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松永和紀のアグリ話

北海道さん、GM規制条例案はヘンですよ

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2005年3月9日

 北海道が遺伝子組み換え作物(GMO)の栽培を規制する条例案を議会に上程し審議中だ。ほかの自治体でも動きがあり、問題視する日本植物生理学会など6学会は政府のバイオテクノロジー戦略会議に提言書を提出し、本日記者会見も開いた。北海道の条例案をよく読むと、研究者らが怒るのもよく分かる。道には大変失礼ながら、これはちょっと笑ってしまうくらいヘンな代物だ。

 北海道の「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例案」は、GMOの商用栽培を許可制、試験栽培を届け出制とし、無許可で商用栽培した違反者には1年以下の懲役または50万円以下の罰金を課す。2006年1月の施行を目指している。

 地方分権の時代。北海道が詳細な検討を行い道民の意志も十分に尊重しながら条例を定めるなら、他自治体に住む人間がとやかく口をはさむことではない。しかし、条例案の「目的」を読む限り、看過できない。なぜならば、目的の最後には、こうあるのだ。「もって現在及び将来の道民の健康を保護するとともに本道における産業の振興に寄与することを目的とする」。

(1)GMOは健康を害するものなのか?
 GMOは安全(=ゼロリスク)ではないが、そのリスクは現在何の規制もなく出回っているある種の品種よりも低い、というのは植物学者の常識だろう。例えば、全米科学アカデミーは、FDAやEPAなどの依頼を受けて全米から選んだ14人の科学者に遺伝子工学食品の安全性を検討させた。そして、2004年に報告書「遺伝子工学食品の安全性–意図しない健康影響評価へのアプローチ」として公表した。

 その中で、伝統的な交配育種から遺伝子組み換えまでさまざまな品種改良技術について、想定外の影響の可能性をどの程度持つか、という観点から比較。「突然変異育種」を、もっとも想定外の影響の可能性が高いと位置付けた。

 この方法は、化学物質や放射線でDNAを一部損傷して突然変異を起こさせた後、後代種の選抜を繰り返す。自然界には起こり得ない方法だけに、うまくいけば交配などでは得られないよい品種が出来る。しかし、突然変異処理によってDNAがどのような損傷を受けたか、すべてを調べられるわけではなく、品種として上市された後でも不明の点が多く残る。

 これに比べると、承認されている遺伝子組み換え品種は、微生物など異種の遺伝子が導入されているものの、入った位置は大まかに把握されており、その周辺のDNAの変化も調べられている。そのため、報告書は突然変異育種と比較すれば想定外の影響の可能性は低い、とした。突然変異育種は、欧米では1930年代から、日本では60年代から行われているごく一般的な品種改良法。日本にも、イネやリンゴ、ナシ、キュウリなど数多くの品種がある。北海道が、本当に道民の健康保護を検討するなら、GMOと共に突然変異育種も規制するべきだろう。

(2)GMを栽培しない経済リスクは?
 全米科学アカデミーの報告書「遺伝子工学食品の安全性」の検討メンバーでもあった米California大 Riverside校のAlan McHughen博士に2月末、インタビューする機会があった。そこで、北海道の動きについて尋ねたみた。すると即座に、「北海道は経済的なリスクを背負うことになりますね」という感想が返ってきた。

 博士は「GMが減農薬や農家の省力化に結びついている、というデータはかなり多くあります。また、GM技術によって将来は、低アレルギーなど、より価値のある作物もできるでしょう。non-GMOを選ぶという戦略によって、北海道は不利益を被る経済的なリスクがあるんですよ」と、説明してくれた。

 道は、この条例を制定することによって、GMO混入のない農産物の生産という産業振興を狙ったつもりだろう。一方で、GM利用には遅れをとるはずだ。道は社会情勢をみて3年後に条例の見直しをする構えだが、こうした経済的なベネフィットとリスクについて、道民に明確に説明した気配がない。

(3)GMOの環境影響をどう考える?
 条例案は、商用栽培を許可制にして、花粉の飛散による一般作物との交雑や、種子や収穫物の一般作物との混入を防止する。道民の健康保護と産業振興のためだという。ならば、飼料として海外から大量に購入しているGM不分別(つまり、GMが混じっている)大豆やトウモロコシを、どう考えたらよいのだろうか。道民が食べる食用油の原料となっているGM不分別ナタネについては、どうなのか?

 道が「non-GMの食用油しか売らせません。飼料としてもnon-GMしか使わせません」というのなら、納得だ。non-GMの市場価格は上がり、アメリカなど海外の農家も喜んでnon-GMを栽培するようになるだろう。しかし「食用油や飼料は現状通り、安い不分別を使います」では、北海道の論理でいけば、「海外の農家は、GMを作って健康被害を受けるがいいよ。私たちも不分別を輸入して、そのメリット(安さ)は十分に享受させてもらうよ。でも、心配だから作らないもんね」と言うようなものではないか。この姿勢、道義的におかしいのではないか。

 北海道は、学識経験者や農業関係者を集めて設置した「遺伝子組換え作物の栽培試験に係る実施条件検討会」に、この条例案そのものではなく簡単な素案しか諮らなかった。パブリックコメント募集の段階でも、素案しか明らかにしなかった。「道民の健康保護や産業振興のため」という条例案の「目的」は、議会提案で突然出てきた。この経緯を見る限り、道民への説明責任を果たしていないように思える。

 本日に開かれた6学会の会見では、奈良先端科学技術大学院大学の小泉望助教授が次のように述べた。「自治体は、科学的根拠ではなく風評被害が怖いという理由で、栽培を規制しようとしている。条例ができれば、消費者は『自治体が規制するから問題なのだろう』と受け止め、さらなる不安感を助長するという悪循環に陥る。私たち研究者は、風評被害を起こさないような正しい情報提供をしたいと思っているし、国にも働きかけていく。

 道は冷静に耳を傾けてほしい。(サイエンスライター 松永和紀)

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