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松永和紀のアグリ話

無農薬栽培で自由に使える特定農薬、問われる効果と安全性

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2004年12月15日

 11月30日の審議会会合で委員から、「国費をかけて研究をする意味があるのか?」と厳しい質問が飛んだ特定農薬(特定防除資材)制度。委員たちは今、この制度によって悪徳業者がのさばらないか、と心配している。

 現在、特定防除資材は減農薬や無農薬栽培で自由に使える。そのために、特定防除資材に指定されれば、その業者は膨大な利益を期待できる。何せ、農薬に比べてはるかに簡単に「公認」を受けられるうえ、減農薬・無農薬は無条件に歓迎されるご時世なのだから。

 中でも、木酢液業者の指定への期待は大きい。その木酢液に関する学術論文が今年3報出たことを、前回ちらりと紹介した。研究したのは、千葉大学園芸学部の本山直樹教授。市販や自家製の木酢液計19種類を調べ、日本環境動物昆虫学会学会誌に発表した。

 内容は、木酢液業者が青ざめるものだった。簡単にまとめると次の通り。
(1)主な成分を定量したところ、酢酸や有機成分の含量が製品によって10〜数百倍のばらつきがあった
(2)抗菌物質は含まれているが、どの製品にも農産物の病害虫を防除するほどの薬効が認められない
(3)市販の木酢液4種類と自家製品1種類で、微生物の遺伝子を損傷する活性である変異原性が確認された
(本山教授は、これらの結果を踏まえ、木酢液を種子消毒など限られた用途のみで使うことを提案している)

 ちなみに、一般の農薬は、商品ごとにメーカー自身が数億〜数十億円の費用をかけて開発し効果や安全性まで確認している。変異原性を持つ物質は発がん性を持つ場合も多く、企業は変異原性が分かった段階で開発を中止するのが普通だ。

 本山教授の研究があるため、委員の多くは木酢液に対して懐疑的になっている。製造者によって品質バラバラ、場合によっては変異原性も。そんなものを、国の金を使ってちょこちょこと試験して、ひとくくりに「木酢液」として特定防除資材に公認してしまってよいのか、というのだ。

 会合ではもう一つ、厄介な問題が浮上した。植物、生薬などを原材料とした「混合物」の取扱いである。これらは、「植物抽出液」「植物活性剤」などとして売られており、成分が分からない。製造方法もさまざま。発酵させている業者もある。業者は「天然物なのでよい」とPRし、農業雑誌には広告がずらり。今のところ、病害虫を防除する効果をうたって売るのは農薬取締法違反だが、農家も心得たものでそこのところは阿吽の呼吸。特定防除資材に指定されれば業者は堂々と効果をアピールできるので、業者の多くは指定を望んでいる。

 だが指定する場合、山ほどある商品それぞれの効果、安全性をどう担保したらよいのだろうか。商品そのものを調べるのか。それとも原材料を一つずつ評価し、その原材料から作られた商品は一括して指定するのか。

 これらの混合物製品について、農水省の担当者が「販売数は、もしかすると100製品を超える。中には、原材料が80〜90に上るものもある」と報告すると、多くの委員からため息とも失笑ともつかない声が漏れた。製品を一つひとつ評価するにせよ、原材料を一つずつ評価するにせよ、膨大な試験費用が必要になるからだ。

 どうすべきか議論が行われたが、一つにはまとまらない。「発酵物は単なる混合物とは違う」「物質を混ぜれば通常、リスクは増える」などとして、混合物は一切指定の対象としない、という意見が相次ぐ。その一方で、「実際に役立つものは活かしていきたい。混合物はダメ、ではなく、個々の製品ごとに評価できればよいのでは」という意見も出た。

 天然・植物抽出液と称する商品からは、以前に合成化学農薬が検出されたこともある(これも本山教授が研究し、96年に日本農薬学会誌に発表した)。その後も、他の製品から化学合成農薬が見つかっている。

 こうした詐欺商品が怖いのは、農家の「天然物信仰」を突いて、非常に高額で売られる場合があること(本山教授が化学農薬を検出した商品は、500mlあたり1万5000円だった)。また、農家が「農薬ではない」と安心して使ったために、農産物に農薬が大量残留し、農水省や県が指導に入った例もある。農水省も委員も警戒せざるを得ない。結局のところ会合は、重要な部分で何の解決策も見出せないまま終わった。

 特定防除資材は本来、熱心に独自の方法を模索する農家を救うための制度だった。しかし、会合が終わってみれば、複数の委員からこんな声が聞こえてくる。「薬効の安全性評価を行うためにはかなりの試験が必要で、個人が工夫して使っている資材を申請することなど、もはやありえない」「このままでは、申請するのは業者のみ。国費を使って試験をやり、一部の業者に『国が認めた特定防除資材』というお墨付きを与えて、儲けさせるだけになってしまうのではないか」。

 これが、特定農薬(特定防除資材)制度の現状である。審議は実に熱心なものだったが、一部の農家が既に、よく分からない木酢液や植物活性剤などを使っていることには変わりがない。農水省も本音のところでは、困り果てているのではないか。

 私見を述べればまず、国は資材の効果ではなく安全性確認に集中すべきだった。現在、国の事業として牛乳や焼酎などに病害虫防除効果があるか調べているが、厳しい財政事情の折、そんなことに国費を費やしてほしくない。

 農薬取締法は戦後すぐ、小麦粉を農薬と偽って売るような業者が横行した時に作られた。そんな状況は二度とごめん、と効果にこだわる農薬関係者は多い。特定農薬制度が作られた時も審議会委員によってさんざん議論が行われた結果、国が効果を確認することになった。けれども、今どきそこまで農家を保護する必要があるだろうか。騙されても自己責任。効果がある、価格も納得できる、と考えた農家だけが買えばよいではないか。

 しかし、安全性の確保は、使用時に浴びたり吸い込んだりする農家にとっても、残留物を口に入れる消費者にとっても重要だ。とにかく、安全性評価を急いでほしい。それにしても。特定防除資材候補の詳細を知れば知るほど、化学合成農薬が正しく使われる農業の方が、効果が確実で人の体にも環境にもよいとしか私には思えない。この本末転倒を、食品関連事業者や消費者にこそ、理解してもらいたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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