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松永和紀のアグリ話

やっぱり摘発、農産物の不正表示

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2005年2月16日

 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病患者確認の発表と同じ2月3日、農水省が無農薬などと表示した農産物の調査結果を発表している。ヤコブ病問題の陰に隠れ、発表内容の一部であるドールの不正表示のみをちらりと報道した新聞やテレビが多かったようだが、取材してみると農産物表示の現状がうかがえてとても興味深い。

 農水省は昨年7月から今年1月にかけて、全国各地の小売店2998店舗で48万点あまりの農産物について表示状況を調査。さらに、807の流通業者と921の生産者にも遡及調査を実施した。

 その結果、名称や原産地、「農薬不使用」などの表示内容が事実と異なったのが、小売店114店舗、流通業者23業者、生産者15業者あった。そのうち、無農薬や減農薬など、消費者の安全安心志向に訴えかけるような不適正表示を行っていたのは計37業者(小売店9、流通業者13、生産者15)だった。

 もっとも、この37業者の不適正表示の多くは故意ではない。農水省消費・安全局表示・規格課によれば、無農薬栽培すべきところを生産者の親族が誤って農薬散布してしまい、生産者が知らなかった/農薬は使用していないが周辺の農地で農薬を使用した時にかかってしまった/消毒してある種子を使用したため農薬使用1回とカウントしなければならないのに気付かずに無農薬と表示した/生産業者と流通業者の連絡に一過性の齟齬があった、などのケースだ。

 同省は、残留農薬検査も行い現地調査や記録も確認するなどして詳しく調べ、特に悪質と見なした2社を公表した。それが、ドール(東京・千代田)とセイツー(石川県川北町)だ。

 ただし、2社の不適正表示の経緯は全く異なる。ドールについては、店頭で化学合成農薬を一切使用していないと表示して売っていた「限定栽培バナナ」から化学合成農薬が検出されたため、農水省が詳しく調査した。その結果、ドールが有機JAS法に基づく有機農産物の規格を勘違いしていた、ということが分かった。

 有機農産物は、化学合成された農薬と肥料の使用を避けることを基本として、環境への負荷をできる限り低減して栽培される農産物。ただし、30品目の農薬については使用してよいことになっている。ドールのプレスリリースによれば、有機栽培で認められている農薬は化学合成農薬ではない、と思い込んで、使用可の30品目の一つを使っいた。農水省によれば、それは銅水和剤とのことだ。

 ドールがわざわざ、「指定農園で化学合成農薬を一切使用せずに有機肥料で育成してました」と表示し、普通のバナナよりも高い価格で数年間にわたって販売していたことから、同省は「悪質」と判断して、公表に踏み切ったらしい。

 確かにドールはよくない。大企業としての責任もある。新聞やテレビなどが主に取り上げたのはドールだった。しかし、本当に悪質なのは、もう一方のセイツーだろう。同社は、化学合成農薬を使用して栽培したオクラとニンジンを、栽培期間不使用と表示して販売していた。

 これが分かったのも、残留農薬検査で農薬が検出されたから。セイツーのプレスリリースによれば、農薬の使用状況として「当地比5割減」「8割減」として売らなければならない農産物を、不使用として売ったという。しかも、生産者は記帳をしておらず、同社の確認責任者も農薬の使用状況について確認していない。同社は『土づくりから始まる高品質野菜』が売り文句のようだが、これでは企業姿勢を疑われても仕方がない。

 セイツーの不適正表示は氷山の一角だ、という声は強い。実際、農水省は同時期に「農薬を使用していない」と表示したマッシュルームで農薬が使用されていることを確認し、指導を行った。表示を行い販売したのは兵庫県の扇港興産(神戸市)で、同県が昨年11月17日、先行してプレスリリースしている。業界では「無農薬栽培品が足りなかったので、通常栽培品を少し混ぜた」などの噂も絶えない。

 また、農産物に農薬が残留していないことは、無農薬栽培の証明にはならない。農薬を使用して栽培しても、農産物からは農薬が検出されない場合も多いからだ。今回の調査では、「農薬を使用していない」という表示のある農産物286点を農水省が買い上げて、農林水産消費技術センターが残留農薬を分析したところ、15点から農薬が検出された。検出されなかった271点が本当に無農薬栽培かどうかは分からない。

 ただし、実体を伴わずイメージを売るようなビジネスがもはや許されないことは、はっきりしている。農水省は、違反事例を画一的に発表するのではなく、その悪質度をかなり精査して、社名の公表に踏み切っているようだ。

 今回の調査では、原産地表示が正しくなかったとして、5業者の社名も公表されている。高級スーパーとして有名なクイーンズ伊勢丹・静岡伊勢丹店は、オランダ産リーキを千葉県産、米国ア産トレビスを長野県産と表示して3カ月あまり売っていたことを明らかにした。あんな店でもこんなことを、と驚いた人も多かったはずだ。社名公表の痛手は決して小さくない。

 農産物の生産流通はこれまでとかく、ルーズな世界だった。私のみるところ、まだその感覚を引きずっている関係者が多い。自分たちが作ったり売ったりしている農産物が何なのか、本当に自信を持って出せる商品なのか、まず自分自身に問いかけてほしい。 (サイエンスライター 松永和紀)

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