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松永和紀のアグリ話

ダイオキシン、GM・・・。新聞のウソ二題

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2004年12月22日

 新聞に最近立て続けに2つ、ビックリするニュースが出た。ウクライナ大統領選の野党候補のダイオキシン中毒と、静岡・清水港でGMトウモロコシとダイズが生えているのが見つかったという記事だ。筆者には申し訳ないが、どちらもトンデモ記事。なにがトンデモか、じっくり考えてみよう。

 最初は、ダイオキシン中毒の記事。ウクライナ大統領選の野党候補の容ぼうが激変した問題について、読売新聞は12日、こう伝えた。「同氏を検査したウィーンのルドルフィナーハウス病院は11日、記者会見を行い、猛毒のダイオキシン中毒との診断結果を発表した。(中略)専門家によると、ダイオキシンは水に拡散するため、飲食物に混ぜて摂取させることが容易。除草剤や殺虫剤の成分として含まれており、衛生管理の悪い場合は事故で体内に入ることもあり得る」。

 ダイオキシンは親油性で水には非常に溶けにくい。また、かつて一部の農薬に不純物として含まれていたことはあるが、農薬の成分だったことはなく、現在の日本の農薬では定量限界以下。農薬関係者らは「農薬に対する誤解がまた広がらないか」と心配顔だ。

 もう1つのGMトウモロコシとダイズの記事は、毎日新聞16日付。「遺伝子組み換え植物の種子が輸入港周辺で風に飛ばされ自生する問題で、静岡県の清水港周辺で新たに遺伝子組み換えのダイズとトウモロコシが自生していることが、市民団体の調査で分かった」と報ずる。組み換え反対派識者の「ダイズは国内の近縁種と、トウモロコシは農地での栽培種と交配する危険性がある」というコメントも紹介している。

 だがまず、「種子が輸入港周辺で風に飛ばされ」とは、だれも確認していない。関係者は原因について、風か、輸送中のトラックからこぼれたのか、はたまた港で働く人たちのズボンの折り返しに入ったタネなのか、などと慎重に考えている。最初から決めつけては、本当の問題点を見落としてしまう可能性があるからだ。

 さらに、今回見つかったダイズとトウモロコシを、単純に自生と表現してよいのかも疑問だ。ダイズやトウモロコシなど一年生植物の種子がこぼれた場合、「発芽→成長→開花→種子生産→種子が脱粒→また発芽」というサイクルが回るかどうかが、自生の本質だ。清水港のGMダイズやトウモロコシの場合(市民団体が行った簡易検査では誤る場合もあるので、本当は遺伝子分析をしないとGMかどうかは確定しないが)、見つかったのは12月。

 従って、これらの個体は間違いなく、寒さで死ぬ運命にあった。これは自生なのか?以前に鹿島港などで発見された、種子をつけているGMナタネとは状況が全く異なる。しかし、このニュースを取り上げたほかの数紙も、「発芽=自生」という扱いだった。

 せっかくなので、一歩進んで「冬にこぼれるなら、春や夏だってこぼれ落ちる」と想定し、自生について考察してみよう。農水省の「農林水産研究文献解題」などを読む限り、ダイズの最大の敵は、発芽前後の雨のようだ。水分量が高いと、乾燥種子に急激な吸水膨張が起こり、細胞膜が壊れて中のアミノ酸や糖、タンパク質などが漏れ出る。その後に日が照って乾燥すると、種子は完全に死んでしまうし、発芽できても子葉に障害が出ることが多い。

 また、種子自体が鳥に食べられてしまうことも、少なくない。うまく発芽した後の生育や生殖でも、土壌の養分や水分量、気温、日長時間などさまざまな条件が必要。長い経過の中で、幾多の困難があることは予想に難くない。ダイズは栽培がかなり難しい植物だそうだ。特に日本では収量が低く、米国の5〜6割しかない。国産大豆の生産者は「3年に1度は不作になってしまう」とぼやく。

 畑で栽培してもなかなか難しい植物の種子が、ちょうど良い時期に道ばたに落ちて、雨や乾燥をかいくぐりタネをつける確率は、さてどのくらいになるだろう。言うまでもなく、ダイズが真の意味で自生したり近縁種と交雑する確率はゼロではない。自然にゼロはあり得ない。

 「栽培植物の自然史」(北海道大学図書刊行会)によれば、ダイズと近縁種ツルマメのゲノム解析により、ダイズ畑やその周辺に捨てられたダイズ個体にツルマメの花粉がかかって生じた雑種の子孫と思われる個体が、国内の野外で見つかっている。つまり、ダイズが交雑し生き残った例はある。

 また、大阪府立大の中山祐一郎助手らが、ダイズ3品種とツルマメを50cmずつ離して屋外で栽培して種子を調べたところ、種子の0.73%が雑種になった(2002年に論文発表)。
 一方で、日本はこれまで毎年500万tものダイズを輸入しているが、道ばたなどさまざまな場所にダイズが生えているわけではない。黒豆など数百種あると言われる在来ダイズが、輸入ダイズと交雑しその形質が既に変わっている、という話も聞かない。野外の自然な状態での自生、交雑の確率は、極めて低い可能性もある。
 トウモロコシの場合、日本で育ち生殖に至るのはダイズよりさらに難しいだろう。なにせ、気温の高い真夏でないと生育できず干ばつにも弱い。また、基本的に他殖性だが、日本の在来の生態系には交雑できる近縁種がない。こぼれダネから大きくなった個体から数百メートル圏内にトウモロコシが栽培されていて、花粉が風で飛ばされてたまたま受粉できる確率はいかほどか?GM植物の環境影響を検討する場合、これらのさまざまなファクターを、整理して考えるべきだろう。
 農薬やGM問題は、反対派がセンセーショナルに危機感を煽る。これは仕方がない。しかし、報道機関がその言い分だけを取り上げ、科学的な事実を調べず書くのは恥ずかしいではないか。これを他山の石とし、私もアグリ記事ならぬ、読んで“口アんグリ”の記事を書かないように、精進します! 来年もよろしく。 (サイエンスライター 松永和紀)

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