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松永和紀のアグリ話

マイナー作物問題、経過措置延長は解決先延ばし

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2005年1月12日

 ウドが、ラッキョウが作れなくなる—-。2年前、農業現場はこんな話題で持ち切りだった。農薬取締法が改正されて規制が強化されたことにより、これらのマイナー作物に使える農薬が限られてしまったためだ。農水省は特例の経過措置を実施し使用制限を緩め、さらに今春から1年間、経過措置を延長する。タイムリミットは来年3月……。

 マイナー作物とは、全国での生産量が3万t以下の農作物のこと。地域の特産品として売られるウドやラッキョウ、タラの芽などの山菜、西洋野菜であるアーティチョークやズッキーニなど、多くの種類がある。これらのマイナー作物は、使える農薬が少ない。なぜならば、農薬は登録審査の際、栽培試験が行われ農薬の残留性や薬害などのデータが提出された農作物についてのみ、使用を認める(適用農作物とする)からだ。それ以外の農作物では、使ってはならない。

 試験にはかなりの費用がかかる。マイナー作物はもともと栽培面積が少ないため、企業がわざわざ試験を行って適用農作物としても、農薬の売れ行きが大きく伸びるわけではなく儲けが出ない。そのため、企業は試験をなかなか行わない。

 以前も、使える農薬が少ない状況は今と同じだった。そのため、農家は似たような作物で使える農薬を転用していた。ラッキョウならばタマネギ、ズッキーニならカボチャ、という具合だ。転用した場合の残留性などは調べられておらず使用基準違反。安全性に関する科学的根拠は薄い。だが、当時の法律では使用者(農家)は罰せられなかった。しかし、2002年に無登録農薬問題が起こり、03年3月に改正農薬取締法が施行されて、使用違反した場合も罰せられることになった。転用ができなくなった。

 だが、このままでは、マイナー作物は病害虫の被害を受けて、いきなり生産高が激減してしまう。打撃を受けるのは、農家だけではなく加工業者や外食産業も影響は大きい。カレーの付け合わせのラッキョウは? おせち料理のクワイは? マイナー作物問題は、日本の豊かな食文化をどう守るか、という話でもあった。

 そこで、農水省は「救いの手」を考えた。1つは、作物のグループ化。似た作物はグループにまとめ、代表する作物で栽培試験を行い、そのデータを基にグループのほかの作物での農薬使用も認めることにした。

 もう一つが、経過措置だ。適用拡大を目指して栽培試験をするといっても、試験には時間がかかる。そこで、2年間は農薬使用を認める。各都道府県がそれぞれ、農薬と農作物の組み合わせを農水省に申請し、農家は自分の住む都道府県が申請した組み合わせのみ、使用できることにした。経過措置の期間に、都道府県は企業や研究機関、他県などとも協力して栽培試験を行い、データを揃えていく。こうして、約9000件の組み合わせが経過措置を受けることになった。

 経過措置はこの3月に終わる。しかし、昨年はご承知の通り、真夏日が史上最高期間続くは、台風が10個も上陸するはで、栽培試験は難しかった。ひどいところでは、野菜が水に流されたり風に飛ばされたりして、栽培圃場に何も残っていなかった、ということもあったという。そこで、農水省は経過措置を1年間延ばすことに決めた。

 これが、マイナー作物問題の概要だ。この問題が私にとって興味深く思える点は、二つある。一つは、食文化をどう後世に伝えていくか、というところに農薬が深く関わっている、ということ。文化というとすぐに、「昔ながらの農業」とか「スローフード」に結びつけられてしまうし、農薬取締法改正の頃は「マイナー作物は、無農薬栽培すればよいではないか」という暴論まで消費者側にはあった。「そんなこと言ったって、虫食いの野菜は買ってくれないじゃないか」と農家は怒っていたものだ。工業製品である農薬が、しっかりと日本の食文化を支えているのだ。

 もう一つは、マイナー作物問題を通して見える農業現場とそれを指導する自治体の「甘さ」である。農家の中には「使用違反したら罰則までかかるなんて、厳しすぎる」という不満がある。転用時代の感覚をまだ、引きずっている。もっとダメなのは、一部の県。経過措置の組み合わせを、山のように申請した県がある。最も多い県は、申請して承認されたのが1137件だ。自県で栽培試験ができないのは、当然承知。とりあえず申請しておけば2年間は農薬を使えるし、あわよくば他県が栽培試験をしてくれるかもしれない。そんな「計算」がミエミエだった。

 経過措置は、制度上は農薬を使える仕組みだが、それは安全性に関する科学的根拠が薄いことを我慢してのこと。本来なら、県は消費者のことも考えて、申請を極力少なくするべきなのだが、一部の県は、生産振興を優先したのだ。

 一方で、自県で栽培試験を責任を持ってできるものだけに絞り込んだ結果、2件の組み合わせしか承認を受けなかった県もある。さすがに農水省も怒って、どの県がどんな組み合わせを合計いくつ申請したか、インターネットで全部公表してしまった。農水省農薬対策室の横田敏恭室長は、昨年12月にあった「農薬レギュラトリーサイエンス研究会」での講演で、「公表した意味は、ただ乗り県を社会的にオープンにするため」とニヤリとしていた。

 農水省は、都道府県が今年きちんと試験を行いデータを出すと確約した場合のみ、1年間の再延長を認める構え。2月末には農薬と農作物の組み合わせを公表するという。だが、とりあえずは経過措置でしのいでも、マイナー作物の栽培試験をする「原資」が足りない、という状況は変わらない。グループ化にも限界がある。どのように解決するか。この1年、注目していきたい。 (サイエンスライター 松永和紀)

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