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松永和紀のアグリ話

ビタミンEの大量摂取は、危ないかも…

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2004年11月24日

 抗酸化作用があるとされるビタミンEの大量摂取が死亡リスクを高める、という研究結果が今月、アメリカの著名な医学専門誌で発表された。機能性食品の安易な開発や摂取に「待った」をかける内容だ。

 研究結果は、Annals of Internal Medicineオンライン版(2005年1月5日号)で読むことができる。ビタミンEは、細胞レベルの実験などで活性酸素の働きを防ぐ抗酸化作用が認められ、心臓疾患やがんを防ぐ効果が期待されてきた。人気のサプリメントの一つだ。

 しかし、実際に人が長期摂取した時の効果が、よく分からない。世界各国でさまざまな臨床試験が行われているが、それぞれ実験設計が異なり(例えば、ビタミンEの投与量や摂取する人の年齢、健康状態などまちまち)、結果も違う。そこで、米英とスペインの研究者が、19のさまざまな臨床試験(患者数は計13万5967人)のデータを、「メタアナリシス」という統計学的な手法で、総合的に解析した。すると、意外な結果が出た。

 1年以上、ビタミンEを毎日、大量に摂取していた患者の死亡率が、全く摂っていないグループ(コントロール)に比べて高かったのだ。死亡率は、摂取量が1日150IU(国際単位)以下ではコントロールと差がなかったが、摂取量がそれより多くなると上がり始めた。摂取量400IU以上で、コントロールとの違いが統計学的に有意になり、量が増えるにつれて死亡率は上昇。2000IUを摂取していた場合には、死亡率がコントロールの1.07倍となった。

 IUは聞き慣れない単位なので、ここで少し説明しておこう。ビタミンEは実は1つの物質ではない。8種類の同族体を総称して呼ぶ名称で、それぞれ同じ量でも効力が違う。さらに、合成品と天然品でも、効力が異なる。そこで、効力を表すIUという単位が設けられている。合成のdl-α-トコフェロールが1.10IU/mg、天然のd-α-トコフェロールが1.49IU/mgという具合だ。

 ビタミンEサプリメントとして売られている製品は、αートコフェロールの天然や合成品が多いので、ビタミンEがmgで表示されている場合は、おおまかに1.10〜1.49IU=1mgで換算して考えてよいだろう。死亡率が明らかに高くなる400IUという数値は、換算するとビタミンE 268〜363mgになる。

 では、この値は日本人の食生活の中でみると、どの程度の量なのだろうか?国が決めたビタミンEの栄養所要量は、男性10mg、女性8mgで、通常の食生活の中で野菜や油、ナッツなどを食べれば摂れる量だ。

 コンビニや通信販売などで売られているサプリメントは1粒100〜300mgのものが多く、1日の目安量を300〜600mgとしている。このビタミンEが天然のαートコフェロールだとして換算すると、447〜894IUになる。つまり、普通の食生活を送りながらサプリメントを飲む人は、あっというまに400IUという「高死亡率ライン」を超えてしまうのだ。

 ただし、今回の研究では、死亡率がなぜ上がったかは、分からない。また、研究の対象とした人は主に高齢者で、心臓疾患を持っていたり、喫煙や高血圧などのリスクファクターを抱えている人が多く、この結果を青少年や健康な大人に即座に当てはめて考えてはいけないという。

 この10年ほど、抗酸化作用があるとされるサプリメント(ビタミンEのほか、βーカロテンやビタミンCなど)は大はやりで、大量に売られている。動物実験や細胞レベルの実験、ヒトへの短期実験などを根拠に「効く」とされる。しかし、2000年ごろから、LancetやNew England Journal of Medicineなど権威ある医学専門誌で続々と、ヒトが摂取した場合の長期の研究結果が発表されるようになってきた。そして、ほとんどの結果が「効かない」なのだ。がん予防効果もはっきりしない。

 これらは、実験材料が細胞や動物ではなくヒトを対象としており、方法も綿密で、「効く」の根拠となっている研究に比べて「信頼性」が高い。そして今回の論文で、「場合によっては危ないかもしれない」ということも明らかになった。

 著者の一人、Edgar Millerは、この論文をニュースとして取り上げたNatureのインタビューに答えて「企業は、ビタミンEが健康に良いというさまざまな主張を繰り広げる。しかし、それは科学的な根拠がなく、マーケティングに基づくもの」と話している。さらに「いかなるビタミンの大量摂取も、医学研究によってその価値がはっきりするまでは、止めた方がいい」とまで述べている。

 ビタミン類は長年調べられ、どんな化合物であるか、どのような構造か、どう作用するかなどの研究が丹念に行われてきている。そんなものでさえ、ヒトへの影響を医学的にしっかりと長期的に見ると、意外な結果になってしまう。

 ならば、続々と新規開発される機能性物質や、何が含まれているかもよくわからない健康食品のヒトへの影響は将来、どのように分かってくるだろうか。「効果抜群」か「体に害あり」か? 最も問題なのは、摂取する消費者が、自ら「人体実験」をしている場合すらあることを、分かっていないかも、ということだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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