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松永和紀のアグリ話

英国誌が指摘、有機農法に3つの問題

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2005年3月23日

 前回、英国の雑誌「Chemistry World」が指摘している有機農業の問題点について触れたところ、何人かの方から「もっと詳しく内容を知りたい」という要望をいただいた。そこで今回はこの記事を紹介し、日本の状況も踏まえて有機農業のリスクについて若干の考察を試みたい。

 「Chemistry World 」は、英国のThe Royal Society of Chemistry が発行。2004年6月号で、サイエンスライター、Maria Burke氏による「Don’t worry ,it’s organic」を掲載している。英国らしい皮肉の利いたタイトルだ。有機農業について記事が指摘している問題は3点ある。

(1)畜産糞尿の施用により、病原性大腸菌0-157やサルモネラ菌などが作物を汚染するのではないか?

 畜産糞尿は通常、発酵させて堆肥にして畑に入れる。90日から120日間発酵させ、温度を60度程度まで上げて切り返しなども何度も行うことで、糞尿にもともと含まれる病原菌はいなくなるとされている。しかし、Geogia大の食品安全センター長を務める微生物学者、Mike Doyle氏らの研究によれば、発酵がうまく行かない場合、サルモネラ菌やO157が210日は生き続けるという。

 日本では、有機栽培に限らず通常の慣行栽培でも、堆肥を多く施用する農家が多い。堆肥による病原菌汚染については、女子栄養大学の研究者らが検討を行っている。日本土壌肥料学雑誌2002年6月号によれば、市販の生食用野菜から、病原性大腸菌が低率ではあるが検出されている。また、バンコマイシン耐性腸球菌が、検査した有機肥料の5%から25%程度検出され、国産野菜の34%と輸入野菜の33%からも見つかったという。日本は高温多湿で微生物の種類、繁殖力、活性も米欧とは異なるはず。日本でも今後、検討が必要だろう。

(2)作物は、病害虫や天候により、かびの攻撃を受けやすい。有機農家は、防かび剤を使わないか、使っても効果が低いものなので、かび毒が栽培過程や貯蔵段階で作物汚染するのではないか?

 英国食品基準庁が2003年、トウモロコシ粉30商品を調査したところ、10商品からかび毒の一種、フモニシンが検出され、そのうちの6つは有機食品だった。しかし、有機食品がよりリスクが高いという証拠も明確ではない。同庁は、かび毒のリスクについてHarperAdams大に5年間の研究を委託している。

 フモニシンは、馬や牛への毒性が良く知られたかび毒だが、疫学調査でヒトの食道がんとの関連も指摘されている。日本でも、北海道のトウモロコシなどから検出された例がある。ただし、日本では、有機農産物と慣行農産物のかび毒を比較検討した研究はないようだ。

(3)植物は、病害虫などのストレスに対抗するため、二次代謝物として体内でフェノール化合物を生成する。これは、有益か、有害か?

 有機生産団体は、有機農産物は通常の農産物よりも多くフェノール化合物を作り出しており、抗酸化作用があるため人の体によく、がんなどから守ってくれると主張する。一方、有益であると同時に突然変異誘発性や発がん性、光毒性などリスクファクターにもなりうると考える研究者もいる。まだデータが少なく判断できない、というのが大方の研究者の見解だ。日本でも、ポリフェノールの抗酸化作用は注目の的だが、詳細な検討はこれからだ。

 記事は、英国では「有機農産物は、よりヘルシー、栄養がある」などという広告は禁じられていることを伝え、「論争は、政治的問題や個人の信念、経済機会に激しく左右される。しかし、有機であろうと通常の農産物であろうと、以前に思われていた以の健康的リスクがあることははっきりしている」と書く。「私たちがすべきことは、有機であれほかのものであれ、たくさんのフルーツと野菜をよく洗い、食べることだ」というのが結びの文章だ。

 では、これらの指摘は日本にもあてはまるのか?日本で生産された農産物のうち、有機農産物としてJAS法に基づき格付けされたのはわずか0.16%(2003年度)。欧米に比べて非常に少ない。有機以外の農家の中にも、堆肥や有機質肥料を多く使い、農薬をなるべく減らして栽培しようとする傾向が目立つ。従って日本では、「Chemistry World」の指摘を、「有機農業は良いか、悪いか」ではなく、「農業全体が、過剰な減農薬や減化学肥料に走っていないか」という点から受け止めた方がよいように思える。

 堆肥の入れ過ぎによる土壌環境の悪化も懸念されている。先ほど触れた日本土壌肥料学雑誌2002年6月号には、「『完熟堆肥であれば、多く入れるほど土が良くなる』などの堆肥信仰が根強いため、家畜ふん堆肥の多量施用による土壌環境の悪化が進み、特に園芸圃場やハウスでその傾向が著しい」と書かれている。硝酸態窒素や重金属の汚染が心配されている。

 少量で効果的な化学合成農薬や、養分施用量をコントロールできる化学肥料を必要最小限、上手に使う農業も、もっと評価されてよいと思う。残念なのは有機農家などに「もっと科学的なアプローチを」と求めると、「科学ではまだ測れない自然の力を利用するのが、有機農業だ」「学者の研究で、有機農業の真価が分かるはずがない」という答えが返ってくる場合があることだ。部外者にも理解できる客観的なデータを基にリスクを検討し議論を深める必要が、やはりあるのではないか。

 今、北海道や東京都のように有機農業を推し進めようとする自治体が増えている。その施策は、国内外の文献を収集し研究者や農家の意見を聞いたうえでのものなのか。それが気になる。(サイエンスライター 松永和紀)

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