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松永和紀のアグリ話

迷走する特定農薬制度。木酢液の安全性巡り議論

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2004年12月8日

 2年前、「アイガモは農薬か?」という奇妙な話題が全国紙を賑わせた。農水省が新設した「特定農薬」制度にからんだ記事だったのだが、この制度、今もなお迷走中だ。混乱の背景には、非科学的な無農薬、減農薬農業が歓迎される日本の悲しい現状がある。

 11月30日にあった農業資材審議会と中央環境審議会の合同会合での議論を中心に報告するが、その前に、そもそも特定農薬制度とは何かについて説明しよう。話は、2002年7月の無登録農薬問題にさかのぼる。無登録の農薬が全国で使われている実態が明らかとなったが、農薬取締法は無登録農薬の製造者や販売者しか罰しない。そこで、同年末に法律が改正され、使用者も罪が問われることとなった。

 その時に、牛乳や焼酎などをどうしたらよいか、という問題が出てきたのだ。農家の中には、このような資材を「病害虫防除=農薬」目的で使う人がいる。しかし、これらは農薬としては登録されていない。ならば、農家は処罰されるのか?いくらなんでも、というわけで農水省が編み出したのが「特定農薬」制度。農家が工夫して使う、食品や植物などを原材料とした資材を特定農薬に指定することによって、公認しようとした。

 しかし、実際に農家が防除目的でどんな資材を使っているか、はっきりしない。このため、農水省は「特定農薬に関連する農林業資材の情報の募集」を実施。集まった情報を整理して、740品目が並んだリストを公表した。これが、「アイガモは農薬か?」という記事につながった。

 しかし、リストをよく見ればびっくり仰天。医療用消毒剤の塩化ベンザルコニウム(水耕栽培で水に溶かすなど)、クレゾールやナフタリン(ダニ忌避のためハウスに吊るす)、たばこ抽出物(野菜のアブラムシ駆除)など、一見して安全性に問題があるものが多数含まれている。ある委員は「パンドラの箱を開けてしまった」と私に語ったほどだ。

 これらは農薬ではないので、農家は使用しても「減農薬」や「無農薬」と言ってしまう。また、農薬は高価なので、何か代替できるものがあれば生産コストも削減できる。農家の間ではこの数年、一種の資材ブームが起きていたのだ。

 新聞は、こうした危ない資材が栽培、つまり食品製造に使われている実情にこそ注目すべきだったと思う。しかし、取り上げたのは「アイガモや牛乳などを、国が農薬として検討している」ということだけだった。

 03年の審議会審議を経て、アイガモやアヒル、ウシ、コイなどは除外された。特定農薬指定の条件として(1)薬効がある(2)農産物や人、家畜、水産動植物への安全性が科学的に確認される—-の2点も決められた。そしてまず、「重曹」「食酢」「周辺で採取された天敵」の3つを指定。これ以外の品目については判断保留とし、防除効果をうたって販売するのを禁止した。しかし、使用者が自己責任で使うことは認めた。

 ただし、医療用消毒剤やクレゾールなど特に安全性が懸念されているもの17品目については、農薬として登録されている商品以外は禁止にした。また、農水省は特定農薬という名称は分かりにくいとして、特定防除資材と呼ぶことに決め、リストの品目をさらに分類整理。今年度から3カ年の計画で一部の薬効試験や安全性評価試験も行う計画だ。対象となるのは、トウガラシ抽出液やニームオイル、牛乳、焼酎などで、今年度の試験予算は1億5800万円だという。

 さて、本題である。11月30日に、研究者や消費者団体代表などを集めて開かれた合同会合は、前回の会合から実に1年半ぶりの開催。さまざまな報告と検討事項があったが、食品の安全という見地から数点に絞って考えてみたい。

 まずは木酢液。リストに挙がった中でもっとも注目を集めている。炭焼きの時にとれる液体で数百の成分が含まれるとされる。水で希釈して散布すると、殺虫効果がある/有用微生物を活性化する/葉や根を元気にする—-などと言われる。減農薬・無農薬派に歓迎され、新聞でも一時期、「自然の農薬」などともてはやされた。製造業者は業界団体を作り、特定防除資材への指定を求めて活発に動いている。

 しかし、製法によっては、発がん性物質であるベンツピレンや、ホルムアルデヒド、メタノールなどを含むことも分かっており、国も、有害物質が含まれないように規格が必要、と認めている。また、安全性に関する既存の文献資料もほとんどない。そこで現在、国の予算を使って、成分を調べたり安全性試験を行っている。

 農水省は、30日の合同会合では試験の途中経過は示さなかった。結果は来年度初めに資料としてまとまる予定だという。「必要な資料がそろった場合には、食品安全委員会で評価を受けた後に、またこの合同会合などに指定するかどうか、検討をお願いする」と説明した。

 だが、委員からは厳しい追及があった。「製品によるバラツキはどのくらいあるのか? 今回の試験で、本当に木酢液は安全と言えるのか?」「そもそも、なぜメーカーが自分たちで試験をせずに、わざわざ国費を使ってやるのか?」。

 審議会の会合で、こんなに厳しい意見が出るのも、そうあるものではない。実は今年、木酢液についての学術論文が3報出た。安全性試験を、農業資材審議会の委員でもある千葉大園芸学部の本山直樹教授が国の試験とは関係なく行い、発表した。その結果は、木酢液に大きな不安を抱かせるものだったのだ。

 少々長くなってしまった。次回、引き続き、木酢液に関する研究成果、合同会合の議論などをリポートする。(サイエンスライター 松永和紀)

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