウスの修繕を急ぐイチゴ農家……。日に焼けた顔が次々に思い浮かぶ。頑張ってほしい。(サイエンスライター 松永和紀)

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