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松永和紀のアグリ話

セイヨウマルハナバチ規制先送りの意味

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2005年1月19日

 ブラックバスで何かと話題の「外来生物法」。トマトの授粉に使われるセイヨウオオマルハナバチの規制は、検討を1年先送りすることが先週の専門家会合で決まった。「ブラックバスと同様に、利害関係者が規制逃れを図っている」と受け止める向きもあったようだが、それは違う。規制に向けて、地固めが始まったととらえた方がいい。

 セイヨウオオマルハナバチ問題のこれまでの流れは、本欄4月28日付、本欄7月14日付を読んでいただきたい。専門家を集めた会合では、特定外来生物に指定せず従来通り法的な規制なしに使用を認めるか、あるいは指定したうえで農家の使用を認め、逃亡防止のためにハウスにネットを張り使用後の巣箱を処分することを義務づけるか、が検討された。

 先週12日に今年度の最終会合が開かれた。既に議事概要も出ているので読んでいただきたいが、座長代理(座長は海外出張により欠席)によるまとめは次の通りである。
・セイヨウオオマルハナバチは生態系等への被害を及ぼす可能性が高い。
・調査や普及啓発を進めながら、随時、この小グループ会合での議論を継続する。
・1年間を目途にして、特定外来生物への指定を前提にして検討を進める。

関連記事:環境省「特定外来生物等の選定について」

 被害を及ぼす可能性が高いならさっさと指定すればよい。そこで、会合の後に、なぜ1年間という猶予期間が必要なのか委員に尋ねてみた。どうも、「4月から指定して、突然農家に『罰則がかかりますよ』とやっては、現場の混乱が避けられない。説明に時間をかけ、農家にネット展張や巣箱処分の準備をしてもらって、来年春にスタートを」という現実的な判断が強く働いたらしい。

 実は農水省は昨年3月、ネット展張と使用後の巣箱の適正処分をするように通知を出している。しかし、強制力のない通知。費用もかかるため、従わない農家も多い。そのため、ネットの張り方の検討や巣箱処分の仕組み作り、農家の金策などのために、1年間かけて“軟着陸”する方がよい、ということのようだ。

 さらに、本当に生態系に被害を及ぼすか、という点で、だれもが納得できるデータがまだ少ないのも事実だ。生態学者の多くは「予防原則により規制を」と訴えるが、規制を嫌う農業関係者は「根拠が薄い」と考える。そこで、1年間の再検討となった。座長代理は会合で「指定を前提として検討を進めるが、あくまで科学的なデータ如何で判定されるということは堅持しなければならない」と繰り返し述べた。

 これは「研究成果によっては、1年後に指定されないかも」とも受け取れるが、研究者の顔ぶれ、実績を見る限り、そうではないだろう。「被害を及ぼす」説を補強するデータが、1年間で一気に集積するのではないか。実際に専門家会合でも、Natureに2つもハチの生態に関する論文を載せた実績がある研究者が、影響を示唆する最新データを一部明らかにしている。

 生態学者の今の本心は、「よし、データを出して、来春には胸を張って特定外来生物に指定させよう」だと思う。セイヨウオオマルハナバチの販売企業の多くも、規制には協力的だ。農水省も、農家向けの低利の貸し付け資金や補助金を用意している。また、同省は生態影響に関する研究に来年度から3年間、資金を出す予定で、現在公募中(1月28日締め切り)。単年度研究費は計約5000万円という。

 セイヨウオオマルハナバチの研究はこれまで、農水省系の独立行政法人ではなく国立環境研が中心となって進めてきた。もし環境研主導のプロジェクトが農水省に認められて研究資金提供ということになれば、省の垣根を飛び越えた形になり、画期的だ。産官学の連携は、うまく滑り出している。

 あとは、トマトを買う側の問題だろう。新聞報道などを見ても、この話はあくまでも農家の問題というとらえ方しかない。だが、ネット展張や巣箱回収などの方策は、生物多様性を守り日本にある遺伝資源を絶やさず将来に伝えるため。広い視野にたてば、未来の人の暮しと食料生産を守るためである。消費者に無縁の話ではない。

 農家が自分の利益ではなく生物多様性を守るために対策を講じる以上は、価格転嫁を行いたいし、消費者も応じなければならないのが理屈。ところがそうならないから、農家も苦しい。特定外来生物に指定されれば、条件に違反した飼い方をしていると罰則も適用される。農家が「トマトを栽培して罪に問われるなんてとんでもない」と規制を嫌うのももっともだ。

 4月の外来生物法施行を機に、生物多様性への関心が高まるか。消費者は、セイヨウオオマルハナバチを自分にも深い関わりのある問題としてとらえられるようになるか。これが、今年1年の真の課題だと思える。(サイエンスライター 松永和紀)

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