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松永和紀のアグリ話

コスト高のnon-GM、日本はいつまで負担?

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2005年2月23日

 U.S.Grains Council主催のシンポジウムが2月17日と18日、東京と大阪であり、日本向けに非遺伝子組み換え(non-GM)トウモロコシを栽培している米国農家の話を聞くことができた。EUがGM承認に動き出した今、米国のnon-GM生産を巡る状況にも変化が表れ始めたようだ。日本人はいつまで、安いnon-GM農作物を手に入れられるのだろうか?

 講演したのは、Illinois州中央西部で3500エーカー(約1400ha)の農地を耕作するChet Esther,Jr.氏。今年は、non-GMトウモロコシを約2500エーカーで栽培し、1.5マイル離れた100エーカーの畑で、GMトウモロコシを栽培する予定だ。GMは品種の特性などを比較するためで、いわば試験栽培。残りの農地ではダイズを育てる。

 Esther氏がnon-GMを栽培するのは、GMの安全性に懸念を持つためではなく、利益を追求するからだ。Esther氏によれば、米国のトウモロコシ農家の経営には2つの選択肢があるという。1つは、国内市場と輸出市場の大半で要求される標準的なコモディティ・トウモロコシ。収量が多く遺伝子組み換えに関しては不分別で、流通に気を使う必要がない。日本に家畜の飼料用として輸入されるトウモロコシも、大部分がこれだ。

 もう1つは、特定の顧客の要求に応えて作られ、分別流通されるさまざまな品種のスペシャリティ・トウモロココシ。この中に日本向けのnon-GMも含まれる。コモディティに比べて収量は低く、品質管理や分別流通管理に気を使い、納期スケジュールも厳密に決められる。専用貯蔵庫など設備投資も必要だ。その代わりに、価格にプレミアムがつく。

 以前から、non-GMの分別流通はかなりの手間とコストがかかるとたびたび聞いていたのだが、 Esther氏の話は聞きしに勝るものだった。混ぜない工夫、対策が何重にも講じている。まず、1品種ずつ1度にすべてを収穫するため、播種段階からスケジュールを綿密に検討し栽培する。家族やパートタイムの従業員を集めた会議も欠かせない。コンバインなどの機材や25ある貯蔵庫も念入りに清掃する。収穫はGMトウモロコシとnon-GMトウモロコシの間にダイズの収穫を挟み、non-GMトウモロコシも収穫始めの300ブッシェル(約7620kg)は、コモディティとして出荷する。

 さらに隣人とも会議を開いて、何を植えいつ収穫するかも把握している。 Esther氏は「播く種子の袋を1つ間違うだけで、あるいは収穫した品種を一度、違う貯蔵庫に入れるだけでも、1年の努力が水の泡になるので、細心の注意を払う」と話す。

 このようにして分別収穫されたトウモロコシは、カントリーエレベーター、リバーエレベーター、はしけ、輸出港のターミナルエレベーター、大型輸送船、輸入倉庫、日本の製粉業者、食品業者と何ステップも経て消費者に届く。その度に分別取り扱いが行われる。高価になるはずである。

 Esther氏は分別流通穀物の将来の見通しとして、次のように語った。「米国の農家は、GMトウモロコシ生産へと流れを加速させています。また、海外の顧客も、GMトウモロコシ容認の傾向にあります。さらに、米国ではトウモロコシからのエタノール生産が増えています。こんな状況下でnon-GMのスペシャリティ・トウモロコシが欲しいのであれば、よりインセンティブが必要なのです」。

 エタノール生産は実は、日本人には予想もつかないほどの勢いで増えている。2004年には米国のトウモロコシの全生産量の約1割がエタノールになり、ガソリンに混ぜられ売られた。しかも、エタノールを抽出した後の残さにはタンパク質や油が豊富に含まれており、飼料になる。DDG(dried distillers grains)とDDGS(drieddistillers grains with solubles)の2種類があり、日本の飼料会社や目端の効く畜産農家も注目して試験輸入するほど高品質。燃料と飼料の両方を作れるエタノール化は、トウモロコシ農家にとっても十分に魅力的な用途なのだ。

 そこで、Esther氏は日本のユーザーが今後もnon-GMを確保するための具体的な提案を行った。
(1)作付けすべき品種をなるべく早く教えてほしい。長期計画を立てることができれば、コストを下げられる
(2)農家と複数年契約を結び農場に貯蔵庫を提供するなど、分別のための初期投資を手伝ってほしい。
(3)収穫しても売れるかどうかよく分からない特別な品種の種子を買うのは農家にとってリスクが大き過ぎる。種子を購入して農家に提供してほしい。そうすれば、農家はプレミアムを下げて収穫したトウモロコシを提供する。
(4)生産者側と顧客が、お互いのニーズを理解し合う必要がある。例えば、日本でスペシャリティ・トウモロコシがどのように利用されているか、厳密な分別作業がなぜ重要なのかを説明するような教育ビデオなどを、作ってほしい。

 当然、米国のトウモロコシ農家は日本を市場にしてさらに多くの利益を得たいはず。 この提案を額面通り受け取る必要はない。しかし、EUもGM承認に動き出し、世界各国でGMが許容され作付け面積も増えている。米国の生産者にとって手間が掛かり収量の低いnon-GM生産が魅力ないものに映るのも無理からぬことだ。

 GMの作付け比率が上がれば、non-GMを栽培する農家はさらに厳密な生産管理を要求される。そのためのコストは上昇し、価格も上がっていく。米国はこの10年近く好天候に恵まれてトウモロコシの生産が極めて順調なため、non-GM確保の問題は陰に隠れている。しかし、経済的なリスクが膨らんできていることは、日本の食品企業や消費者も意識した方が良いのではないか。non-GMがより高価になった時、日本の消費者は高いお金を出してもnon-GM食品を欲しいと思うのか? 企業も消費者ももうそろそろ、自らの選択をじっくり考える必要がある。 (サイエンスライター 松永和紀)

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