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松永和紀のアグリ話

激突期待できる農薬リスクコミュニケーション

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2004年12月1日

 日本農薬学会が12月16・17日、農家や農水省担当者、農薬反対運動家などを集めたシンポジウムを開く。昨今のおざなりのリスクコミュニケーションではない。講演者は各々、40〜50分間、主張や考察を明らかにする。そのうえで、プログラム最後の約2時間、意見交換で“激突”する。これは、必見だ。

 行政のリスクコミュニケーションとは、どうも2〜3時間程度の「意見交換会」と「パブリックコメント募集」を指すらしい。意見交換会と言っても、行政の説明の後に、市民団体系の方々、いわゆる“プロ”市民が、反対意見をとうとうと述べるばかりで、議論はさっぱり噛み合わない。パブリックコメントも、すれ違いという点では同様。リスコミは今や、手続きを踏んでチャッチャとこなして終了させればよいものになってしまったかのようだ。

 こんな風潮に疑問を持っている人は、農薬研究者や企業人の中にも多い。そこで、彼らは「日本農薬学会農薬レギュラトリーサイエンス研究会」として、次のようなプログラムを企画した。

「マイナー作物、輸入食品、食糧生産などから食の安全・安心を考える」(このページ末尾参照)

 客観的に見て、農薬ほど誤解されているものもないだろう。高温多湿で病害虫が多い日本では、農薬は必要不可欠だ。安全性もこの30年ほどで飛躍的に向上し、医薬品以外のものでこれほど詳しく人体や生態系への影響が調べられている化学物質もない。

 農家も、農薬は高価なので使用量を極力減らしたい。なのに、今でも農薬は、消費者が食の安全性に関連して不安を感じるものの第1位なのだ(食品安全委員会、2003年9月モニター調査)。

 誤解を解きたい、と農薬関係者は長く思ってきた。そして、一昔前の解決策は、「啓蒙」だ。「あなたたち消費者は知らないだろうけれど、農薬は専門家がこんなに調べている。だから、安全なのですよ」と言う。

 しかし、専門家に高みから見下ろされ「教えてやる」という態度をとられては、消費者は面白くない。専門家は、消費者の反感に気付かないまま「話を聞いてくれた。本を読んでくれた。良かった良かった」と満足する。そんなことがこれまで何度も繰り返されたように、私には思える。

 ところが最近は雰囲気が変わってきた。農薬企業や研究者の中に、「消費者や反対派も、農薬のより良い利用につながるような良い視点を持っている。地道に真摯に疑問に応えて情報公開していくことが、結局は農薬の受容や業界の生き残りにつながっていく」と本気で言える人が増えてきた。私は密かに彼らを、「農薬新世代」と名付けている。

 その動きはとても面白い。農薬企業であるバイエルクロップサイエンスが出している農家向け小冊子には、外部研究者の寄稿ながら「不必要な農薬使用はできるだけ減らして行く」という文章が、当たり前のように載っている。シンジェンタ ジャパンのメールマガジンには、青果卸会社の社員が鋭い視点で野菜を見つめるコラムが載っていたりする。日本の企業だって負けてはいない。日本農薬のウェブサイトの充実ぶりも、なかなかのものだ。

 目先の売り上げうんぬんよりも、日本の農業を盛り返さない限りはもう生き残りの道はない、という危機感が、一部の企業人や大学関係者からひしひしと感じられる。今回の研究会も、この新世代のチャレンジの一つに違いない。

 特に、反農薬東京グループの辻万千子さんは、非科学的な「買ってはいけない」路線の運動家とは一線を画す緻密な取り組みで、業界でも一目置かれる存在。この辻さんと役人や学会会員が同じ壇上で議論を交わすのは画期的だ。ごまかしのないトークバトルが期待できるし、またぜひ、そうあって欲しい。

 研究会事務局はこう話す。「反対派を納得させようなんて、とんでもない。合意を目的とはしてもいない。まず、議論が噛み合うことを目指します。相互理解の長い道のりの最初の一歩にしたい」。壇上の誰が真剣に日本の将来を考えているか? だれの意見がもっとも説得力を持つのか? じっくりと聞き比べて、日本の新しい農業の姿を探ってみよう。(サイエンスライター 松永和紀)

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