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松永和紀のアグリ話

花粉症患者にはかえって悪い?無農薬栽培

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2005年3月16日

 「うちの子、アレルギー体質っぽいから、食事には気を遣って無農薬のものを食べさせているのよ」。お母さん仲間とおしゃべりしていると、そんな言葉を聞くことがある。しかし、その選択は誤りかもしれない。農薬で病害虫被害を防いだリンゴよりも、無農薬リンゴの方がアレルゲンが多かった—-。こんな研究成果が、今月28日から札幌市で開催される日本農芸化学会で発表される。

 研究したのは、京都大学大学院農学研究科の森山達哉助手(食品健康科学講座・食品分子機能学分野)。近年、花粉症の患者の中に野菜や果物を食べると口の中に違和感を覚えたり、アナフィラキシー(呼吸困難や血圧低下などの全身的な激しい症状)を起こす人がいる。花粉症の罹患年数が多いほど症状を起こす頻度が上昇するという論文もある。野菜や果物に花粉症のアレルゲンと似たタンパク質を持つものがあり、一部の花粉症患者が反応してしまうのではないか、と考えられている。では、アレルゲンの量に栽培方法は関係するのか? 森山さんはそんな疑問を持ち、リンゴで調べることにした。

 試料として、青森県植物防疫協会が栽培試験を行っている果樹園から、無農薬リンゴ、農薬を通常通り使った(慣行防除)リンゴ、4、5月頃の初期のみ農薬を使った(初期防除)リンゴの3種を提供してもらった。どれも無袋栽培で、無農薬リンゴは黒星病やすす斑病、初期防除リンゴは黒星病が発生していたが、慣行防除リンゴは病害を受けていなかった。

 この3種のリンゴの可食部からたんぱく質を抽出し、3人のリンゴアレルギー患者の血清でそのアレルゲン性を調べたところ、無農薬リンゴにはアレルゲンとみられるタンパク質が多かったが、慣行防除リンゴにはほとんどなく、初期防除はその中間だったというのだ。つまり、無農薬リンゴの方がアレルギーを発症するリスクが高い。

 森山さんは、BSE検査などでも使われるウェスタンブロット法で調べており、私も写真や定量グラフなども見せていただいたが、はっきりと有為な差が出ていた(写真やグラフは、農芸化学会でポスター発表される)。

 ではなぜ、無農薬の方がアレルゲンとみられるタンパク質が多いのか。そのメカニズムはまだはっきりしないが、森山さんはこう“推理”する。植物にとって、実が病害虫の障害を受けるのは、子孫を増やせなくなるかもしれない「非常事態」だ。そこで、病原体や虫との共進化の過程で、病害虫に襲われた場合には抵抗物質を増産して耐えようとするようになったのではないか。その抵抗物質の一つが、人にとってはアレルゲンになるのではないか—-。

 植物が病害虫などのストレスを受けると、体内で人に対して毒性を持つ物質を作る場合があることは、以前から知られている。森山さんの研究は、アレルギーについてもその可能性があることを示した。森山さんは、「残留農薬を心配する人が多いようですが、農薬は洗い、皮をむくことで、かなり取り除けます。しかし、アレルゲンは取り除けない。よく考えて選ぶ必要がありますね」と話す。

 今後は、患者数を増やして再現性を確認し、アレルゲンとみられるタンパク質の同定も行う予定。さらに、ダイコンなどほかの野菜や穀物などでも同じ現象が起きるのかどうか、調べて行くという。

 日本では一般に、無農薬や有機栽培は「安全、健康に良い」と無条件に信じられている。しかし、多くの科学者は疑問を抱いている。植物自身や病原菌などが作り出した毒性物質が、有機農作物から慣行栽培農作物よりも多く検出された、とする研究もある。そうしたことから、英国では「有機農産物はよりヘルシー、より栄養がある」と広告することは禁止されている。

 英国のThe Royal Society of Chemistryが発行しているChemistry World 2004年6月号でも、この問題が取り上げられており、筆者のサイエンスライター、Maria Burke氏は「権威ある人々は、有機食品の安全性について根拠がないとみなしているが、多くの批評家たちはリスクに対して非常に有効だと考えて譲らない」と書いている。どこの国でも、同じような状況なのだろう。

 もちろん、環境への影響や農薬を散布する農家のリスクを考えれば、農薬の使用量は少ない方がよい。森山さんの研究により、不必要な農薬の使用が推奨されるわけではない。また、無農薬栽培農家の中には、「うちの畑は、さまざまな工夫、技術で病害虫が寄ってくるのを防いでいるので、リンゴはストレスなく病気一つしていない。だから、悪い物質もできていないはず」と主張する人もいるだろう。

 しかし、この研究は、農薬という1つのリスクが下がった時に、アレルゲンという別のリスクが上がるという、「リスクのトレードオフ」の可能性を示したもの。農薬使用量の多寡という一つのものさしだけでは食の安全は測れないことを、森山さんの研究が教えてくれる。(サイエンスライター 松永和紀)

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